2021年05月14日 17:50 掲載

クルマ 雨のちフェラーリ

雨の日はドラマが起きる。クスっと笑える日常の些細な出来事を、モータージャーナリストの清水草一がエッセイで綴ります。

文・清水草一 写真・フェラーリ S.p.A.

フェラーリ F40

帰路、小雨が降ってきた

 雨の中、クルマで走るのは楽しいものだ。なにしろクルマの中にいれば、雨だろうがなんだろうがはじき飛ばしてくれる。クルマとは、実に頼りになる存在だ。

 雨に強風が加わって嵐になると、クルマが自分を守ってくれている感がさらに高まり、さらに楽しい。この楽しさは、子供の頃、ひとり物置小屋にこもってプラモの戦闘機を「キーン」とやっていた時に近い。なんだかワクワクするのである。

 嵐に加えて雷まで鳴れば完璧だ。クルマの中は、雷に対しても安全地帯。まさに無敵である。クルマさん、ありがとう!

 ただ、雹(ひょう)が降るとまずい。大きな雹にやられると、クルマがボコボコになってしまう。

 以前、クルマのエクボ傷を直すデントリペア職人さんに聞いた話だが、開業してしばらくは、お客がまったくいなくて苦戦した。そんな時、たまたま雹が降って大量の仕事が舞い込み、それをきっかけに店が軌道に乗ったという。「あれはまさに天祐でした」。そして彼は数年後、夢のフェラーリ(中古)を買ったのであった。

 というわけで、フェラーリはクルマ好きの究極の夢だが、フェラーリは雨に弱い。かの名車・フェラーリF40は、F1ドライバーのゲルハルト・ベルガーをして、「雨の日には乗ってはいけない」と言わしめたほど雨に弱い。晴れていても危険なクルマなのだから、ましてや雨が降れば、簡単にスピンしてしまう。

フェラーリ F40

 フェラーリのようなミドシップ(エンジンが車体中央後ろ寄りにあるタイプ)のスポーツカーは、スピンし始めると回転が非常に速い。昔、水を撒いたテストコースで、フェラーリの定常円旋回ドリフトにトライしたが、普通のFR車に比べると、スピン速度が10倍くらい速く感じた。実際は2倍くらいかもしれないが、とにかく一旦回り始めるとコマのように回る。重心が車体中央付近にあるので、滑らかに回転するからだろうか? それとも単に車体後方が重いせいか? 雨の中、スピンしかけたフェラーリを立て直すのは、かなりの経験値が必要だ。

 でも、心配はいらない。フェラーリは、雨が降ったら乗らないのだから。

 世の中に存在するほとんどのフェラーリは、雨なのにわざわざ乗られることはない。だいたいフェラーリというクルマは、雨の中を走ることを想定して作られていない。近年のモデルはそうでもないが、ちょっと昔はそうだった。操縦性が危険なだけでなく、車体中央後方にあるエンジンルームが穴だらけで、雨が降ったらエンジンがずぶ濡れになる。少なくとも90年代までのミドシップフェラーリはみんなそうだ。

 私が最初に買った90年式348tbというクルマは、雨が降るとバッテリーまでずぶ濡れになる設計だった。その後バッテリーの搭載位置を前方に変更したことから見て、そもそも設計が間違っていたようだ。

 そんなクルマで雨の中、わざわざ走るなど自爆行為だ。それは、雨の中オープンカーの屋根を開けて走るのに似ている。ある程度スピードを出していれば、オープンカーのドライバーもフェラーリのエンジンルームもあまり濡れないが、信号で止まったら最後、ずぶ濡れなのである。

 つまり、ミドシップフェラーリを、カバーもかけずに露天駐車場で保管するのは、オープンカーの屋根を開けたまま放置するのと、似たようなものである。だから(?)、フェラーリはまず雨に降られないし、ワイパーを使うこともない。

 私が現在乗っている328GTSの納車日のこと。帰路、小雨が降ってきた。仕方ない、ワイパーを動かそう思ったが、動かなかった。(こりゃワイパーレバーが故障してるんだな)

 フェラーリのワイパーなど誰も動かさないので、故障していても発見されなかったのだろう。そう思い、後日その旨お店で報告したら、まったく問題なく動くじゃないか!

 操作方法が間違っていただけだった。私はレバーを上下に動かそうとしていたが、ツマミを回す方式だったのだ。

 現在の328は、私にとって通算4台目の328だ。同じクルマを4台も乗り継いでいながら、それまで一度もワイパーを動かそうとしたことがなく、操作方法を知りませんでした。

フェラーリ 328GTB

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