免許不要。14歳で運転可能な超小型EV「Ami」が欧州で発売。欧州超小型車事情
14歳から運転可能な超小型EV「Ami」が、シトロエンから発売された。月額レンタルが19.99ユーロ(約2400円)、カーシェアサービスは1分あたり0.26ユーロ(約30円)という低価格で利用できる。欧州で、クワドリシクル(4輪自転車)と呼ばれるこのようなクルマの普及が進む背景とは。
欧州で普及する「免許不要のクルマ」クワドリシクル
シトロエンは、Ami(アミ)という超小型EVを発売した。Amiのような超小型EVは、EU加盟国などの欧州諸国において、クワドリシクル(Quadricycle)というカテゴリーに属するクルマになる。日本の軽自動車とは異なる欧州独自のカテゴリーで、都市の渋滞解消や環境問題として2002年頃に登場し、近年ではEV化されているものが多い。
そしてクワドリシクルは、免許がなくても運転ができる。欧州では講習を受講すれば14歳(一部の国では16歳)からOK。そのためフランスではVSP(voiture sans permis=免許不要のクルマ)とも呼ばれている。フランスは2014年の免許制度変更で、クワドリシクルに免許が不要となった。それにより免許取得前の若者が通学する学校の周辺に、クワドリシクルが縦列駐車されている光景がフランスでは日常化しているそうだ。また若者だけでなく免許を返納した高齢者も運転できる。
都市乗り入れ規制の対象外で、低価格な都市の足
Amiの車体サイズは全長2.41m、全幅1.39m、全高1.52m、車重はバッテリー込みで485kg。乗員は2名で、64リットルのトランクルームを備える。出力が8.2PS(6kW)、航続距離が約70km。220ボルトによる普通充電は約3時間で完了する。ただし最高速度が時速45kmに制限されているため、高速道路や自動車専用道路などは通行できない。
このような超小型車が欧州で普及している理由の1つは、普通乗用車で、平日の日中に都市へ乗り入れすることが規制されているからだ(バスやタクシー、居住者は除く)。都市の渋滞解消の対策として始まった規制だが、クワドリシクルは対象外となっている。都市を走るクルマが2名以上で乗車している割合は高くない。ならば2名乗車に適したサイズへと小型化すれば、利便性を損なわずに渋滞を緩和できるという考え方だ。
クワドリシクルの利用を促すために、都市では専用の駐車場や縦列駐車スペースなどが設けられている。狭い路地に縦列駐車をしても超小型車なので、他の通行に迷惑をかける可能性が低いから、このような措置が取られている。車体が小さいことは運転するドライバーにとっても、狭い路地の運転や縦列駐車がしやすいというメリットがある。
環境問題においてもクワドリシクルは貢献があるとされている。当初はガソリンエンジンを搭載していたが、小排気量だったのでCO2削減につながると考えられていた。近年はEV化することで、CO2削減効果を高めようとしている。
その車両本体価格は、6000ユーロ(約70万円)が最低価格なので、日本の軽自動車(84万円台前後)よりも安い。さらに長期のレンタル契約が初期費用2644ユーロ(約31万円)+月額19.99ユーロ(約2300円)、短期のカーシェアサービスが1分当たり0.26ユーロ(約30円)という価格に設定されている。多くの人が利用できるように、経済面での負担が少ない価格設定となっている。
Amiは3月30日からフランス国内での受注を開始し、6月より納車が始まる。またスペイン、イタリア、ベルギー、ポルトガル、ドイツなどでの展開も予定しているが、日本への展開は予定されていない。予定がないのは、Amiのようなクワドリシクルの保安基準が日本のものと大きく異なるからだろう。そのためクワドリシクルを日本の保安基準に適合させるには、大きな仕様変更が必要になる。
利便性を損なわずに課題を解決する
そもそも2012年に欧州がクワドリシクルというカテゴリーを創設した理由は、自家用車に関するさまざまな社会課題を解消するためだった。
まずは都市の交通渋滞や排ガス問題の解消として導入が始まった。クワドリシクルは超小型車なので、道路を占有する面積が小さくて済む。それによって都市を走行するクルマの台数が同じなら、渋滞の列は短くなる。またエンジンの排気量もダウンされるので、排ガスの排出量削減が期待できる。
その次に免許不要という制度変更を行った。これが免許の取得ができない若者、高齢者や障がい者への交通手段の確保という問題への対策にもつながった。欧州の多くでは慣習として、15歳前後までの子どもを犯罪から守るために、保護者がクルマで学校や習い事などへ送迎することが日常となっている。クワドリシクルが普及すると、14歳以上なら1人での通学が許されるようになり、保護者の負担軽減という副産物も生まれた。
若者だけでなく、公共交通の便が悪い地域の高齢者や障がい者には、近所への通院や買い物などの交通手段として活用された。このように従来の利便性を大きく損なわずに社会課題を解決・緩和できたため、クワドリシクルの普及は進んだ。
都市の渋滞や環境問題、そして誰もが利用しやすい交通手段の確立ということは、日本も抱えている社会課題である。欧州のクワドリシクルは、日本にとっても大いに刮目すべき好事例だと言えるだろう。