ヒートアイランド現象を防げ! 路面温度を下げる2つの舗装技術
都市部が周辺地域より高温化するヒートアイランド現象は、生態系やエネルギー消費などに影響を及ぼす社会問題となっている。ヒートアイランド現象の一因として、アスファルトやコンクリートに覆われた地面の増大が挙げられるが、ここでは、路面の温度上昇を抑え、ヒートアイランド現象を抑制する2つの代表的な舗装技術について紹介していこう。
渋谷駅前のスクランブル交差点。ここにも路面温度を下げる遮熱性舗装が採用されている。
そもそもヒートアイランド現象って何?
田畑や緑地などは雨水を吸収し、晴れて気温が高くなると、地面や空気の熱を奪って蒸発する。また、河川の水も蒸発する際に、空気の熱を奪い気温を下げている。だが、都心部の地面のほとんどは、アスファルトの道路やコンクリート製の建物に覆われており、河川なども護岸工事によってコンクリートで囲まれていたり、埋め立てられ地中化されていることも多い。
このように緑地や水面が減ってしまうと、地面や空気の熱が奪われずにこもったままになってしまい、夏になるとアスファルトやコンクリートが夜まで熱をため込んだままになってしまう。これがヒートアイランド現象だ。
一般的なアスファルト舗装の路面は、夏季に日射を受けると表面温度が60℃程度にまで達し大気を加熱すると言われている。日中に都心部の舗装面に蓄えられた熱は、夜間の気温低下を妨げヒートアイランド現象を起こす。このような状況を改善するために誕生したのが、今回紹介する2つの舗装技術だ。
ひとつは雨水などの気化熱を利用する「保水性舗装」。もうひとつは、太陽光の近赤外線を高効率で反射する「遮熱性舗装」と呼ばれているものだ。
水分を蓄えて温度を下げる「保水性舗装」
保水性舗装とは、舗装体の中に蓄えられた水分が蒸発する際に路面の熱を奪うことで、路面温度の上昇を抑制する性能を持つ舗装となっている。
保水性舗装の機能(イメージ)
上の図は保水性舗装のイメージ。雨天や散水時に道路に水分が吸収され、晴天時にそれが蒸発することによって路面の熱が奪われて温度が下がる仕組みだ。(画像提供:路面温度上昇抑制舗装研究会)
保水性舗装の施工の際には、まず雷おこしのように粒の粗い「開粒度タイプアスファルト」というものが敷き詰められる。その後、アスファルトの隙間となる部分にセメントと水を練り混ぜた「保水性セメントミルク」と呼ばれている保水材が注入され、これが水分を保つという仕組みだ。
保水性舗装の断面(イメージ)
保水性舗装の断面のイメージ図。アスファルト上層の3~10cmの間に保水性のある特殊な素材が敷き詰められている。(画像提供:路面温度上昇抑制舗装研究会)
保水性舗装の効果
舗装面に保たれた水分が蒸発し、気化熱で路面温度の上昇を抑制することで、夏季の日中では、一般のアスファルト舗装と比べて路面温度が10度から20度下がるという。
保水性舗装は、夏季の路面温度測定例から、一般のアスファルト舗装に比べて路面温度が低いことがわかる。この測定例では、約14℃の路面温度上昇抑制効果が実証されている。(データ提供:路面温度上昇抑制舗装研究会)
太陽光を反射して路面温度を下げる「遮熱性舗装」
遮熱性舗装とは、太陽光に含まれる赤外線を反射させることで、舗装路面の温度上昇を抑制する舗装のこと。
具体的には「遮熱性塗料」と呼ばれる特殊な塗料を舗装の表面に塗ることで、太陽光に含まれる目に見えない近赤外線を反射し、路面の蓄熱量を低減させることができる。この特殊塗料には、再帰性反射材が含まれており、特殊塗料と再帰性反射材それぞれが太陽光を跳ね返す。
遮熱性舗装の断面(イメージ)
左図の上部、青い部分が遮熱性塗料のイメージ。右図は遮熱性塗料の断面をさらにクローズアップしたイメージ図だ。(画像提供:路面温度上昇抑制舗装研究会)
遮熱性舗装の効果
遮熱性舗装は一般のアスファルト舗装(密粒舗装)に比べ、夏季における昼間のアスファルト舗装の路面温度を最大で10度以上低減することが可能だ。
上の路面温度測定例では、一般の舗装に比べて遮熱性舗装の方が、路面温度が低いことが分かる。この測定例では、約10℃の低減が実証された。(データ提供:路面温度上昇抑制舗装研究会)
保水性舗装と遮熱性舗装の使い分けは?
これまで、2つの路面温度上昇抑制舗装を紹介してきたが、いずれも一般的な車道や歩道をはじめ、駐車場、広場、遊歩道などのあらゆる路面に施工することが可能だという。では、これらはどのように使い分けがされているのだろうか。また、それぞれにメリット・デメリットなどはあるのだろうか。道路の施工と舗装を手掛ける多くの企業が会員となっている路面温度上昇抑制舗装研究会の辻井氏に話をうかがった。
保水性舗装の用途とメリット
保水性舗装は、舗装内に水分を含ませることで温度の上昇を抑制する。打ち水をイメージするとわかりやすいと思うが、気化熱で涼しさを感じさせる効果は、人が通る場所でこそ体感できるものであるため、保水性舗装は商店街や遊歩道などで施工されることが多い。
また、保水性舗装の効果は長くても3日程度。晴天が続く日には水を撒いたりしなければ効果が発揮できない。多くのクルマが走行する幹線道路や国道では、晴天が続いたからといって頻繁に散水することも現実的ではないため、保水性舗装よりも遮熱性舗装がメインで採用されるという。
遮熱性舗装の用途とメリット
遮熱性舗装は、 路面に特殊塗料を塗布することで施工できる。そのため、既存の排水性・透水性舗装などにも適用することが可能だ。排水性舗装の路面に後から追加で施工することができ、排水性機能を保ちながらも、路面温度の上昇を抑制することができるのも大きなメリットだ。
遮熱性舗装は塗料に着色することもできるため、施工メーカーによっては景観にマッチした色や視認性の向上に対応したカラーバリエーションが用意されている。
遮熱性舗装はメーカーによっていくつかのカラーバリエーションが用意されているケースもある。(撮影協力:大成ロテック株式会社)
意識して路面のアスファルトを見てみると、彩色された舗装路が増えてきたことに気づくだろう。これらの多くは機能性舗装だという。
また遮熱性舗装には、もうひとつの意外なメリットがある。それは舗装本体の温度上昇を抑えることで、舗装の変形を抑制するという効果があることだ。アスファルト舗装はもともと熱に弱く、長い間高温にさらされると柔らかくなり、わだちができて舗装路面の耐久性も低下してしまう。遮熱性舗装はアスファルト舗装の耐久性にも一役買っている。