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ライフスタイル最終更新日:2023.04.30 公開日:2023.04.30

【フリフリ人生相談】第407話「夫がちっともホメてくれない」

登場人物たちは、いいかげんな人間ばかり。そんな彼らに、仕事のこと人生のこと、愛のこと恋のこと、あれこれ相談してみる「フリフリ人生相談」。 人生の達人じゃない彼らの回答は、馬鹿馬鹿しい意見ばかりかもしれません。でも、間違いなく、未来がちょっぴり明るく思えてくる。 さて、今回のお悩みは? 「夫がちっともホメてくれない」です。 答えるのは、いつも旦那にホメてもらってそうな由佳理です。

松尾伸彌(ストーリーテラー)

【フリフリ人生相談】第407話「夫がちっともホメてくれない」|くるくら

画=Ayano

ホメられ上手、ホメ上手。

今回のお悩みは、どこにでもありそうな内容です。
30代の主婦からの相談━━。

「結婚して7年になります。ずっとやさしい人だと思っていましたが、気づくと、このところ夫がまったく私のことをホメてくれません。髪型を変えても洋服を買っても、まったく気づかない様子です。そのことで夫に文句を言ったら、きみだってぼくのことをホメないじゃないかと言われ、ちょったしたケンカになってしまいました。どうしたらいいですか。いまでも腹が立っています」

「旦那が妻をホメない問題」です。男にしてみれば、結婚して7年もたてば、そんなこといちいち口に出さない、みたいな気持ちになるのはわかる気がします。で、文句を言ったら旦那も「きみだってぼくをホメない」と指摘された、と。
気持ちはいっしょだったってことですが、なぜか、ここの夫婦はケンカになってしまいました。
きっと、互いに日ごろから小さな鬱憤がたまっていたのでしょう。

さて、この問題を誰に相談するか━━。

ふと由佳理の顔を思い浮かべたのですが、きっと彼女は旦那にホメられっぱなしに違いありません。あまり参考にならないかなと思ったのですが、連絡してみるとちょうど銀座でお買い物らしいので、いつものホテルのラウンジで会うことにしました。

「松尾さん、ひとつ、聞いていいですか」
と、今回の悩みを相談するなり、由佳理が私に言いました。
「なに?」
「この悩みを誰に持っていくかって松尾さんが決めてるんですか」
「まぁそうだね」
「ってことは、今回の悩みを私にって考えたのも松尾さん?」
「そういうことだね」
どこかで由佳理の機嫌をそこねてしまったのではないか、と、私はあれこれと頭をめぐらせてしまいました。電話での依頼の仕方? 彼女の都合? そもそもこの悩みを持ちかけたのが間違い?

すると、由佳理がほんわかと笑ったのです。
「さすがですね」
「へ?」
「いつもお悩みを聞くたびに、そんなの私には答えられないって思ってたんですけど、今回のは、答えられそうな気がするんです」
「おお、それはよかった」
「っていうか、ちょうど私も、同じこと考えてたっていうか……」
「そうなの?」
とりあえず、高級ホテルのラウンジで由佳理に叱責される事態は回避できたようです。

安堵している私に向かって、由佳理は言いました。

「うちの旦那さんは……松尾さんもご存知だと思うんですけど、ずっと、私のことをホメちぎってくれるんです」
「まぁそうだろうね」
私は深くうなずきました。
「だから、このお悩みの人とは違うんですけど、いつもあまりにしっかりホメてくれるから、なんでかなって思ったことがあって……」
「ほほお」

なんでかなってこともなく、由佳理は男なら誰だってホメたくなる女ってことじゃないの? と、言いかけて、私は言葉を飲みこみました。それってただのルッキズム(外見至上主義)ではないか、と、気づいたのです。かわいい女性だからホメるっていう結論になってしまうのは違うわけですね、きっと……。

「旦那さんにはホメてもらってるけど、そう言えば、私、彼のことをホメてるかなって思ったんですよ」
「ほほお」
今回の相談者とは違い、由佳理は旦那に指摘される前に自分で気づいたってことですね。

「それで言ったんです。私のこといっぱいホメてくれるけど、そう言えば、私、純一さんのことホメてないかも……って」
「ほほお」
「そしたら、彼、ちょっと困ったような顔して、ぼくにはホメられるところなんて、なにもないでしょって……」

私は、Mr.オクレそっくりの高橋純一の顔を思い浮かべつつ、悲しいけど、そのとおりだろうなぁと思ったのです。が、それもまたルッキズムってことです。ぶさいくな男はホメてもらえないっていうのは、やっぱり、まずい。見た目だけではなく、高橋純一にもいいところはたくさんある、はずです……知らないけど。

ホメるには、コツが必要

「でも、でもね、松尾さん」
どういうわけか、由佳理は泣きそうな顔で私をにらむようにするのです。そんな顔されても……と思いつつ、私は黙ってうなずくしかありません。

「うちの旦那さん、会社の人からもホメ上手って言われてるんですよ。とにかく、まわりの人をホメるのがうまいんですよ、ほんとに……」
由佳理の目がうるうるしています。

おいおいおい。こんなところで泣かないでくれよと思いつつ、私は必死で言葉を探しました。
「ええ話や」
いい話かどうかはべつにして、泣いたりしないで話を続けてほしいという思いです。それが通じたのか、由佳理は、自分の涙を吸いこむような顔つきで笑顔を浮かべました。

「それで、聞いたんですよ、純一さんに。人をホメるコツはなに? って」
「ほほお」
「そしたら、彼……コツなんてないよ、とにかく、パッと思いついたら、ホメる。むずかしく考えないで、とにかく、いいと思った瞬間に言葉にするんだよって言うんです」
「ほほお」

さっきからずっと「ほほお」しか言ってないですが、なんだか、今日の由佳理は実に感心できる話をしてくれちゃってるってことですね。

むずかしく考えないで、いいと思った瞬間に言葉にする━━これが、ホメ上手な高橋純一の教え。いいじゃないですか。

「いいと思った瞬間に言葉にする、か……」
と、思わず、私は声に出して言ってました。
「そうなんです。ホメるには反射神経が必要ってことです。なるほどって私はすごく納得して、それから、やってみようと思ったんですけど、意外にむずかしいんですよ、これ」
「そうなの?」
「っていうか、旦那はかんたんに、いいと思った瞬間って言うんですけど、それがなかなか見つからないんですよ。ふだんからホメる精神状態にないってことかもしれないですよね」
「なるほど」

「なので、私、話をするときに、ホメようと思いながら相手と接するようにしたんですよ」

確かに、相手のことをホメようとしながら話すことって、ないかもしれません。
なので、あえて、ホメるつもりで身構えるってことですね。

「するとね、少しずつですけど、できるようなってくるんです。そのシャツの色いいね、とか、きょうは顔色がいいね、とか、すごく元気そうとか……最初はそういう無難なところしか言えないんですけど、そのうち、だんだんわかってくるんですよ、やさしい言いかたしてくれたな、とか、ちゃんと私のことを考えてくれてるな、とか……」
「なるほどね」
由佳理が高橋純一のことをやたらとホメているところを想像して、なんだかノロケを聞いているような気がしつつ、私はちょっぴりほほ笑ましい気持ちにはなっていました。

「そういう心構えでいると、どんどん仲よくなれるってことだよね」
「そうなんです」
と、うれしそうな由佳理です。
これは間違いなくノロケ、ですね。

「するとね、ほかの人と会ったときにも、パッといいところが見つかるようになるんですよ。女って、ピアスとかネックレスとか、そういうアクセサリーにはすぐに目がいってるんです、前から。でも、なかなかホメたりしないじゃないですか、皮肉だと思われたらイヤだな、とか……でも、気づいた瞬間にすぐに言葉にすると、言えちゃうもんなんですよね。きれいな色ねとか、似合ってるね、とか……すると、相手もすごくうれしそうな顔になるんです」
「…………」
「髪型とか洋服、メイクとか、あとはちょっとした仕草とか、言葉づかいとか……ああ、私はずっとそういうの見て見ぬふりしてたな、っていうか、気づいても言葉にしなかったなって思って……でも、ホメるコツは瞬発力だって気持ちでいると、どんどんその人のいいところが目につくようになって、言われたほうもうれしいだろうし、こちらも気分がよくいられるっていうか……」
「なるほど」

由佳理は、ママ友たちと会ったときとか、自分の娘の花子ちゃんのこととか「瞬発力でホメる」事例について、いろいろと話してくれました。

最初は「照れ」とか「ためらい」があるけど、瞬発的に言葉にすることを心がけるうちに、自分でもホメ上手になっていくことが実感できるようになる、と。

「なるほど」
「だから、今回のお悩みの人も、ホメてくれないって嘆く前に、相手のことをどんどんホメちゃえばいいんですよね。どうしてホメてくれないのかって責めたてるとケンカにもなりますよ。だから、お互い、むずかしく考えないで瞬発力でホメる……これが大切だと思うんですよ」

「ホメる」の逆にもコツがある

「ホメるコツは、瞬発力」

とてもよくわかりました。
ふだんから「ホメよう」と心がけるということは、観察力を磨くということです。相手の表情、言葉、視線、仕草、洋服、アクセサリー、などなど、しっかりと聞いたり見たりしてないと上手にホメられません。

「でもさ……」
と、私は、気になっていたことを口にしました。
「由佳理がそうやってホメ上手になったのは、よくわかった。旦那さんとも友だちとも、とてもいい関係になった……それはいい、すばらしい」
「ありがとうございます」
「でも、ちょっと気になるのは、さ」
「…………」
「ぼくはちっともホメてもらってない気がするんだけどね」
「松尾さんを?」
由佳理はすごく驚いたような顔で私を見ました。

「そう、松尾さん……おれのこと、ホメてくれたことある? いや、べつに無理にホメろって言ってるわけじゃないけどさ」
「…………」
由佳理は、ふいにふつうの顔になって、少しだけ首をかしげつつ言いました。

「純一さんが言うには、ホメるときはすぐに口にするのがいいんだけど、反対に、欠点を指摘するとか、改善すべき点を言うときには、じっくりと考えて伝えないといけないよって……」
「は?」

なにそれ?
私に対しては、ずっと「欠点を指摘しよう」と思って時間をかけてるってことですか?
そうですか、そうなんですか……。

私は、なにも言えずに由佳理を見つめるしかありません。口もとが引きつっているのが自分でもわかります。

とかなんとか言って、ペロリとかわいい舌でも出して、「冗談ですよ、松尾さんってほんとに……」とかなんとか、いろいろとホメてくれると思ったのですが、由佳理は素知らぬ顔でティーカップを指先で持って、微笑を浮かべるだけなのでした。


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