2021年11月28日 10:40 掲載

ライフスタイル これぞプロ魂!自転車ロードレースを支えるニュートラルカー

自転車競技のロードレースには、選手をサポートするための「ニュートラルカー」という車両があることをご存じだろうか。1990年に日本で開催された世界選手権ロードレース(宇都宮)から30年以上も自転車競技をサポートし続けるシマノのニュートラルカーをご紹介しよう。

くるくら編集部 海野 亜矢子

ニュートラルカーの役割は?

第89回全日本自転車競技選手権大会 ロードレース 写真=Makoto AYANO/cyclowired.jp

第89回全日本自転車競技選手権大会 ロードレースの様子 写真=Makoto AYANO/cyclowired.jp

 自転車競技のロードレースにおいて、なくてはならない"車"がある。レース中の選手に帯同して走行する車両、ニュートラルカーだ。ニュートラルカーは、自転車の故障やトラブルが発生した際、代替えの自転車や部品交換などを速やかに行い、選手が自転車の故障によるリタイアや、不利な状況になってしまうことを防ぐために、参加している全選手をサポートしている。

 一般的に自転車ロードレースは長距離を自転車で競走する競技で、なかには100㎞以上走り続けるレースもある。その距離を自転車で戦うとなれば、当然パンクなどのトラブルが発生することが想定される。そのため、レース中はたいてい参加している各選手の所属するチームカーが帯同しており、選手のエネルギー補給やトラブルが発生した際のサポートを行う。しかし、チームカーが帯同しない場合や、選手がチームカーを持っていない場合、あるいは選手の近くにチームカーが走行していない場合は、レースにもよるのだが、ニュートラルカーの出番となる。

車両には何を載せているの?

 ニュートラルカーには、基本的に代替えの自転車とホイール(車輪)、工具が積まれている。しかし、ただ積まれているだけでは迅速なサービス提供は難しい。きっとなにか秘密があるのだろう...。シマノでマーケティングを担当している仲田氏と、テクニカルサポートをしている今井氏に話を訊いた。

仲田氏(右)と今井氏(左) 写真=シマノ

シマノの仲田氏(右)と今井氏(左) 写真=シマノ

 きれいなシマノブルーにラッピングされたレヴォーグ。その上部には自転車とホイールを載せるためのキャリアが付いている。このキャリアは海外製の特注品で、世界三大スポーツイベントのひとつである、ツール・ド・フランスで走行している、車種の異なるシマノのニュートラルカーと基本的に同じ設計。そこからレヴォーグに合うように寸法などは調整され製作されている。またホイールを止める部分はすぐに取り外しができるように作られており、最大で自転車6台とホイール4本が積載可能だ。

 車のラッピングも、かっこいいだけではない。レース中の選手が「ニュートラルだ」と、すぐに区別ができるようにしているのだ。実際にシマノのニュートラルカーは、全てシマノブルーの青色で統一されている。

ニュートラルカーのキャリア部分

ニュートラルカーのキャリア部分

車両だけでなく、積載する自転車のフレームもシマノブルーで統一されている

 車内はとてもシンプル。無線機が取りつけられており、シートバックポケットに工具がきれいに収納されていた。

 しかし、レース中の車内はホイールだらけになる。後部座席では、運転席のシート後面を利用して、ホイールを座席に逆三角形の状態で積載し、使用時は上から取って持ち出す。並べた方がたくさん載せられるのに、一体なぜ、逆三角形なのだろうか。

 「持ち出しやすさもあるのですが、ロードレースは勾配やカーブが続くコースも多く、レース展開によっては、そこをかなりのスピードで走らなければならないこともあるのです。丸いホイールは車内ではとても不安定になってしまう。そこで逆三角の形で積載しておくと、タイヤのグリップが効いて滑りにくくなるのです。」

 長年の経験から誕生したアイディアなのだろう。細かい配慮は、1秒を争うレースで必要な工夫である。

工具はシートバックポケットにまとめられていた。これなら揺れる車内でも無くすことはないだろう

シートバックポケットにピタッとまとめられた工具。これなら揺れる車内でも無くすことはないだろう

どうやってすべての選手をサポートしているの?

 冒頭で、参加者全員をサポートしている車両と説明したが、選手ごとに乗っている自転車のサイズもメーカーも異なるのに、果たしてどうやって満遍なくサポートしているのだろうか。

 「ロードレースの場合、殆どのトラブルはパンクです。選手の自転車と積載しているホイールの互換性があれば交換しますし、互換性が無ければ自転車ごと交換することが多いです。万が一、パンク以外のトラブルがあった場合も、レース中に修理している時間はないので、代わりの自転車を提供します。」

 方法はシンプルで、とてもわかりやすい。確かにこれならば全員をサポートすることが可能だが、実際に走っている選手の自転車サイズや互換性があるかどうかなど、瞬時に判断が付くのだろうか。

 「事前にエントリーリストを見て、選手が使用する自転車のパーツやサイズなどを確認しています。その情報をもとに、当日、車両に積載する自転車やホイールのサイズや数を決めているのです。例えば、高校生のレースだったら、使用率の多いS~Mサイズの自転車、海外選手が出場する場合はLサイズ以上の自転車など、レースごとに変更しています。また、最近はタイヤ幅のサイズが増えてきていますが、中間のサイズを用意することで、細い幅にも太い幅にも極力対応できるようにしています。」

 積載方法も、キャリアから降ろしやすい助手席側に使用頻度の多いサイズの自転車を載せるなど、サポートにかかる時間の短縮につながる工夫がされていた。

 あくまで代替え用の自転車なので、選手ごとサイズがピッタリ!とはいかないが、選手がレースにすぐに戻れるよう、予め情報収集をして準備を怠らないことが選手全員をサポートできる重要なポイントなのだ。

第89回全日本自転車競技選手権大会 ロードレース 写真=Makoto AYANO/cyclowired.jp

第89回全日本自転車競技選手権大会 ロードレースの様子 写真=Makoto AYANO/cyclowired.jp

ところで運転手は何者!?

 車両と積載の工夫はわかった。ところで車を操るドライバーは、いったい何者なのだろう。

 「車に乗っているスタッフは日本自転車競技連盟の公認ライセンスを保持しているメカニックです。」

 そう話してくれた今井氏は、元自転車競技の選手。レースを熟知している今井氏は、レース運営になくてはならない存在だ。ニュートラルカーのドライバーは、走行している選手はもちろん、路上で応援している歩行者や報道バイク、チームカーなどに注意しながら、レース展開と選手のスピードに合わせて車の速度を調整し、トラブル発生時は素早くサポートをしなくてはならない。運転をするだけではなく、レースを読む力、技術、経験と瞬時の判断力が必要なのである。

ロードレースファンの間では「シマノカー」と呼ばれることも 写真=Makoto AYANO/cyclowired.jp

ロードレースファンの間では「シマノカー」と呼ばれることも 写真=Makoto AYANO/cyclowired.jp

ロードレースを支えるシマノテクニカルサポートのみなさん 写真=Makoto AYANO/cyclowired.jp

ロードレースを支えるシマノテクニカルサポートのみなさん 写真=Makoto AYANO/cyclowired.jp

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