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クルマ最終更新日:2019.12.12 公開日:2019.12.12

最近見かけなくなった? 車にしめかざりを付ける意味とは。

正月に玄関にしめかざりをかざると、気持ちが引き締まった気がする。そういえば昔は車のフロント部分に付けられたしめかざりも見かけたが、最近ではほとんど見かけなくなった。しめかざり研究家の森須磨子氏にしめかざりと車の関係を聞いてみた。

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最近では車のしめかざりはあまり見かけなくなった。

正月には欠かせないしめかざり、その意味は?

しめかざりには

©あんみつ姫 – stock.adobe.com

 日本の正月の風景に欠かせないのが、玄関先に飾られるしめかざりだ。扇やダイダイ、エビなどの縁起物は色鮮やかで、気分も正月らしい晴れやかなものになる。でもそういえば、しめかざりを飾る意味はあまり深く考えたことがなかった。一体、どのような変遷があるのだろうか? 
 20年近く全国各地のしめかざりの調査し続け、著書も手がけているしめかざり研究家の森須磨子氏に、しめかざりの持つ意味や風習を伺ってみると、なんと「車にしめかざり」の背景も見えてきた。

一年分の “感謝” を込めて。

女性が日常的に使用する鏡台にしめかざりを飾る風習もあった。

©sunabesyou – stock.adobe.com

 しめかざりとは神道などの宗教を背景としていると思われがちだ。実際、神社などへ行けば立派なしめ縄を目にしたり、社務所ではしめかざり的なものが売っていたりする。
 しかし森氏に尋ねてみると、必ずしもそうとは限らないと言う。
 「しめかざりには『これが正しい』という由来や意味はないと考えています」
 これは、どういうことだろうか。
 「神様をお迎えする飾りである、という意図ももちろんあったと思います。しかし、そういう宗教的な意味合いよりも、日本人の生活の中での慣習、風習としての意味合いも強いのです」
 昔はしめかざりを神棚だけではなく、玄関や鏡台、かまどなどに飾ってきた。しめかざりを飾るという行為は、そういうモノへの感謝の意味が込められていると解釈できる。しかし近年、しめかざりのそういう本質的な精神は置き去りにされ、由緒の正しさや格式の高さなど難しい印象が先に立ち忌避されてしまう傾向にある。そうではなくもっと気楽に考えて、しめかざりの精神を大切にしてほしいと森氏は言う。
 例えば仕事でパソコンを日常的に使う人は、パソコンにしめかざりを飾って感謝の気持ちを表す。スマホの充電トレイにしめかざりを飾るのもありだろう。身近なモノへの感謝をこめる。しめかざりとは、本来そういうものであると森氏に教わった。

「車にしめかざり」の現代事情。

車のデザインによってはしめかざりが付けにくい事情もある。

©Amphon – stock.adobe.com

 さて、身近なモノへの日ごろの感謝をしめかざりに込めるという本来の意味を知ると、「車」に「しめかざりを飾る」というのも、車に対する感謝の表れと捉えることができると思えた。
 昭和半ば、高度経済成長期に突入し世間にはモータリゼーションの波も押し寄せた。憧れであった車のある生活は大衆のものとなり、そして車は我々の生活に欠かせない存在ともなった。そんな憧れであった車が自分のものになった時、フロント部分にしめかざりを飾り感謝を表す風習として根付いたのではないだろうか。
 対してそんな車のしめかざりを近年あまり見かけなくなった理由には、昔に比べて車を個人が所有しやすくなり特別感が薄れてきてしまったということがあるのかもしれない。そして、今では移動の自由を提供してくれるのは自家用車だけでなく、レンタカーもカーシェアもある。自由な移動を提供できるのが個人所有の車だけであった時の、特別な存在感が薄れてきたから、とも考えられる。
 我々の生活を便利にしてくれる車が、当たり前の存在になることはありがたいことではあるが、車にしめかざりを飾らなくなった昨今の流れはなんだか寂しく感じられる。
 このまま車にしめ飾りを飾る風習が廃れていってしまうのだろうか。
 森氏に尋ねてみると、おそらくしめかざりそのものが完全に消えてしまうことはないだろうと言う。そして、最近は車内に吸盤で付ける小さいサイズのしめかざりが売れているらしい、とも教えてくれた。
 そういえば、最近の車のデザインはフロントグリルが無いものが増えてきている。それにフロントセンサーも付いている。もしかしたらフロント部分にしめかざりを付けることは、デザイン上難しくなってきているのかもしれない。
 そう考えて、通販サイトで車につけるしめかざりで1,000円前後の手頃な価格のものを調べてみた。すると、20商品のうち実に約半数が吸盤タイプだった。
 こうした吸盤タイプやミニサイズのしめかざりが増えてきているのは、車内にしめかざりを飾るドライバーが増えたことを表しているのだと思える。
 一見しては分かりにくくなったが、今の時代の流行や事情に合わせて、車にしめかざりを飾る風習は我々の生活の中にまだ残っているようだ。

 そういえば、インタビューで森氏は1年間何にお世話になったのだろうかと考えることは、自然とその年を振り返ることになると言っていた。1年の感謝をこめてしめかざりを飾ることは、その年を振り返ることにもなるのだ。そしてそれは、きっと新しい年への志にもなるはずだ。
 時代が移り変わっても、我々の暮らしはいつだって “モノ” が支えてくれている。
 今年を振り返ってみて、車があったから実現できたことはなんだろうか。なかったらどんな一年になっていたのだろうか。
 この正月には、そんなことを振り返りながら「車にしめかざり」を飾る正月を提案したい。

森須磨子
1970年生まれ。グラフィックデザイナー・しめかざり研究家。
武蔵野美術大学の卒業制作がきっかけで「しめかざり」への興味を深める。20年以上、全国各地のしめかざりを調査、収集したしめかざりは300点にのぼる。
著書に「しめかざり-新年の願いを結ぶかたち」(工作舎)、「しめかざり(たくさんのふしぎ傑作集)」(福音館書店)がある。

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