2019年03月01日 00:14 掲載

ライフスタイル クルマの開発者に必要な、意外な4つの素質とは?【魂の技術屋、立花啓毅のウィークリーコラム9】

クルマの開発者に必要な、4つの素質とは?「若い人のほうがクリエイターとして秀でている。そう考える風潮はどうかしている」。マツダでユーノス ロードスターやRX-7を開発してきた立花啓毅氏はそう語る。人はインプットがなければアウトプットできないのだ。たとえ天才でも。ヒット車を数々手掛けてきた立花氏が考える開発者に必要な素養とは。

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立花啓毅

「若い頭で考えたほうがクリエイティブだとするのは尚早だ。蓄積があってこそ、人の能力は飛躍する」そう立花啓毅氏は断言する。かつてマツダでユーノス ロードスターやRX-7などの名車を手掛けてきた立花氏が、インプットとアウトプットの重要性を説く。

 日本の新車発表会でよく耳にするのが「このクルマは、我々のような年寄りは口を挟まず、若い人の感性に任せました」というセリフだ。どうも日本ではクリエイティブなことは、若い人の方が得意とする風潮がある。

 脳というのは、インプットがなければアウトプットもない。酸いも甘いも含めた経験(インプット)を積めば積むほど、アウトプットは奥深いものになる。そうしたインプットがないと、表層的で薄っぺらなクルマになると私は考える。

 恐らく脳は、まるで碁盤の目のようになっていて、そこに今までの経験がインプットされる。経験を積むと、この碁盤の目が詰まっていき、そこに新たな情報がインプットされると、一瞬にして過去の情報と結び付き、人と違う発想が生まれるのではないだろうか。経験があれば新たなインプットがなくても、何かの瞬間に過去の情報同士が連鎖反応的に結び付くことがある。いわゆる「天啓」のようなもので、新たな発想が生まれる瞬間を実感する。

天才だって悩んでいた

 かのパスカルも難問の数学が何日経っても解けず「今日も成果なしか」と落ち込んで帰路に着いた。その帰りの馬車のステップに足を掛けた瞬間、天啓が降りて、難問が解決できたという。天才の脳の中でも、過去の情報が連鎖反応的に結び付いた瞬間がある。

 この天啓について、数学者の藤原正彦教授は 「天啓は豊富な知識力と情緒力という文化がなければ生まれません。論理的に正しいことは誰にでも言えますが、正しい論理が幾つもある中でどれを選ぶかは、その人の情緒にかかっています」という。全てが論理的であるはずの数学でさえ「豊富な知識力」と「情緒」すなわち「人の器」によって全く違う答えになるという話だ。

 モノ作りも情緒性が多く求められるわけで、人としての「器」「文化度」が同じように問われる。海外ではデザイナーやクリエイターに熟練の年配者が多いのはそういうことだろう。

クルマの開発に必要な4つの素養

 私は、開発者がクルマを作るのに必要な条件を次の4つのように考えている。

 まずは「涙もろい」ことだ。涙もろいということは、感情が豊かなことに繋がる。次は「クルマが好き」なことだ。クルマに愛情がなければ、絶対に人が感動するものは作れない。本人もクルマを作ることが楽しいのだから、脳は活性化し次々に知恵を出す。3番目が「手に油」していることだ。これは、子どもの時の工作の経験などを含めて、掌を通して自然にモノの美しさを熟知し、同時にモノの構造や原理を考えてきたということだ。そして最後は、「論理的な思考力」である。

 この一見単純に見える「4つに秀でた人の感覚」こそが、クルマの開発者としてもっとも正しい本質を持つと考える。経験というインプットを持ち得て初めて、人はクリエイティブになっていく。

立花 啓毅 (たちばな ひろたか):1942生まれ。商品開発コンサルタント、自動車ジャーナリスト。ブリヂストン350GTR(1967)などのスポーツバイク、マツダ ユーノスロードスター(1989)、RX-7(1985)などの開発に深く携わってきた職人的技術屋。乗り継いだ2輪、4輪は100台を数え、現在は50年代、60年代のGPマシンと同機種を数台所有し、クラシックレースに参戦中。著書に『なぜ、日本車は愛されないのか』(ネコ・パブリッシング)、『愛されるクルマの条件』(二玄社)などがある。