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ライフスタイル最終更新日:2016.10.13 公開日:2016.10.13

第1回 富山に「和菓子のプチフール」を訪ねて ●とこなつ

全国に数え切れないほどある、昔ながらの和菓子と日本風に独特の個性を持つ渡来のお菓子。様々なお菓子は、その土地の歴史の表れであり、長く続いてきた暮らしを垣間見ることができる、身近でおいしい生活文化の一つ。そんな日本のお菓子を訪ねます。

初回は、富山県の小さなお菓子をご紹介しましょう。洋菓子で言えばプチフール、わずか3cmの「とこなつ」は、高岡のみならず富山を代表するお菓子。印象的な菓銘は、越中国司・大伴家持(おおとものやかもち)の歌に因(ちな)んだと言われ、今では希少になった白小豆の餡を求肥(ぎゅうひ)の生地で包んで和三盆糖で仕上げてあります。立山の雪に見立てたという和三盆糖はごく細かく、滑らかに餅生地を覆っているので、口に入れると白小豆の餡と一つになる穏やかな食べ心地。たった一つで満足できるのですが、人が集まった時などは小さなマドレーヌと一緒に盛ると、和とか洋とかを意識することなくおいしい、和菓子の領域を超えた取り合わせにもなります。和菓子の材料の中でも、白小豆は生産量も少なく高価ですが、「とこなつはこの白小豆あってこそのお菓子」と、大野屋9代目の大野隆一さんが話してくれました。

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●とこなつ本舗大野屋
富山県高岡市木舟町12 ℡0766・25・0215
【営】8:15~19:30(日祝は19:00)
【休】水曜(祭日を除く)
「とこなつ」1個74円、6個入り540円~。日持ち7日間。地方発送可。

大野屋の店内には、とこなつの他にもたくさんのお菓子が並んでいます。丸く微笑ましい風情の「田毎(たごと)」、和菓子店では珍しい「月餅」。その他にも、昔ながらの貝や花、宝尽くしの小さな木型で抜いて、美しい意匠のパッケージに包んだ「高岡ラムネ」など、様々な味わいの小振りなお菓子がいろいろ。
「田毎」とは、連なる水田に映り込む月を表した言葉ですが、まん丸に照り映えるお月様を模しているだけあって、満月のような腰高で見事に丸い姿です。中には、黒砂糖を加えた固めの食べ応えのある小豆餡が。皮は見た通りにこんがりと焼き上げられた、こちらもしっかりとした食感です。ひとつぽんと置いただけで、お皿の上で何とも存在感があっておいしそう。
月繋がりで「月餅」も満月のようなお菓子です。中国の重陽の節句には欠かせない月を象(かたど)ったお菓子。食べてみると、いわゆる中華菓子よりさっぱりした感じの、くるみとごまの香ばしさがいろんなお茶に合いそうな風味です。聞けば、やはり油分は控えめだそうで、和菓子屋さんの月餅ということに納得。昔からの町のお菓子屋さんのお馴染みの風景は、和菓子の傍らに洋菓子のショーケースがあることですが、ここ大野屋も同様にスタンダードな洋菓子が並んでいます。この風景、私にはとても興味深く、お菓子屋さんの、地域の人達に楽しみを提供する役割を感じます。

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さて、この界隈は昔の商人の町の風情が残っている地域です。土蔵造りの町並みは、17世紀に建城された加賀藩の隠居城にともなって作られた城下町の名残。
明治の大火によって6割が焼失し、防火建築物である土蔵造りの町並みとなったわけですが、ふと覗くと、隣家との境目の煉瓦の防火壁が堅牢な佇まいで美しく、和風の建物の中に洋風がミックスされて、明治の時代性を感じます。

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氷見へ

高岡市から富山湾に沿って西へ行くと、隣は氷見(ひみ)市です。氷見といえば漁港、私の富山湾のイメージは巨大な生簀(いけす)のようなものなのですが、そこから新鮮な魚が水揚げされるのが、氷見漁港です。
朝ごはんを食べに向かってみると、すでに競りは終って構内はひんやりと人気もまばら。観光客の見学も多そうな氷見漁港の周辺は、晴れた日には海の向こうに立山連峰が見えるビューポイントでもあります。

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漁港から少しだけ町の内側に入った、住宅地の一角に柿太(かきた)水産があります。家族で営む小さな水産加工の会社で、訪ねると、味見をしつつ販売も可能だそう。氷見産にこだわる加工品の話をしてくれたのは、白衣を着ててきぱきと働くお母さんの柿谷悦子(かきたにえつこ)さんと、食育活動にも熱心な娘の柿谷政希子(せきこ)さんです。
最近では貴重な、無添加の煮干しや干物は何とも滋味深い味わい。そのままほんの一瞬炙れば、酒呑みには嬉しい肴に、氷見産のいわしを丸干しし、ぬか床で熟成した「こんか漬」などは、お酒だけでなくご飯にもおいしい伝統食です。
(有)柿太水産 富山県氷見市北大町3-37  ℡0766-74-0025
氷見周辺にはかまぼこ屋さんなども多く、水産の町といった感じ。道の駅や直売所もあるので、回ってみるのも楽しいと思います。

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ほたるいかの風味豊かな「いかごろ丸干し」と、そのまま食べてもおいしい「煮干し」。

氷見巡りの仕上げに、見晴らしのいい場所から富山湾を眺めることにしました。
途中、上日寺(じょうにちじ)の銀杏の大木を眺めてから、高台の展望台まで登ります。上日寺は「銀杏精舎」とも呼ばれるのに相応しい、大銀杏の古木がシンボルです。
展望台のある公園まで上がると、富山湾の景色が広がります。ふと地図で位置関係を見ると、東の高岡方面に二上山(ふたがみやま)があります。
二上山といえば、遥か8世紀、天平の時代の歌人で越中国司だった大伴家持に縁のある山です。大野屋の「とこなつ」は、家持の歌に因んで名付けられたお菓子ですし、「田毎」は、家持が愛し多くの歌を詠んだといわれる、二上山から眺めた田に映える月からの菓銘です。高岡には万葉という名のついた小学校もあり、万葉線は、高岡から射水(いみず)までの小さな鉄道。遠く万葉の時代は、いろいろなところに根を下ろしているということかもしれません。いつか万葉線にも乗ってみることにしましょう。

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再び富山市内へ

富山市に戻ったら、月初めの日曜日なら護国神社の骨董市に行きます。規模はさほど大きくはありませんが、季節ごとの野菜や果物にお漬物、郷土料理も味わうことができたりと、古いものを物色するだけでない楽しい場所です。
帰りには広い神通川を眺め、何種類もあるますの寿司をお土産に買って。駅前を通ると、市内を巡る路面電車が通りかかりました。次の機会には、まずはぐるりと路面電車で回って富山の旅を始めるのもいいかもしれません。
富山のお菓子の印象は、少し控えめで余計な装飾を削ぎ落とした清々しさ。それがとても興味深く、繰り返し訪れてお菓子探訪をしたくなりました。

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写真・文=長尾智子

●料理家。雑誌連載や料理企画、単行本、食品や器の商品開発など多方面に活動。和菓子のシンプルさに惹かれ、探訪を続けている。『毎日を変える料理』ほか著書多数。

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