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最終更新日:2023.07.05 公開日:2022.07.16

【フリフリ人生相談】第388話「ハイブランドの子ども服をもらった結果」

登場人物たちは、いいかげんな人間ばかり。そんな彼らに、仕事のこと人生のこと、愛のこと恋のこと、あれこれ相談を続けてきた「フリフリ人生相談」もいよいよシーズン5。 人生の達人じゃない彼らの答えを聞いていると、こちらがどこか達人になった気がするから、あら不思議。きっと人生の悩みごとって、そういうものかもしれません。馬鹿馬鹿しい意見を聞いていると、未来がちょっぴり明るく思えてくる。そんな気持ちで、さて、今回のお悩みは? 「ブランドものの子ども服をもらったのはいいけれど」 って実は、ややこしい騒動に発展しそうな話です。

松尾伸彌(ストーリーテラー)

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画=Ayano

午後2時、クラブのママと同伴!
ではなく、いつもの恵子と面談

「フリフリ人生相談」シーズン5、続いては、
ジャジャ〜ン、恵子の登場です。

いつ見ても色っぽい恵子です。
午後2時ごろに品川のコーヒーショップでお茶したのですが、周囲にはパソコンをテーブルに広げて仕事をする意識高い系の若者ばかり。
彼らから見れば、私たちふたりは、
「昼下がりに銀座のクラブのママと同伴しているおじさん」
って図だろうなぁと、自分でもおかしかったりします。

とはいえ、恵子はこう見えて、ふたりの男の子の母ですし、ふつうの会社勤めをしているふつうの女の人です。
ふつうの会社勤めって言っても、バンジョーが社長なので、ふつうかどうかはよくわかりませんが……。

「宮城グリーンファーム東京」という会社で、彼女は、いろいろな農家のサイトづくりなんかをメインにやっているようです。
「ほんとに、バンジョーは人遣いが荒い」
などと、いつもボヤいています。

でもまぁ、この雰囲気で地方の農家を訪問している恵子を想像すると、ちょいとおかしかったりします。

さて、今回のお悩みは、栃木県に住む30代のママさんからです。

「ちょっと、松尾さん」
と、お悩みのメールを読もうとする私を制して、恵子は私は軽くにらみつけてきます。
「お悩みの回答はひとりずつで、なんて言ってて、私にはママさんネタがくるのは、なぜなの?」
「は?」
「男の人には仕事とか人生の悩みで、私には子育てって、それはジェンダーにおける乱暴な差別だわ」
「だって、恵子はママじゃん?」
「でも、働いてるし。ママだからって決めつけないでほしいし。それに、相談する人だって、母親の立場の人よりふつうの男の答えを求めてるかもしれないじゃない?」
「まぁねぇ。でも、いいんだよ、そんなにむずかしいこと言わなくて……っていうか、農家さんに行って、いちいちジェンダーがどうのって文句言ってたら大変じゃない?」
「って言ってるのが、もう古いのよ、松尾さん」
と、また恵子は私をにらんでから、軽く苦笑します。
「いまどきの農家さんのほうが、ジェンダーに関しては考えかたが柔軟だし、積極的よ。男が強くて女は家で、なんて言ってたら、農業は成立しません」
と、きっぱり。

「うへ、そうですか。気をつけます」
そう言うしかありません。
「ってことで、お悩みの続きを読んでいい?」

「どうぞ」
恵子は、淡く笑います。
ジェンダー問題でまずは責めたててくるのは、恵子らしい会話術ってことかもしれません。

ブランドものの子ども服をもらったママ

小2の息子がいます。名前はケンタ(仮名・以下同))です。ケンタにはヨシコちゃんという同級生の友人がおり、ヨシコちゃんのお兄さん(ジュンくん)は同じ小学校の6年生です。ヨシコちゃんとジュンくんのママ(ツバサさん)が、あるとき、ジュンくんのお古をケンタくんにあげると言って、大量の洋服を家に持ってきてくれました」
「なになに、ややこしいわね。えーと、ケンタくんが子どもの名前で……」
「つまりさ、同級生の女の子にお兄ちゃんがいて、そこのママがお兄ちゃんのお古をくれる、と」
「はは、そういうことね」
「続き読むよ……高級外車で玄関先に現れたので驚いたのですが、ツバサさんいわく『ケンタくんはかわいいから、きっと似合うと思うので、ぜひ着てほしい』とのことでした。
母親の私が言うのもなんですが、確かにケンタはかわいいのです。ツバサさんの言うとおり、いただいた洋服はどれもよく似合っており、息子よりもむしろ母親として、うれしい気持ちでした。しかも、そのすべてがハイブランドと呼ばれる高級服ばかり。派手なのはお出かけ用にして、ときどき学校にも着せたりしてました」

「…………」
恵子は黙って私が手にしたプリントアウトの紙を見つめています。高級外車とかハイブランドの子ども服ってあたりでなにか言ってくると思ったのですが、なにも言いません。

「それから半年ほどして、ママ友のひとりから、ツバサさんがこんなことを言っていたと聞きました」
と、私はさらに読み続けます。
「あくまで噂ですが……『ケンタくんにジュンのお古をあげたけど、やっぱり、ケンタくんが着ると品がないのが残念。持って生まれた上品さって、とくにハイブランドとか着るとよくわかっちゃうんだよね』とか……。
まさかツバサさんが陰でそんなことを言っていたとは……」

「出た」
と、恵子が苦笑しました。
「マウント取りたいママってことね。いるいる、そういう人」

「いや、まったくすごいね。驚いた。こんなテレビドラマみたいなこと、ほんとにあるんだねぇ」
「あるんだねぇ」
と、恵子も感心しています。

「でも、きっと、そのケンタくんだっけ? ほんとにかわいいのかもね。相手のママも嫉妬しちゃうくらい……着せたらほんとに似合ってて、それが想像以上で、いやな陰口のひとつも言いたくなっちゃったんじゃないかな」

「ふむ。でね、このママさんはツバサさんの陰口を噂で知って怖くなっちゃったわけね……読むよ。私は、呆れると同時になんだか怖くなって、もらった洋服をすべてフリマサイトに出して売ってしまいました。4年前の洋服とはいえ、さすがハイブランド! けっこうなお小遣いになりました。家族で遊園地に行っておいしいものをたくさん食べようと思っています。
その数日後、ツバサさんとばったり会ったのです。そのときに、彼女が自分のスマホを私に見せ『これ、あなたでしょ?』と言うではないですか。
そこには、子ども服を大量に販売するフリマサイトの私のアカウントがありました。本名なんて使ってませんが、きっと、洋服から検索してたどりついたのだと思います。
『なんのことか、わかりません!』
と、その場はシラを切ってやりすごしたのですが、さて、どうすればいいでしょう?」

ママ同士のマウントは怖い

「気持ちはよくわかるわぁ」
と、恵子はおかしそうです。
「どうすればいいでしょう、なんて聞かれても、気持ちはよくわかりますとしか答えられないね」

「フリマで売っちゃう。ママさんの逆襲ってことだよね」
「ママ同士でマウントを取ったり取られたりってことは、ほんとに日常茶飯事だと思うんだけど、今回のママさんも、その争いのなかで、めちゃくちゃ腹立ったんだろうね。だから、高級外車のママが作戦ミスってことかもしれない。もうちょっと鷹揚に構えて、ほんとにケンタくん似合うわぁとか言って感謝されてるほうが気持ちよかったはずなのにね。お金があるなら、かわいい子どものパトロン気分でいたほうがよかったのに」
「でも、自分にも男の子がいて、なかなか他人の子どものパトロン気分ってわけにもいかないでしょ?」
「ハイブランドを着ると持って生まれた上品さが現れちゃうとか言ってるけど、自分のほうが下品ってことがバレちゃった」
「まぁ、そういうことだね」

ぜんぜん回答らしきものがないまま、恵子が納得してしまっているので、私はなにも言えずにプリントした紙を折ってバッグにしまおうとしました。

「でも、あれよ、フリマで売ったお金は手をつけないで、しばらくそのままにしておいたほうがいいかもね。遊園地に行くのはちょっと待った、だね」
「え、なんで?」
「洋服はあげたわけじゃない、フリマで売るなんて聞いてない、損害賠償だとかって言いだしかねないからね、品のいいお金持ちママは」
「まじ?」
「まじ……」

と、子育て世代はそういうものよ、というような顔で、恵子はにやりと笑うのでした。
その笑顔にぞっとするしかない私です。


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