【フリフリ人生相談】第387話「人に好かれるコツ、嫌われないコツとは?」
登場人物たちは、いいかげんな人間ばかり。そんな彼らに、仕事のこと人生のこと、愛のこと恋のこと、あれこれ相談を続けてきた「フリフリ人生相談」もいよいよシーズン5。 人生の達人じゃない彼らの答えを聞いていると、こちらがどこか達人になった気がするから、あら不思議。きっと人生の悩みごとって、そういうものかもしれません。馬鹿馬鹿しい意見を聞いていると、未来がちょっぴり明るく思えてくる。そんな気持ちで、さて、今回のお悩みは? 「人に好かれるコツ、嫌われないコツはなんですか?」 答えるのは、この人!
午後4時、麻布の片隅のバーにて
猫みたいなおじさんと
「フリフリ人生相談」シーズン5、ふたりめの回答者は、
われらがバンジョーです。
いまさらですが、改めてバンジョーはどんな人物か解説しておきます。
まぁひとことで言えば「いいかげんな男」ですかね。
その昔はIT系の小さな事務所を経営していましたが、いつの間にか社員たちを連れて、MGF東京という会社をつくったのです。MGFは「宮城グリーンファーム」の略ですが、農業とITの融合とかなんとか、わけのわからないことをやっています。
最近では山梨のワイン生産者のところに入り浸っているようです。これも仕事なのかワインを飲みたいだけなのか私にはよくわかりません。
仕事をしているのか酒を飲んでいるのか……私は飲んでいるところしか見たことがないので、ここでは「昼間っから酔っ払ってるおじさん」というふうに言っておきましょう。
そんなバンジョーにシーズン5の「お悩み」を持っていったわけですが、待ち合わせの場所は麻布の路地の隅っこにある小さなバーです。
カウンターだけの細長い店。
「ここ、6時までは半額なんだよねぇ」
と、4時くらいから飲んでいるバンジョーです。
「6時になったら出よう。近くにいい蕎麦屋があるんだよ」
ここで2時間も飲むんかいッと突っこみたいところですが、私は黙ってとなりのスツールに腰をあずけました。
ほかにお客さんは、もちろん、いません。カウンターのなかにも誰もおらず、たぶん厨房で食材の準備でもしているのでしょう。
ゴールデンウィークも過ぎて、開け放った入口から静かな路地の風が入ってきます。
ふと、あたりを徘徊する猫でも入ってくるんじゃないかという気がしました。
都心とも思えないおだやかな空気がふわりと店内を舞います。
「えーとですね」
と、気を取り直して、私は声をあげます。うっかりすると、小さなバーに溶けちゃいそうです。
「今回の相談は……」
「ぼくひとりなんだって?」
「へ?」
「答えるのが、ぼくひとり」
「そうそう。これまで3人だったのがね。ひとりずつにしたんですよ」
「責任重大だね」
と、ちっともそんなふうには思ってない顔つきで、バンジョーは小さなグラスを舐めるようにします。たぶん辛めのシェリー酒でしょう。
好かれるコツは、誉める
「20代後半の男の人からです。
ずばり、人に好かれるコツはなんでしょうか。
うーん、なんとも、いい質問ですよね。バンジョーにぴったり」
「え、なんで? 人に好かれるコツ?」
「そうそう。みんなに愛されるバンジョーなら、さて、なんて答える?」
「…………」
バンジョーは、少し照れたような顔をしました。
みんなに愛される……ほんとに、バンジョーはそういう男なのです。
男からも女からも「バンジョーバンジョー」とかわいがられる。
いい年したおっさんだし、酔っぱらいだし、まじめな話なんてほとんどしないし、いるのかいないのか存在感は薄いんだけど、愛される。
「好かれるコツは……」
考えてるふうでもなく、ふいにバンジョーが言いました。
「やっぱり、誉めることじゃない?」
「バンジョーさん、そんなに人のこと、誉めます?」
思わず私は彼の顔を覗きこみました。
「え、ぼく? どうだろうなぁ……でも、誉めるよ。誉める。誉めてばっかり」
「うそ、おれ、誉められたことないなぁ、バンジョーさんに」
「そう?」
と、思案顔をしてから、バンジョーはにやりと笑いました。
「それは、松尾さんだからじゃない?」
「え……どういう意味?」
「どういう意味だろ」
とぼけながら、グラスに口をつけて、ぐっと傾けます。
嫌われないコツは、悪口を言わないこと
「じゃあ、嫌われないコツは?」
と、私は、カウンターの空気をかきまわすように問いを重ねます。
「今回の相談は、好かれるコツと嫌われないコツってありますか、なんですよ」
「嫌われないコツは、かんたんだよね」
「そう?」
「うん。悪口を言わない」
バンジョーはきっぱりと言いきりました。
なるほど。
バンジョーは確かに悪口を言わないかもしれません。悪口からはもっとも遠いタイプかも、です。バンジョーと私と山田一郎がいっしょにいて、ギャーギャーと山田一郎を責めているのは、いつも私。バンジョーはへらへらと笑っているだけです。
「なるほど。確かに、バンジョーさんは悪口、言わないですね。言わないようにしてるってこと?」
「してるね。人のこと悪くいって、いいことないからね」
「なるほど」
「松尾さんは、好きだよね。悪口言うの」
バンジョーにあっさり言われて、私は絶句するしかありません。
「そう、かな?」
「好きでしょ?」
「…………」
「ズバズバ言うの、好きだよね」
あまりにバンジョーがおかしそうなので、私は苦笑するしかありません。
「ひどくないですか?」
「いや、これは、誉めてるんだよ」
そう言ってから、深くうなずくバンジョーです。
腹立つわぁと思いながら、確かに、私はそういうタイプだなぁと、いまさらのように納得するしかありません。
コツより大切なものがある
「でも、あれだね」
バンジョーは思いついたような顔で、私にからだを向けました。
「好かれるコツとか嫌われないコツってさ、コツっていうより……いちばん大切なのは、気持ちかもね」
「気持ち?」
「好かれたい、嫌われたくないっていう気持ち。それがまずないとダメでしょ。なにやっても好かれるわけないよね」
「うわべだけで気持ちも入ってないのに、コツだのなんだのって言ってもダメだと?」
「だから、松尾さんはどんなに悪口言っても、好かれるんじゃない?」
と、バンジョーは、にやりと笑いました。
私はビールのグラスに手を伸ばしながら入口のほうを見て、
「あ、猫だ」
と、小さく声をあげてみるのでした。