【フリフリ人生相談】 第386話「世界のこれからを考えると、不安で苦しい」
登場人物たちは、いいかげんな人間ばかり。そんな彼らに、仕事のこと人生のこと、愛のこと恋のこと、あれこれ相談を続けてきた「フリフリ人生相談」もいよいよシーズン5。 人生の達人じゃない彼らの答えを聞いていると、こちらがどこか達人になった気がするから、あら不思議。きっと人生の悩みごとって、そういうものかもしれません。馬鹿馬鹿しい意見を聞いていると、未来がちょっぴり明るく思えてくる。そんな気持ちで、さて、今回のお悩みは? 「世界はこれからどうなるのか? 不安でおちおち仕事もしてられません」 どうしたらいいか、答えてくれるのは、この人!
ロマンス歌謡のボーカルみたいな怪しいおっさんに、
歴代首相が相談にくる?
というわけで、シーズン5の最初に登場してもらうのは、
角田天空です。
いまさらながらざっくりと人物紹介をすると、
かつては、さいたま市南浦和の土建業社の社長であり、
「コスモスエネルギー研究所」なるものを主催していた人物です。
過去にマンションのベランダでUFOに遭遇して、
それ以来、手かざしで病気が治せたり、未来予測ができるようになった。
と、いうわけで「コスモスエネルギー研究所」なるものをつくり、
そこであやしい活動をしていました。
「していました」というふうに過去形なのは、
現在は、南浦和から恵比寿に事務所を移して、
どうやらそういうペテンまがいの活動からは手を引いているらしいのです。
噂によると、
太めのスポンサーが見つかったので、
巷の人々から金銭を巻きあげるようなことをせずとも済んでいる、とか。
その太めのスポンサーなるものを聞き出してみようと話をふると、
「だから、首相経験者のAとかAとか、Sとかさ……。
このところ岸田ちゃんにもよく会うよ。彼はちょっと気が弱くて……」
と、昔と変わらず大ボラとしか思えないことを言ってくれちゃいます。
それでもまぁ、出会ったころは
「宇宙船に乗ってアメリカの大統領に会ってきた」
みたいことを言ってたので、少しはマシになったのかもしれません。
世界はこれからどうなるのか?
不安でおちおち仕事もしてられません!
「なんだよ、その、シーズン5って」
と、今回からの『フリフリ人生相談』の趣旨を説明すると、
肩をすくめる天空です。
場所は、いつものように恵比寿のマンションの一室。
『フリフリ人生相談』の取材のたびに頻繁に訪れているので、
私にとっても慣れた場所です。
「これまでは3人に回答してもらってたのを、
これからは、ひとりの人から、じっくりと話を聞こうってことですよ」
と、私。
すると、天空は、笑いもせずに肩をすくめます。
「これまで3人に聞いてたのを、ひとりで済まそうってことじゃん。
結局は松尾さんの手抜きってことだ」
「いや、そういうんじゃないんですよ」
と、私は小刻みに首を振りました。
「いっつも天空さんから1時間以上も話を聞いてるのに、
毎回、ちょっとしか紹介できないから、まぁ、もったいないな、と」
「…………」
こちらを見透かしたような目をすると、しばらく天空は黙って、それからゆっくりと笑いました。
「ま、いいや。それできょうはどんな悩みなのさ?」
「えーとですね、こういうのです。
コロナだウクライナだ、と、世界中が大変なことになっています。
これから世界はどうなってしまうのか。
そういうことを考えると不安になり、おちおち仕事もしてられません。
34歳の男性からですね。
まぁ気持ちはわからないでもないですよね。ほんとに、なんだか怖いというか、先の見えない時代になってきたわけですよ。
勤めている会社だって、これから先、どうなるかわからない。日本はどんどん人口が減って、年金にも頼れない。コロナで世界は恐怖のどん底で、そこからなんとか抜け出せそうだっていうときに、ウクライナですよ。考えれば考えるとほど、不安になってくる……」
と、私は相談者の気持ちを代弁するように、天空に訴えました。
仕事に没頭すれば
へんなこと考えないで済む
「漬け物がうまく漬からないから書けなかったっていう、小説家の言いわけあるじゃない?」
「は?」
「いや、だからさ、文豪たちが締め切りを守らなかった言いわけだよ。糖尿病だからとか、ワイフが風邪引いたとか、いろいろあるよ、昔から。
それと同じだよね。その人が言ってることって。っていうか、よっぽどの文豪でも、そんな言いわけは通用しない」
「…………」
私はわけがわからず、天空を見つめるしかありません。
「これから世界がどうなるか不安だから、仕事ができない……って、すごすぎでしょ? 言ってることが」
「なるほど」
「言いわけにもなってないよね」
天空は腕組みして、おかしそうに言いました。
「むしろ、毎日が不安だったら、むずかしいことを考えずに、目の前の仕事に集中するのがいちばんいいよ。へんなことを考えずに済むわけだからさ。世のなかのことを、仕事を怠ける言いわけにしちゃいけない」
不安から逃げちゃダメ
答えを見つけようとする気持ちが大切
「きつい言いかたするとさ、その人は、いろんなことから逃げているってことなんだよね。アレが不安コレが心配、ソレがまずいナニがうまくいかない、なんて、いっつも言ってる。あれこれ考えると不安になって、なにも手につかない……っていうのは逃げてる証拠。
コロナにしてもウクライナにしても、不安だ心配だって気持ちはわかるよ。でも、不安だったり心配だったら、もっともっと調べて、本を読んだりネットで検索して、とにかく考え抜いて、自分なりの答えを見つけないとダメ。正しいかどうかはとりあえず置いといて、まず自分なりに結論なり答えを見定めておかないと。不安とか心配の根本のところから目を背けるんじゃなくて、そこに光を当てて、じっくりと調べあげたり考え抜いたりしないと」
「でも、ネットで調べると、ますます不安になるって側面もありますよね。情報があまりに多くすぎて溺れちゃう、みたいな」
「まあねぇ」
「あと、極端な意見もあるじゃないですか。反ワクチンとか、誰かの陰謀だ、とか……」
「うん、それはそうなんだけど……」
天空の顔つきは、あくまで穏やかです。軽く頬のあたりを指先でかくようにして、静かに言います。
「とにかく、おれが言いたいのはさ、しっかりと自分で考えるってことなんだよ。調べないし考えもしないで、この先不安です、どうなるんでしょう? なんて怯えてる場合じゃないってこと。自分の不安はスタート地点だから、そこから出発して、とにかく考える。そのプロセスで右とか左とか、陰謀論とか、いろいろ出会うよ。
山道歩いてたら、虫だって飛んでるし、獣だっているかもしれない。でも、そういうのを乗り越えて、自分なりの思考とか結論とかにたどりつくわけだから」
正解がないからこそ、考え抜く
自分なりの答えでいい
「科学者とか政治家じゃないから、究極の真理とか、絶対的に世のなかに通用する解答っていうのは、そりゃあ、なかなか見つからないし、見つける必要もない。あくまで、自分のなかにある不安とか疑問とかモヤモヤをなんとかする。そこが大切なんだから、じっくりと考え抜くしかないよね。ウクライナがこれからどうなるのか、世界はどうなるのか、正解なんてないんだから、じっくりと自分で考えてみればいいんだよ。右も左も、いいも悪いも、あふれるほどの情報にネットで触れることができるんだから、考える材料はいっぱいある。
考えて、調べて、また考えて、自分なりの答えを自分のなかに用意する。年金だってそうだし、自分の会社がこれからどうなるか、自分の人生について、社会について、とにかく、考えて心のなかで答えておく。それが大切」
「…………」
私が深くうなずくのを見て、天空は苦笑しました。
「小学生に説教してるみたいな気持ちになっちゃうなぁ。っていうか、どうなのかね、最近の若者たちが幼いってことなのか? そんなことないと思うんだよねぇ。もっと骨のあるお悩みに触れたいなぁ」
などと、天空はあげくの果てに私に文句を言います。
うへへ、と、私は頭をかくのでした。
骨のあるお悩み……。そんなものを期待していいんでしょうか。
「あ、そうそう、前から言ってるけど、ひとつだけ大切なことを、改めて言っとくからちゃんと書いといて」
と、天空は口もとを引きしめるようにして言いました。
「なにかが不安で仕事ができないってさ、逃げてるってことじゃなくて、なかには神経症的な問題を抱えてることがあるからさ、そういうときは迷わず精神科とか心療内科に行くこと。遠慮せず、ためらわず、迷わず医者に相談する。胃が痛いとか熱があるとかと同じだからね。
水道やガス栓を閉めたかどうか不安で電車に乗れないとかさ。ほんとにあるからね。そこのところは、しっかりと書いといてね。病気の相談ごとは、おれたちじゃあ解決できないからさ」
ということなので、不安のあまり精神的に参っているなら、医者に行きましょうね。