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最終更新日:2017.03.10 公開日:2017.03.10

ボルボ・P1800

自動車ライター下野康史の、懐かしの名車談。四角くなる前の、流麗なクーペ「ボルボ・P1800」。

下野康史

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イラスト=waruta

 子どものころに見かけことはあるが、乗ったことはなかったクルマ。その1台だったボルボP1800に、先日、試乗することができた。長生きはするものだ。

 ボルボP1800は、1961年に出た2シーターのスポーツクーペである。ボルボというと、ひと昔前までは、質実剛健を絵に描いたような”四角いクルマ”だったが、その昔はこんなにスタイリッシュなモデルもつくっていたのである。というか、90年にわたるボルボヒストリーのなかでも、P1800のカタチは異色といっていい。

 デザインは、60年代のマセラティを多く手がけたイタリア人のピエトロ・フルア。お尻にささやかな羽を生やすのは、当時、テイルフィン全盛だったアメリカの市場を強く意識したせいだろう。

 なんてことは、当然、60年代の自動車小僧が知る由もない。東京都内でもボルボは珍しかった、というよりも、外車といえばシボレーコルベットと、フォードムスタングと、ロータスエランくらいしか知らなかった子どもの眼中に、ボルボはなかった。そのなかで、たまーに見かけるP1800は、ウルトラマンの科学特捜隊のクルマ的な、妙にカッコいいクルマだった。

 試乗したのは、レストアに近い整備を受けたばかりの71年型1800E。乗り込むと、キャビンは思いのほか小さかった。定員は2名だが、補助イス的な後席がある。それでも、室内長は短く、長身者なら運転席に座ったまま腕を伸ばせば、リアのガラスに触れそうだ。

 だが、大柄な北欧人がつくったクルマだけあって、ペダルが付くトーボードは深い。シートをいちばん前に出して、なんとかクラッチペダルが踏み切れた。

 最初は1.8ℓだった4気筒OHVエンジンは、68年に2ℓに拡大。70年に登場した1800EはそれまでのSUツインキャブに代えてEFI(電子制御燃料噴射)を備える。 

 その130馬力エンジンは、いまでもかくしゃくとしている。3000rpmあたりからのトルク感が力強く、町なかではスルスルッと気持ちよく加速する。4速トップで3400rpmの100km/h巡航も平和だ。峠も上り下りしたが、制動力も不満ない。1800Eからは4輪ディスクブレーキが付いている。半世紀近く前のボルボクーペは、けっこうススんだクルマだったのだ。

 ただ一点、設計の古さを感じさせたのは、ステアリングである。この当時のリサーキュレーティングボール式ステアリングとしても、遊びが大きい。細くて大きいハンドルを円周上で5cmくらい左右に振っても効かない。とくに高速道路では、その不感帯がもたらす曖昧な操舵感が気になった。

 最初、室内を外から覗き込んだとき、運転席と助手席のあいだにある赤いレバーが目についた。黒基調の車内でひときわ目立っている。チョークレバーだろうか? でも、このクルマはEFIだぞ。

 シートに座り、ベルトをしたら、わかった。シートベルトのキャッチに付くリリースレバーだった。ボルボは1959年に世界で初めて3点式シートベルトを採用したメーカーである。「安全のボルボ」はすでに始まっていたのだ。

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テールに左右に立つフィンは、当時の流行に乗ったもの。ただし、アメリカ車のそれと比べると、シンプルかつ控えめなデザインとなっている。

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5つのメーター類が並ぶインパネ周りもシンプル。ルームミラーはダッシュボードに取り付けられていた。

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P1800は最終的に、「P1800ES」に進化する。2ドアはそのままに、ボディ後部をワゴンのように仕立て直し、特徴的なグラス式のハッチゲートを装備していた。

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アメリカ人のアーヴィン・ゴードン氏は、1966年にP1800を購入してからマイレージを延ばし続け、2013年には300万マイル(約480万キロメートル)を走行。ギネスブックから世界最長走行車として認定された。

文=下野康史 1955年生まれ。東京都出身。日本一難読苗字(?)の自動車ライター。自動車雑誌の編集者を経て88年からフリー。雑誌、単行本、WEBなどさまざまなメディアで執筆中。近著に『ポルシェより、フェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)

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