ハッチバックはおじさん臭い!? フォルクスワーゲンのT-Rocがいまウケてる理由──いま流行は「クロスオーバー」(後編)
トヨタがクラウンをクロスオーバーにする時代。ドイツ・フォルクスワーゲンだって黙っちゃいない。ゴルフでもポロでもないんだよなーというユーザーに、いま「T-Roc」が人気だという。マイナーチェンジしがばかりの新型を小川フミオが試乗した。
絶妙なサイズ感
いま流行しているのは、クロスオーバー。ガチガチの”ヨンク”でもなければ、ちょっとオジサンくさい”ハッチバック”でもない。微妙な中間にありたい。ユーザーの気持ちをうまくすくいあげてくれたプロダクトが、クロスオーバーと呼ばれたりする。
フォルクスワーゲンはなかなかそこがうまい。輸入SUVにおける販売成績ナンバーワンの「T-Cross」と、それにナンバー2の座も「T-Roc」で獲得。ゴルフやポロ(どっちもいいクルマなんだけれど)ではないんだよなーという、いまっぽい嗜好に合致したようなモデルだ。
そのT-Rocが、2022年7月25日にマイナーチェンジ。9月の終わりに試乗することができた。全長4250mmでホイールベース2590mmのサイズは、VWポロ(2550mm、2550mm)とVWゴルフ(4295mm、2620mm)の中間。車高がすこし高くて、最低地上高も高いというSUV的な要素はそのままに、デザインの一部が変更され安全装備がより充実した。
ラインナップは、1.5リッターガソリン「TSI」と、2リッターディーゼル「TDI」。それに今回、2リッターガソリンの「R」が新設定された。「R」はパワフルなエンジンに、シリーズ中で唯一「4MOTION」という4輪駆動システムを搭載している。
よく回り、よく走る
私が乗った「TDI Style」は、110kWの最高出力に340Nmの最大トルクをもつ。マイナーチェンジで、フロントグリルに横一文字のLEDのライトが設けられ、バンパーにもLEDのアクセントライトが設定されている。T-Rocに興味をもっているひとなら、一目で新型とわかるはず。
このクルマ、ひとことでいって、力強くて快適だ。ディーゼルエンジン特有のカラカラという音は抑えられているし、エンジン回転はごく低回転域から4000rpmまで気持ちよく回る。そして加速性に優れるのだ。
ステアリングホイールの操舵感覚がやや重めで、かつ、切ったときの車体の反応が速いので、運転が好きなひとにはとくに歓迎されそうなドライブフィールだ。足まわりはすこし硬めだが、高速での乗り心地はフラットで、乗員が上下動に揺さぶられることは経験しなかった。
ドイツのアウトバーンなどでは、このクルマでもって高速で突っ走るひともいるんだろうなあ。燃費がリッターあたり18.6kmなので(ガソリンTSIは15.5km)遠出のときなど給油回数が少なくて済むだろう。給油の手間が省ければ目的地にそれだけ早く到着できる。
ディーゼルとはいえ有害物質を低減したクリーンエンジンなので、フォルクスワーゲンでは、やや大型ボディの車種にはいまのところ、ディーゼルエンジンを残している。このあたりは日本と欧州の交通事情の違いも大きい。
大人のスポーティさ
いっぽう、「R」は221kWの最高出力に400Nmの最大トルク。さきに触れたように、電子制御が入ったサスペンションシステムや、4輪駆動システムによって、高速での安定した走行と、気持ちのよいコーナリングが実現している。しかも、最低地上高がゴルフより大きいので、軽いラフロードなら走破性も高い。
「R」は頭が後ろに持っていかれるような加速性は、ない。上で書いたように、あらゆる場面で、安定して、かつそれなりに速い。わかりやすいスポーティさでなく、もっと大人っぽいといえばいいだろうか。そこがフォルクスワーゲンのコンセプトだろう。私は好きな考えかただ。
価格は、「TDI Style」が439万9000円。競合というと、ボルボ「XC40」(全長4440mm、価格459万円〜)をはじめ、メルセデス・ベンツGLA(4415mm、532万円〜)、BMW・X1(4455mm、486万円〜)、アウディQ2(4200mm、412万円〜)、さらに、ジープ・レネゲード(4255mm、422万円〜)が思い浮かぶ。
「T-Roc R」(626万6000円)となると、より幅が広い。上記モデルの上級車種や、アウディQ3(4520mm、463万円〜)や、BMW・X2(4375mm、518万円〜)もライバルになるだろう。選択は、なかなか悩ましく楽しそうだ。