いま行くべき国はポーランド! ワルシャワで歴史と食を堪能する【大人の2泊3日ドライブ旅】
ポーランド初心者に向けて、筆者自身がクルマで巡り「最高だった」と実感した2泊3日の旅を紹介。ヨーロッパ周遊の際には、ぜひポーランドを次なる目的地に加えてほしい。
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ショパンの生まれ故郷を訪ねる
ヨーロッパを旅するとき、多くの人がまず思い浮かべるのはフランス・パリやイギリス・ロンドン、イタリア・ローマといった王道の都市ではないか。中東欧に位置するポーランドは、日本人にとって候補に挙がりにくい国だ。しかし実際に訪れてみると、歴史ある街並み、美しい自然、人々の温かさなど、想像以上に素晴らしい体験が待っていた──。
 
                今回のテーマは、詰め込みすぎない“ゆったり旅”。初めてポーランドを訪れるなら、首都・ワルシャワを拠点にするのがいいだろう。1日目に体験したいのは、この国を語るうえで欠かせない音楽との出会い。ポーランドが生んだ天才音楽家、フレデリック・ショパンである。ワルシャワにあるショパン博物館に足を運ぼうかと考えたが、最初に向かいたいのはショパンファンなら誰もが訪れるという彼の生家がある村「ジェラゾヴァ・ヴォラ」だ。
ワルシャワから西へ約60キロ、クルマを走らせる小さなドライブ旅がはじまる。高層ビル群が後方に遠ざかると、窓の外に広がるのはのどかな緑と静かな街並み。クルマを進めるほどに、空気が澄み、時間が緩やかに流れていくのを感じる。そしてその先に、ショパンが生まれた場所がひっそりと佇んでいる。
 
                クルマを降り、木立の小道を歩いていくと、白壁の小さな家が姿を現す。これこそがショパンの生家だ。彼がここで過ごしたのは、生まれてからわずか7カ月という短い時間にすぎない。だが成長してからも休暇のたびに足を運んだという。幼少期の記憶と安らぎを与える場所だったのだろう。
 
                戦争で一度は失われた建物は、戦後に修復され、当時の姿を忠実に復元。室内に足を踏み入れると、グランドピアノや椅子、日用品の数々が目に留まる。そこに漂うのは、単なる展示品以上の空気感。窓から射し込むやわらかな光を浴びながら、この部屋で幼き日のショパンが息づいていた気配を感じ取れるはずだ。
 
                そして何より印象的なのは、生家を取り囲む庭園だ。熱心なファンの手によって整えられたその造形は、「ピアノの詩人」と称されたショパンにふさわしく、グランドピアノの形をしている。14,000種もの植物が四季を彩り、訪れる者に豊かな表情を見せてくれる。庭の一角にはショパンの音楽が流れるスポットもあり、ベンチに腰掛けコーヒー片手に耳を傾ければ、時空を超えて19世紀に誘われるようだ。散策そのものが、ショパンの旋律に触れる体験となる。
 
                記念にショパングッズを購入した。靴下は現在愛用中。
展望台から眺める、光に包まれたワルシャワの夜景
 
                ショパンの生まれ故郷での余韻を胸に、再びワルシャワへ戻りホテルにチェックインする。今回の滞在先に選んだのは「ワルシャワ プレジデンシャル ホテル」。市の中心部に位置し、周囲にはスーパーや商業施設が集まり、旅行者にとって頼もしい利便性を誇る。必要なものがすぐに手に入る安心感と、都会の賑わいを身近に感じられる立地だ。
 
                部屋に入ると、落ち着いた空間に迎えられる。ひとりで滞在するには十分な広さがあり、テーブルにはウェルカムフルーツとドリンク、さらに奥にはチョコレートがさりげなく置かれている。長旅の疲れをほぐすような心配りに思わず笑みがこぼれる。一口チョコを味わい、しばしの休息。軽やかな充足感に包まれながら、次は夕食に出かけようと気持ちが動く。
 
                夕食へ向かう途中、ホテルから徒歩5分ほどの場所にそびえる文化科学宮殿が目に留まった。ソビエト時代に建てられたこの壮大な建築物は、今ではワルシャワを象徴するランドマークのひとつ。展望台からは市街を一望できると聞き、立ち寄らずにはいられないと足が自然に文化科学宮殿の入口へと向かっていた。
 
                荘厳なエントランスを抜け、エレベーターで一気に30階へ。目の前に広がったのは、広大な展望テラスと、その先に広がる圧巻の夜景だ。360度どの角度からも、光の粒がきらめき、ワルシャワの活気が眼下に広がる。都市の息づかいを感じながら眺める夜景は、旅の始まりを祝福するかのように鮮やかだった。
伝統の味に出会う、ワルシャワ初日の夜
 
                1日目の夕食に選んだのは、伝統的なポーランド料理を堪能できるレストラン「U Wieniawy(ウ・ヴィエニャヴィ)」。ホテルから歩いて20分ほど、ワルシャワ国立劇場の中に佇むその一軒は、外観から内装に至るまで気品に満ち、地元の人々にも長く愛されてきた名店である。「U Wieniawy」という名は、華やかな社交界で知られた将軍ボレスワフ・ヴィエニャワ=ドゥウゴシュフスキに由来。店の周辺には、将軍が愛した戦前の名所「Ziemiańska」や「Adria」といった伝説的なカフェもほど近く、街歩きとあわせて立ち寄るのに絶好のロケーションだ。
 
                店内は居心地の良い雰囲気に包まれ、料理の新しい組み合わせを試したい人にぴったり。メニューを監修するのは、かつてポーランド大統領府の料理長を務めたクシシュトフ・コヴァルスキ氏。戦間期のエレガントなレシピを現代に蘇らせた上品な一皿から、ニシンの亜麻仁油漬けやミートボール、牛フィレ肉のタルタル、さらにはジャガイモと炒め玉ねぎを添えたランプステーキといったカジュアルな料理まで、多彩なメニューをラインナップ。
 
                なかでも印象的なのは、牛フィレ肉のタルタル。目の前でシェフが仕上げていく演出に、思わず見入ってしまう。丁寧な手捌きから生まれる一皿は、芳醇な味わいとともにワインやウォッカにぴたりと寄り添い、グラスが進む。他にも多彩な料理が次々と並び、気づけば口に運ぶ手が止まらなくなっていた。
 
                そして食事の締めには、デザートとしてクレープ「ナレシニキ」を。甘酸っぱいオレンジソースが軽やかに効いた一皿は、満腹のはずの胃をすんなりと受け入れる不思議な美味しさだ。気づけば最後のひと口まで楽しんでいた。
こうしてワルシャワでの初日は、上質な伝統料理に彩られながら幕を閉じた。
ワジェンキ公園で、緑と歴史に浸る
翌朝、カーテンを開けると、澄み渡る青空が広がっていた。旅先で迎える快晴は、それだけで一日の始まりを特別にする。こんな日は自然に身を委ねたい。そう思い立ち、ワルシャワ中心部から東へ足を延ばし「ワジェンキ公園」へ向かうことにした。今回の“ゆったり旅”というテーマに、これほどふさわしい場所はない。
 
                園内に入ると、まず目を引くのはショパンの銅像だ。毎年5月から9月の日曜には、この像の前で著名なピアニストによるコンサートが開催される。雨天決行、しかも入場は無料とあって、地元民から観光客まで多くの人々が集い、音楽とともに休日のひとときを過ごす。ポーランドの人々がショパンを、そして音楽をいかに大切にしているかを、ここで実感できる。
 
                公園の見どころはそれだけではない。フランス国王ルイ18世が亡命の際に滞在した館、水面に映える優美な「水上宮殿」、そして貴族ルボミルスキによって建てられた別荘など、歴史を刻む建築が点在している。美しい緑に囲まれて歩くだけでも心が解きほぐされ、気がつけば数時間が過ぎてしまう。ふと足もとを見ると、野生のリスが人懐っこく駆け寄ってくる姿も。都市の喧騒からわずかに離れただけで、こんなにも豊かな時間が流れていることに驚かされる。
ウォッカの魅力を、目で舌で味わう
名残惜しくワジェンキ公園を後にし、クルマでしばしワルシャワの街を流す。窓の外には、近代的な高層ビルが立ち並ぶエリアと、中世の趣を残す旧市街の光景が交互に現れる。そのコントラストを眺めているだけで、この街が歩んできた時間の厚みを感じられる。明日は旧市街をゆっくり訪れるとして、午後は少し趣向を変えて“お酒の時間”を楽しみたい。クルマを置いて、今度はバスの出番だ。
 
                向かったのは「ウォッカ博物館」。レンガ造りの重厚な建物が出迎えてくれる。ポーランドが“ウォッカ大国”と呼ばれる所以を知るには、まさにうってつけの場所だ。専任ガイドによる約80分のツアーでは、戦前に製造された希少なウォッカのボトルや、時代ごとに変化したラベル、当時の写真などが紹介され、蒸留酒としての歴史をたどることができる。
 
                ウォッカの原料は大麦・小麦・ライ麦といった穀類、そしてジャガイモ。蒸留の工程や製法を聞いているうちに、自然と飲みたい気持ちが高まってくる。そしてツアーの締めくくりは待望のテイスティング。4種のウォッカが並び、香りや口当たりを比べながら味わう体験は格別だ。歴史と背景を知ったうえでグラスを傾けると、ただ飲むだけでは味わえない奥行きが広がる。
知識と味覚の両方で楽しむ時間──これもまた、大人の旅ならではの贅沢だ。
美術館で堪能する、ポーランドの美食
2日目の夜も、やはりポーランド料理を選んだ。向かったのは、ワルシャワ国立美術館本館の1階にあるビストロ「Muzealna(ムゼアルナ)」。ミシュランの星を獲得した実力派レストランである。
メニューには温菜から冷菜まで幅広く揃い、なかでもマスのパプリカシュはこの店を代表するボリューム満点の一皿。仕立ては洗練されていながら、しっかりとパンチの効いた味わいが際立つ。アートの殿堂にふさわしいモダンで落ち着いた店内は、居心地の良さと非日常感を兼ね備え、スタッフのフレンドリーな接客も心地よい。
 
                数ある料理の中で特に印象に残ったのは、ポーランドの伝統料理であるピエロギを鶏のコンソメスープと合わせた一品だ。餃子に似たピエロギを、澄んだスープに浮かべていただくと、口当たりは驚くほど軽やか。優しい味わいが疲れを癒し、思わずスプーンが止まらない。
さらに白のポーランドワインを合わせれば、料理との相性は抜群。上品な酸味と果実味が、食卓に一層の華やぎを添える。ワルシャワの夜は、美食とワインに彩られながらゆっくりと更けていった。
最終日は旧市街から、歴史の中心へ
 
                旅の最終日。昨日の予告どおり、ワルシャワ旧市街へと向かう。世界遺産にも登録されているこの街を散策する前に、まずはひときわ目を引く「ワルシャワ王宮」の内部へ足を踏み入れることにした。“王宮”、その響きだけで胸が高鳴る。
ここはワルシャワの王子カジミェシュ1世以来、歴代のポーランド国王が居住した宮殿。16〜17世紀には国王ジグムント3世により大規模な拡張が行われ、王家と議会の会合の場として、政治と文化の中心を担ってきた。やがて19世紀にはロシア帝国に多くのコレクションが持ち出され、第一次世界大戦後に一部が返還されたものの、第二次世界大戦ではナチス・ドイツによる侵略で徹底的に破壊されてしまう。しかし戦後、人々の尽力により1971年から13年の歳月をかけて再建され、いまでは壮麗な姿を取り戻している。
 
                では、中に入ってみるとしよう。重厚な扉を抜けると、そこには王宮ならではの荘厳な空気が漂っていた。謁見の間、最も古い王座が置かれた上院議員室、下院議員室など、格式を感じさせる空間が連なる。広大な内部には数多くの絵画や美術品が展示されており、一歩ごとに異なる時代の息吹を感じられる。まさに、ポーランドの歴史と栄華が凝縮された場所だった。
 
                王宮を堪能したあとは、そのまま旧市街へと足を延ばす。石畳の道を歩くだけで、古き良きワルシャワの面影が目の前に広がり、気づけば心が癒されている。
第二次世界大戦で徹底的に破壊された旧市街は、戦後に人々の手によって見事に復元された街並みだ。復元とはいえ、その息づかいは力強く、過去と現在が調和する独特の雰囲気を漂わせている。旧王宮前の広場は年間を通じて観光客でにぎわい、石造りの建物が立ち並ぶ光景はワルシャワを象徴する風景のひとつとなっている。
 
                このエリアには、世界的に知られる科学者マリ・キュリー夫人の生家を利用した「キュリー夫人博物館」もある。物理学賞と化学賞、二つのノーベル賞を受賞した彼女の足跡をたどれる場所は、学術の街としてのワルシャワの顔を感じさせてくれる。
 
                旧市街の小路に入ると、間口の狭い可愛らしい石造りの建物が並び、広場ではインスタ映えを狙う若者や、カフェのテラスでひと休みする観光客、そして地元の人々が混ざり合う。その光景は、不思議なほど自然にこの街の空気に溶け込み、ワルシャワの旧市街が「生きている歴史」であることを実感させてくれる。
気づけばすでに夕暮れどき。オレンジ色に染まる街並みが、散策の余韻をより一層深めていた。
旅の締めくくりはやっぱり絶品ポーランド料理
 
                最終日の夜も、やはりポーランド料理を選ぶことにした。足を運んだのは、伝統的な料理を洗練されたスタイルで提供するレストラン「Delicja Polska(デリツィア ポルスカ)」。最高品質の素材を使い、古き良き味わいに現代的なアレンジを加えた一皿一皿は、この旅の締めくくりにふさわしい格別の存在感を放つ。
 
                毎日のようにポーランド料理を食べ続けているのに、不思議と飽きることがない。それは、日本人の味覚に寄り添う優しい風味だからだろう。なかでも今回の旅で心を掴まれたのはスープだ。ライ麦の発酵液を使った酸味のある「ジュレック」、鮮やかなビーツで作る冷製の「フウォドニク」、そして鶏肉と野菜の旨味が凝縮した「ロスウ」など。どれも滋味深く、気づけば毎食注文していた。
 
                さらに、欠かせないのがピエロギ。素朴でありながらも滋味があり、お酒との相性が抜群だ。いつの間にか、この国の味わいにすっかり魅了され、日本に帰ってからもポーランド料理を探して食べに行こうと思うほどになっていた。肉料理も魚料理も期待を裏切らず、ひと皿ごとに心を満たしてくれる。旅の最後の夜にふさわしい「最高の締めくくり」となった。
地元民に愛される庶民派レストランは絶対行くべき
 
                ワルシャワでリーズナブルに本場の味を堪能したいなら、「Bar Bambino(バル バンビーノ)」も押さえておきたい。地元民からも長く愛される、いわゆる大衆食堂的存在だ。通称「ミルクバー」と呼ばれ、窓辺には牛のイラストのライトが輝く。その外観からして親しみやすく、気軽に立ち寄れる雰囲気に包まれている。
店はセルフサービス方式。入口脇に掲げられたメニュー表から料理を選び、レジで注文と会計を済ませたら、出来上がった料理を自分で取りに行き、好きな席で食べるスタイルだ。肩肘張らずに、日常の中でポーランドの郷土料理を楽しめる。
 
                料理はどれも驚くほどリーズナブルで、平均600円程度。味は値段以上で、ジュレックにピエロギ、さらにはポーランド版カツレツ「コトレト・スハボヴィ」まで幅広く揃う。特にピエロギは種類が豊富で、ボリュームも満点。ひとりで訪れるよりも、数人でシェアしながらいろいろな味を楽しむのがおすすめだ。今回はジャガイモと白チーズ、ほうれん草、ミートの3種類を注文。特にミートのピエロギは「残り物を活かした家庭料理」とされているが、その素朴さが逆にクセになる。
美味しい、安い、雰囲気よし。ワルシャワに訪れたらまずは「Bar Bambino」で本場の味を堪能してほしい。
 
                そして、ポーランド旅行を語る上で欠かせないのが「物価」の話だ。ヨーロッパというと物価高を心配する人も多いが、ポーランドは日本とほとんど変わらない印象。近年「海外旅行は高い」というイメージが強いなかで、この点は大きな魅力だろう。
さらにシーズンを選べば、旅の楽しみ方は広がる。5月から9月はベストシーズンとされるが、夏は意外と雨が多い。むしろ秋から冬にかけての寒さが、ポーランドの街並みと相まって独特の趣を感じさせてくれる。
美味しい料理、歴史ある街並み、そして日本に近い物価。ポーランドには、旅をする理由がたくさん詰まっている。次の旅行先を考えているなら、ぜひポーランドへ。
INFORMATION
1. ショパンの生家(ジェラゾヴァ・ヴォラ)
住所:Żelazowa Wola, 96-503 Sochaczew
2. ワルシャワ プレジデンシャル ホテル
住所:Al. Jerozolimskie 65/79, Warszawa
3. 文化科学宮殿
住所:pl. Defilad 1, 00-901 Warszawa
4. レストラン「U Wieniawy」
住所:plac Marszałka Józefa Piłsudskiego 9, 00-078 Warszawa
5. ワジェンキ公園
住所:Agrykola 1, 00-460 Warszawa
6. ウォッカ博物館
住所:Plac Konesera 1, 03-736 Warszawa
7. レストラン「Muzealna」
住所:Al. Jerozolimskie 3, 00-495 Warszawa
8. ワルシャワ王宮
住所:plac Zamkowy 4, 00-277 Warszawa
9. レストラン「Delicja Polska」
住所:Krakowskie Przedmieście 64, 00-322 Warszawa
10. レストラン「Bar Bambino」
住所:Hoża 19, 00-521 Warszawa


 
                       
                       
                       
                       
                       
                      


 
             
             
             
             
             
             
             
             
             
             
             
                       
                       
                       
                      