なぜ僕たちは「フィアット500」にときめいてしまうんだろう?『イタ車のことは嶋田さんに聞こう! ユーズドカー購入ガイド』前編
最近、どうして「フィアット500」ばかり気になってしまうんだろう? このサイズ感、このデザイン。壊れたって、それでも乗りたくなるのが、イタリア車の魅力。自他とも認める業界屈指のイタ車マニア、自動車ライターの嶋田智之さんが、はじめてのマイカー選びを案内します。
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イタ車のことは嶋田さんに聞こう!
はじめてのクルマ選び=最初の1台を選ぼうとするときに、ユーズドカーからチョイスしようと考える人は少なくないはずです。最初に費やす予算を抑えやすいし、想像以上に選択の幅が広く、予算の中でも自分の条件や好みに近いクルマと出逢いやすい……などなど、メリットがたくさんあるからです。
けれど、ちょっと不安。そう思う人もいることでしょう。特にイタリア車。デザインが魅力的なクルマが多いのは確かですし、走らせるとすごく楽しいと好評価だったりはするのですが、その一方で昔から「イタ車は壊れる」と言われてきたからです。
それって事実? 20代や30代というKURU KURA世代には荷が重いんじゃないの? そもそもイタリア車って、乗ったら本当に楽しいの? ──と、そうした疑念をチェックする意味で、イタリア車のユーズドカーにスポットを当ててみることを考えました。
けれど編集部には、イタリア車のユーズドカーに関するツテがありません。そこで、自動車メディア業界で「イタ車といえばこの男」と言われる、自動車ライターの嶋田智之さんに相談してみることにしました。
ヒトとしてはいろいろ難はありそうなのですが、イタフラ系の自動車雑誌の編集長を長く務めた後に独立、フリーランスとしてアルファロメオやアバルトやフィアットなどイタリアン・ブランドの国際試乗会に参加する常連であり、私生活でも1970年式のフィアット500を可能な限りアシに使うほか、ほとんど乗ってないアルファロメオを所有したりもしてる、業界屈指のイタリア車好き、いわばエキスパートです。
これまで編集担当が知ってるだけでも30台以上のクルマを乗り継いできて、そのうち新車は1台のみ。残念ながら相談役としては適任なのです──ヒトとしてはいろいろ問題があるというのに……。
イタ車は“壊れる”の誤解

イタリア車は人間っぽい?
嶋田(以下、嶋)「そりゃ壊れるでしょ、機械なんだから。でも、それはイタ車だけじゃなくて、ドイツ車も日本車も、ぜんぶ一緒。ちゃんと適切にメンテナンスをしてれば悲劇を遠ざけていくことはできるけど、乗りっぱなしだったりひどい扱いをしてたりすれば、しっぺ返しが来るのは当然だよ。ましてや輸入車って、気候も交通環境も文化も違うところで生まれて日本に来るわけだ。合わない部分があって不具合が出ても、それは不思議でも何でもない。人間関係だって似たような感じじゃん? 要は愛だよ、愛」
編集担当(以下、編)「はあ……(えーっと、聞きたいのはそこじゃないんですけど……)」
嶋「まぁたしかに昔からイタ車には“壊れる”っていうイメージがつきまとってはいるよね。でも、それはもうホントに昔の話。僕のところにある古いフィアットあたりだと1か月に3回レッカーを呼んだりしたこともあったけど、最近のイタ車はぜんぜん違って、そうは壊れない。キミの言うところのユーズドカーって、5年落ちとか10年落ちとかのクルマでしょ? そのくらいだと、僕の感覚ではドイツ車とあんまり変わらないっていうイメージだよ。それにね、機械モノだから必ずしも完璧なわけじゃないっていう普遍の前提はあるんだけど、かなり安心できるユーズドカーの買い方っていうのがあるんだよ。これまたイタ車だけに限ったことじゃないんだけどな」
というわけで、その“かなり安心できるユーズドカーの買い方”について、実際に店舗を訪ねながら指南していただくことにしました。このやたらと自由でクセ強なオヤジと編集担当のふたりで取材に行くのは気が重いし、ヴィジュアル的にだいぶツライので、今回は深山幸代さんにも同行していただきます。
深山さんは自動車メディア系YouTube、雑誌、WEBなどでも活躍されてるレポーター兼モデルさんなので御存知の方も多いかと思いますが、驚いたことにイタリア車の経験がほぼないということなので、試乗体験して感想ををいただくのにもちょうどいい、と考えたのでした。
さっちゃんのイタ車初体験

今回の取材に同行してくれた深山幸代さん(さっちゃん)。後ろの水色が業界きってのイタ車通、嶋田智之さんだ
そして迎えた4月某日──。約束の時間の20分前に待ち合わせ場所に到着すると、そこにはすでにクルマに乗った嶋田さんが待っていました。女性の存在、おそるべし! いつもなら5分ぐらいは軽く遅れてくるはずなのに、何て判りやすいヒトなんでしょう。
嶋「前の仕事が早く終わったんだよ」
集合時間は朝の9時45分。早朝からいったいどんな仕事を……? なんて考えてるうちに、深山さんも到着です。
深山(以下、さっちゃんの“さ”)「おはようございます。今日はよろしくお願いしまーす」
嶋「おはよ。さっちゃん、ひさしぶりだねー」
編「あっ(嶋田さんのニヤケっぷり!)、おはようございます。よろしくお願いします(オヤジの介護を)」
嶋「出発するよー。……そういえば、さっちゃん、イタ車ってあんまり触れたことないんだって?」
さ「そうなんです。お仕事も日本車がほとんどなのと、個人的にも縁らしい縁がなくて……。素敵だなって思ったクルマは何台かあったんですけど……」
嶋「編集担当からオススメを2台挙げろって言われたから、今日はその2台にチョイ乗りだけど試乗してもらえるように、それぞれお願いしてあるから」
編「お手数をお掛けしました(嶋田さんの鼻の下!)」
さ「ありがとうございます。嬉しいです。ワクワクするなぁ」
と、具体的なお話が終わる前に、どうやら1軒目に到着した模様です。
編「あれ? ちょっちょっちょっちょっ嶋田さん(汗)。ここはフィアットのディーラーですよ。新車のお話じゃないんですから」
嶋「バカだねーキミは。バーカバーカバーーーカ! ディーラーではメーカーの認定中古車っていうのを買うことができるんだってば。それが“かなり安心できるユーズドカーの買い方”第1弾。……というわけで、さっちゃん、ここではチンクエチェントことフィアット500に触れてもらうからね」
さ「本当ですか? 素敵だなって思った1台が、そのチンクエチェントなんです。だって、すごくかわいいから」
というわけで、われわれ一行が最初に訪ねるのは、東京・渋谷の山手通り沿いにある『フィアット/アバルト松濤』さん。ここはフィアットとアバルトのショールームであるのはもちろんなのですが、瀟洒な建物の中には常設としては日本で唯一の“フィアット・カフェ”があって、カフェ・タイムや食事を楽しむためだけに訪ねるお客さんも少なくないのだとか。
嶋「いや、ここのイタリアン、マジで美味いから。取材が終わったらここで食事して、それから2軒目に移動しようよ……キミのオゴリで」
編「あーえっと……はい(苦笑)」

日本で唯一の“フィアット・カフェ”があるフィアット/アバルト松濤

でさっそくカフェラテをご注文
かわいいイタ車が欲しいのだ
深山さんは展示されてるオープントップのフィアット500Cを満面の笑みで眺めてたかと思ったら、クルマの周りをゆっくりと回りはじめ、「かわいい」「ここのデザインが素敵」と、なかば一目惚れ状態。
嶋「見るのは初めてじゃないだろうけど、意識しちゃったりすると妙に惹かれちゃう。恋と同じなのだな」
編「はぁ(何を言ってるんだろう、このオヤジは……)」
嶋「それだけの説得力が、このクルマのデザインにはあるってことだよ」
こちらでわれわれの相手をしてくださったのは、セールスコンサルタントの打越陽大さん。深山さんの質問に、穏やかにわかりやすく応えてくれました。

渋谷区松濤の山手通りに面する『フィアット/アバルト松濤』(東京都渋谷区松濤2-3-13)。新車はもちろん、極上の認定中古車までさまざまなモデルをラインナップする

フィアット/アバルト松濤でセールスコンサルタントを務める打越陽大さんに、認定中古車の説明を受けるさっちゃんと水色!?
さ「チンクエチェントって、どういうポジションにあるクルマなんですか? 何となくしか知らなくて……。不勉強でごめんなさい」
打越さん(以下、打)「とんでもないです。このクルマはイタリアで最もポピュラーなコンパクトカーなんですけど、ただの実用車じゃなくてスペシャルティカーのような存在で……」
と、ていねいに解説してくれたのですが、すべて掲載しようとすると絵巻物になってしまうので、シンプルに要約させていただきます。
フィアット500ってどんなクルマ?

フィアット500は後ろ姿もとってもキュート
デビューは2007年、日本上陸は2008年。「フィアット500」という名前を持つクルマとしては第3世代にあたり、2020年にデビューして2022年に上陸した電気自動車の500eが第4世代となります。
「チンクエチェント」というのは「500」のイタリア語読み。最大の特徴は見てのとおり誰もが「かわいい」と感じるスタイリングで、370万台近くが生産されて世界中の人たちを笑顔にしてきた、稀代の名車というべき第2世代の姿カタチを解釈しなおし、新たにデザインされたものです。
歴史的な名車のイメージだけでなく、一緒にいるだけでなぜか楽しい気持ちにさせられるような世界観まで受け継いで、そうしたところが支持され世界中で大ヒット。最終的な数字は不明ながらわか数字は2021年の段階で累計250万台を突破しています。
2024年には日本向けの生産終了がアナウンスされ、各ディーラーでの現在の在庫が売り切れてしまったら、新車での購入は不可能となります。
ユーズドカーを買う時に大事なこと

往年の名車の雰囲気を今に受け継ぐフィアット500のインテリア
嶋「販売不振による終売じゃなくて、今も人気をキープしてるから、そうなると欲しい人の目は一気にユーズドカーに向くんだよね。だから“今”。今のオススメの筆頭に挙げようと思ったんだよ。これからユーズドカーの相場が上がっちゃう可能性大だから」
打「市場を見てると、ジワジワとはじまってる感じですね。私たちは基本、お客様に販売してメンテナンスもさせていただいてきた、素性のわかってるクルマをメインにしてるんですが、オークションの動向などを観察してると、年式や走行距離などの条件のいいクルマは、すでに取り合いみたいになっちゃってます。それにつられて、普通かなと思えるようなモノの落札価格も上がりはじめてるんですよ」
嶋「で、フィアットについての知識もなくてメンテナンスもロクにやらないどころか売った後は知らんぷりみたいな、たまにある非道い中古車屋とか、ネットオークションで仕入れてそのままネットオークションで売るような個人とかが、便乗した値段で状態のよくないクルマを売って後からトラブルになったりする、みたいなイヤな流れが生まれたりする。ユーズドカーを買うときに、買うお店や買う相手の人をちゃんと選ばなきゃダメっていうのは、だからなんだよ」
さ「でも、どうやって選べばいいんでしょう? 初めて行くお店や初めて会う人がほとんどだと思うので……」
嶋「そのために、今回さっちゃんを……いや、オマケの編集担当も一緒だけど、ふたつのお店にお連れしようって考えたんだよ。まぁでもその話をする前に、さっちゃん、打越さんと一緒にチンクエチェントの試乗に行っておいでよ。まずは楽しさの一部を味わってから、だね」
さ「何だか急にドキドキしてきました(笑)」
といいながら、深山さんの表情が輝きます。やっぱりクルマがお好きなのですね。

次回はさっちゃんが、はじめてのイタ車、フィアット500Cで路上デビューします
後編へ続く!
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