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最終更新日:2024.11.19 公開日:2024.11.19

なぜ「ポルシェデザイン」は時代を超越するのか? 偉大なる911を生み出したカーデザイナーの哲学。

「ポルシェデザイン」の礎は初代911にあり? 1972年の創業から半世紀以上にわたり愛されるづけるブランドの魅力について、元カーデザイナーの渕野健太郎が解説します。

文=渕野健太郎

写真=ポルシェジャパン

1972年に設立された「ポルシェデザイン」。スポーツカーを愛するひとのための「高級ライフスタイルブランド」として知られています。実はかつて私も混同していたのですが、クルマの「ポルシェ」をデザインしているのは自動車メーカーである「ポルシェAG」のデザイン部門であり、ポルシェ・デザインとはポルシェAGから独立した別の組織なんです。

時計のほか、さまざまなプロダクトのデザインから開発、製造、販売までを主業務としていて、そこから生み出された製品は「ポルシェデザイン」の名前で販売しています。紆余曲折あり、現在はポルシェAGの傘下となっていまですが、一般的にポルシェ・デザインとは「ブランド名」と言う解釈が正しいかと思います。

良いデザインは誠実でなければならない

フェルディナンド・アレクサンダー ポルシェ。1935年、フェリー・ポルシェの長男として生まれる。1963年に登場した初代911(901型)はF.A.ポルシェによるもの。1972年にポルシェデザインを設立した。2012年に76歳で逝去。

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ポルシェデザインの創業者であるフェルディナンド・アレクサンダー・ポルシェ(以下 F.A.ポルシェ)は、ポルシェの創業者であるフェルディナンド・ポルシェの孫であり、あの初代ポルシェ911(俗に言うナローポルシェ)をデザインしたカーデザイナーなのです。

ポルシェ911と言えば、最も多くの人が賞賛しているカーデザインではないでしょうか? ナローポルシェから993型まで30年以上、基本デザインを変えなかった事がすごいのですが、エンジンが水冷になった996型以降も、現代的に進化させつつ基本的なシルエットや立体構成は引き継がれています。

F.A.ポルシェは、「良いデザインは誠実でなければならない」と言う哲学があったそうです。物体の機能を分析する事でカタチが明らかになるという、いわば「究極の機能美」を追求していたのですね。バウハウス起点の、いかにもドイツらしい思想で、また今日までのプロダクトデザインにおける基本的な考え方のひとつです。

新旧911のデザイン比較

発表会会場に展示された930型と992型のポルシェ911。

さて今回、ポルシェデザインの発表会場となった外には、そのF.A.ポルシェがデザインしたナローポルシェの次の世代である、930型ポルシェ911と、最新の992型911カレラTが並んで展示していました。

この2台をじっくり見ていたのですが、基本的なデザイン構成は良く引き継がれているなと感じる一方、思いのほかリア周りのボリューム感が違うんだなとも思いました。930型の方は、リアコンビランプがかなり下にあり、リアの造形が大きくスラントしています。前からの造形の流れを考えると、リアのボリュームが下がっているんですね。

それに比べて最新の992型911は、カーデザインの定石通り、ボディの軸がリアにも表現されているので、リアコンビランプ周りもだいぶ高い位置に移動しています。

一般的にボディの軸はしっかり見えた方がクルマの塊感が出てデザインの魅力が出るものですが、930型を見ていると、そのような理屈だけでも無いんだなと感じさせます。

あの下がったリアデザインは911の大きな特徴で、魅力的です。

930型と992型のポルシェ911ターボ。基本的なシルエットこと似ているものの、リアコンビランプの位置はだいぶ異なる。

ちなみに日本車には、ポルシェデザインが関与したクルマがあります。特に公表されていたのは、スバル・レガシィ・ブリッツェンです。3代目、4代目レガシイの特別仕様車として販売されたこのクルマは、フロント、リアバンパー、ホイール、グリル、リアスポイラーをポルシェデザインがデザイン、監修しました。

スバルとボルシェといえば、水平対向エンジンを作り続けている両雄ですが、その2ブランドのコラボということで、当時話題になりましたね。その他、公表されていないが関与をウワサされた日本車もいくつかありました。

ポルシェデザインの名作時計を現代向けにリファイン

911のダッシュボードのメーターから着想を得てデザインされた「クロノグラフ1」。写真は今回全世界350個限定で発表された「クロノグラフ1-Hodinkee2024エディション」。

さて、そんなポルシェデザインですが、1972年に創業して最初の仕事が、ポルシェAGから依頼された「クロノグラフの腕時計」でした。

今でこそクルマと時計などのライフスタイル商品を併売することは、主に高級ブランドで盛んに行われているのですが、そのようなクルマとライフスタイルの融合を、この時期に考えていたのは驚きです。

最初に出した腕時計「クロノグラフ1」は、ケースやブレスレット含めて完全にブラックの腕時計でした。ポルシェ911のコックピットのように、機能性と最適な読みやすさに重点を置く事で、時計業界に革命を起こしたそうです。911のメーターがそのまま腕についているような、とてもアイコニックなデザインでした。

そのデザインを、最新の技術で甦らせたのが「クロノグラフ1-Hodinkee2024エディション」です。世界有数の時計プラットフォームである「ホディンキー(Hodinkee)」とのコラボレーションで生まれたこの時計は、オリジナルの「クロノグラフ1」を再現しただけでなく、エイジングされたようなヴィンテージ感あるインデックス部や、曜日を漢字で表示するなど(英語表記と切り替え可能)、新たな試みもあり大変魅力的な時計に仕上がっていました。

ちなみに私の仕事仲間であるカーデザイナーも、時計好きな方が多かったですね。昔からクルマと時計は親和性が高いプロダクトだと思います。

1976年に発表された「オートバイヘルメット CP4」。ヘルメットとサンバイザーのレンズの色をユーザーの好みに合わせて自由に選択、デザインできることは当時として非常に革新的だった。

2007年に発表したスピードボート「ファイアレス28」。カレラGTからインスピレーションを得ている。

1983年に発表された「パイプ」。水平フィンを備えたパイプヘッドはアルミニウム製で、パイプ本体は香りを最大限に引き出すプライヤーウッド製。F.A.ポルシェはパイプで喫煙するのが好きだったという。

2003年に発表した「ボールペン P'3130」。17本の研磨されたステンレス鋼管が軸の周りに千鳥状に配置されており、ユーザーがペン本体を回転させると真っ直ぐになり、ペン芯が固定されると元の曲がった状態に戻るというものだった。

現在、プロダクトデザイン事務所は日本、海外問わず、メーカーからの依頼が少なくなっているのではないでしょうか? 私の肌感覚として、特にカーデザインはその傾向が強いと感じます。

理由としては、社会のトレンドの流れが早すぎるので、どのメーカーも開発日程を短縮しており、メーカーが時間をかけてデザイン事務所に外注するメリットが無くなった事ですかね。純粋なデザインの提案だけでは難しい時代だと感じます。

一方ポルシェデザインは、デザインだけでなく開発、製造、販売まで手がける、いわばデザイン事務所自体がメーカーであり、ブランドになっているという稀有な会社です。
そのような事業形態を70年代初頭に作り出したのは、やはり起業家一族であったF.A.ポルシェの才覚なのだろうと思いました。

INFORMATION
ポルシェデザイン クロノグラフ1 ホディンキー 2024 エディション|Porsche Design Chronograph 1 Hodinkee 2024 Edition
ケース:40.8mmチタン製ケース
ムーブメント:クロノグラフ、曜日・日付表示
パワーリザーブ:48時間
ブレスレット:チタン製
限定:350個
161万7000円(税込)
https://www.hodinkee.jp/articles/porsche-design-chronograph-1-limited-edition-hodinkee

ポルシェデザイン クロノグラフ1 ホディンキー 2024 エディション|Porsche Design Chronograph 1 Hodinkee 2024 Edition

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