60年前の「ホンダF1」に角田選手が大興奮! 伝説の初優勝マシン「RA272」を英国グッドウッドでドライブ。
ホンダが1965年にF1初優勝を飾った伝説のマシン「RA272」を、F1ドライバーの角田裕毅選手が英国のモータースポーツイベント「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」でドライブ。現代F1マシンとの違いに驚愕!? 走行後のインタビューコメントとあわせて、その模様をお届けする。
ホンダF1の原点、「RA272」を角田選手がドライブ!
グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード(以下グッドウッド)は、1993年から英国の貴族であるチャールズ・マーチ卿によって開催されているヒストリカルなモータースポーツイベント。開催場所は彼が所有する南イングランド・グッドウッドにある、広大な丘陵地帯にレイアウトしたサーキットだ。
歴史を彩る数々のレーシングカーを集め、かつてのドライバーたちが当時のスタイルでドライブするというファン垂涎のビッグイベントを、個人が所有する場所で開催するというのは日本では考えられないし、これはもう英国貴族でしか成し得ないものだろう。
1950年代には二輪、60年代からは四輪の世界的レースに挑戦してきたホンダは第1回からこのイベントに参加しており、1999年には日本のメーカーとして唯一招待を受け、ヒストリックマシン(二輪も四輪も)を持ち込んで参加を続けている。イベントでは毎年ホストとなるメーカーが決められるが、ホンダは2005年にその名誉を受けているというのもすごいことだ。
さて、今年のグッドウッドはホンダがF1世界選手権に挑戦を始めて60年目の節目の年。これに合わせてホンダが持ち込んだヒストリックF1カーの「RA272」を、現在日本人唯一のF1ドライバーである角田裕毅選手がドライブしたのがトピックとなった。
RA272は、ホンダがF1世界選手権に初挑戦した64年シーズン用のRA271の改良型で、1965年シーズンに向けて開発したもの。当時は車体にナショナルカラーをまとうことが定められており、細い葉巻型の白いボディのノーズ部分に大きな日の丸が描かれたカラーリングが特徴的だ。ドライバーズシートの背後に収まるのは、排気量1,495ccのRA272E型水冷横置き60度V型12気筒DOHC48バルブエンジンで、最高回転数は1万2,000rpm(1万3,000rpmという説もある)、最高出力は220PS。
わずか1.5Lの排気量に対して12気筒というのは多すぎると思う方もいらっしゃるだろうが、1気筒あたりのシリンダー容量125ccというのは二輪で世界に挑んでいたホンダにとっては最も得意とするサイズ(当時の125ccレーサーは18PSを発生していた)。各気筒容量が少ないほどエネルギー効率が良いとする設計であり、ピンセットでつまむような小さなバルブが48本も駆動するシステムによって、他チームより10PS近く高いパワーを絞り出していたのだ。ギアボックスを含む重量は215kg。アルミモノコックの細く小さなボディは全体でも498kgで、現代のF1に比べて300kgも軽い。トランスミッションは6段マニュアルだ。
その戦績はみなさんご存知の通り、65年の最終戦となるメキシコGP(翌年からレギュレーションが変更され、排気量は3.0Lに)で、ゼッケン11を駆るエースドライバーのリッチー・ギンサーがトップでチェッカーを受け、ホンダに記念すべきF1初優勝をもたらした。当時のチーム監督である中村良夫氏が、現地から本社に向けて打電した電報の一文である「Veni Vidi Vici(来た、見た、勝った)」(カエサルの戦勝報告の引用)は、今でも語り種になるほどの名言だった。
角田選手「まるでビースト! 骨の髄まで振動が伝わってきた」
RA272には、ゼッケン11のリッチー・ギンサー用と、ゼッケン12のロニー・バックナム用の2台があって、今回角田選手がドライブしたのは11番のマシン。日の丸の横には、ブルーで「GINTHER(ギンサー)」のネームが刻まれている。シートに収まった角田選手はコックピットドリルを受けたのち、ホンダ製V12気筒の甲高いホンダサウンドをグッドウッドの丘に響かせながら、藁でできたバリアで囲まれたヒルクライムコースを駆け上がって行った。
実は筆者は2014年のグッドウッドを取材したことがあり、この時も同じゼッケン11のギンサー用RA272が持ち込まれていて、コースを走る姿を写真に収めている。しかしこの時のドライバーはホンダワークスだったガブリエル・タルキーニ氏で、彼の少し大きな体躯と装着していたフルフェイスのヘルメットがなんとなくマシンとのバランスを狂わしていて、ちょっとだけ違和感があったのを思い出した。
今回の角田選手は、当時のモデルに合わせて白いジェットヘルにゴーグル、白のスパルコ製レーシングスーツという60年代風スタイルで、小柄なこともあって完璧にキマッている。
「ホンダのレーシングスピリットから始まった60年の歴史に参加できること、そしてホンダにとってF1初の優勝車でドライブするのが待ちきれません」と語っていた角田選手は走行後のグッドウッド公式サイトのインタビューで、「このようなクラシックレーシングカーを運転するのは初めてで、エンジンを始動して走り出すのがとても難しかったです。でも感覚はダイレクトで、すべてを自分がコントロールしているようで気持ちがいいのです。僕は体が小さいのですが、RA272のコックピットはかなりタイトで、ついに自分にぴったりのモノコックボディを見つけました」と言い、さらに「メカニックからは、おばあちゃんに相対するように、ジェントルですべてに優しく扱うようにと言われました。コックピットにはスイッチが少なくて運転に集中できるし、右側にあるスティックのシフトをダイレクトに操る感覚は、現代のF1カーとは全く異なる難しさと楽しさがあります」とコメント。そしてゴール直後には、「まるで獣(ビースト)のように骨の髄まで伝わってくる振動は、これまでに感じたことのないものだ」と叫んでいる。
F1初参戦60周年を記念した特設サイトがオープン! 展示も
ホンダはこのほか、F1の2022年型レッドブル「RB18」をはじめ、二輪では1959年のマン島TTオートバイレースに初出場して6位入賞を果たしたRC142(空冷4ストローク125cc2気筒DOHC4バルブ 最高出力18PS)などのレーシングモデルを登場させて、レース参加60周年を祝った。さらに話題の「プレリュード コンセプト」を欧州で初めて一般公開したほか、人気のシビック タイプRの歴代英国モデルすべてを展示するなど、英国でのホンダファンへ向けて強いインパクトを与えるイベントになった。
またF1初参戦から60年となる今年、ホンダは同社のモータースポーツの原点や歴史に加え、現在の活動やイベントを継続的に発信するウェブサイトを新たに公開。1965年メキシコグランプリの撮影フィルムを復刻したカラー映像や、RA272のデモ走行が行われた「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード 2024」の映像・イベントレポートなどが掲載されているほか、今後順次コンテンツを拡充していくという。
さらに東京都港区にあるHondaウエルカムプラザ青山では、1964年のF1初参戦マシン「RA271」を8月20日まで展示中だ。この夏、ホンダのモータースポーツの真髄に触れてみてはいかがだろう。
INFORMATION
Honda Motorsports ウェブサイト
https://global.honda/jp/motorsports/
Honda F1 60th Anniversary・Honda RA271 記念展示
Hondaウエルカムプラザ青山
住所:東京都港区南青山2-1-1 Honda青山ビル1階
開館時間:10:00 – 18:00
展示期間:2024年8月2日(金)~8月20日(火)