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最終更新日:2024.04.05 公開日:2024.03.21

【フリフリ人生相談】第432話「きみたちはどう生きるか、聞いてみた〈2〉」

登場人物たちは、いいかげんな人間ばかり。そんな彼らに、仕事のこと人生のこと、愛のこと恋のこと、あれこれ相談してみる『フリフリ人生相談』。人生の達人じゃない彼らの回答は、馬鹿馬鹿しい意見ばかりかもしれません。でも、間違いなく、未来がちょっぴり明るく思えてくる。さて、前回に続き、今回も特別企画。「きみたちはどう生きるか」。この問いかけを、登場人物たちにぶつけてみました。

ストーリーテラー=松尾伸彌

画=Ayano

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ビジネスウーマンの覚悟

前回から続き、特別企画として、登場人物たちに共通の問いかけをしてみようと思います。

「きみたちはどう生きるか」

宮崎駿によるアニメ作品が、第96回アカデミー賞において長編アニメ賞を受賞して、まさにいま、「きみたちはどう生きるか」というのは人類必須の問いかけになってきたわけです(大袈裟)。

というわけで、『フリフリ人生相談』の回答者たち6人ひとりひとりに「きみたちはどう生きるか」と問いかけ、答えてもらうことに。
前回は高橋純一と彼の奥さん、由佳理。そして、バンジョーの3人に答えてもらいました。

高橋純一は「シンプルに生きる」、由佳理は「美しく生きる」。そして、バンジョーは「誰かに頼って生きる」と答えたのです。
うむむ、酒ばっかり飲んで好き勝手に生きてきたバンジョーが「誰かに頼る」なんて、なんとも彼らしくない! と、私は思ったのですが、その話を恵子にすると「ガハハ、そうかな?」などと派手に笑うではありませんか。

「おれはまぁ、いよいよバンジョーも年取って、ちょいと弱気になってるんだなぁって思ったんだけどさ」
なんて笑っている恵子に言うと、
「それはあるかもね。さすがにね。娘さんにも子どもが生まれて、おじいちゃんになったわけだし」
と、深刻ぶるわけでもなく、恵子はなおもおかしそうです。

「誰かに頼って生きる、か……」
バンジョーの顔を思い浮かべながらしみじみ言うと、恵子はまた「ガハハ」と笑ったのです。
「そんなに、おかしい?」
「いや、だって……これまで、どんだけバンジョーの尻拭いをしてきたかって話ですよ。一応、あの人、私の上司ですからね。ひとりで気ままに、好きなように生きて、人生なるようになるさ、なんて昼間っから酔っ払って気持ちよさそうなのはバンジョー本人だけで、まわりの人間が必死にフォローして支えてきたわけですよ。でないと、破綻してますね」
「ふむ。なるほど、確かに……」
「頼ってないつもりなのは、本人だけ」
「…………」
「だから、ようやく気づいたかってことですよ。誰かに頼って生きるって、いまさら言うなって」
そう言いつつ、恵子はとてもおかしそうです。そうやって明るく笑われてしまうところが、まさに、バンジョーってことでしょうか。

「それじゃあさ、恵子はどう答えるの? きみはどう生きるか?」
「うーん、そうですねぇ」
しばらく考えて、また明るい顔をしました。

「頼られて生きる、かな?」

ほんのりと笑う頬のあたりに、少しばかり照れが浮かんでいます。
私はその表情に向かって、笑いながら言ってみました。
「人という字の、二画めってことだね」
「え? いや……一画めがバンジョーってことじゃないですよ。部下とか、家族とかね。これからもまだまだ、人生、タイヘンってことですよ」

恵子は、少しばかりの決意を秘めたような目で、そんなふうに言ったのでした。

ペテン師の言葉

さて、天空はなんて答えるのでしょうか。

「君たちはどう生きるか」

天空の回答くらい想像できないものはないなぁ、と、ぼんやりと思いながら恵比寿のビルを訪ねてみました。
そう言えば、近々、天空は、オフィスを恵比寿から神宮前に引っ越す予定です。なんでも、神宮前には3階建てのビルを建設中とか。宇宙人と親しくてUFOに乗り放題なんて豪語するペテン師が、とうとう神宮前のビルオーナーですよ。なんちゅう世になっちまったんだ、と、憤慨している私です。

「君たちはどう生きるかっていうのが、今回の質問なんですよ。世間の若い人たちに質問するんじゃなくて、天空さんへの問いです。天空さんは、これから、どう生きるか?」
「へ、おれ?」
「そう。世界に紛争が絶えず、環境問題も心配で、いったいこの先、私たちはどうなってしまうんだという……危機やら困難やらが山積みの時代に、天空さんはどう生きるつもりなのか、と」
「きびしいね、おい」
「いや、きびしくなんてないですよ。天空さんは、つねに、そこのところを視野に入れて生きてきたと思っているわけですよ、私は」
「やめてよ」
「いや、まじめに。天空さんは、どう生きるか?」
「うーん、ちょっと待ってね、どう生きるか、ねえ」
「…………」
腕組みしてにらみつけている私の前で、天空は相変わらずの表情で、缶ビールをグビリと飲んで、ぼんやりと天井を見つめます。

「どう生きるか、ねえ」
「月で暮らすとか、火星に移住するって言いたいなら、それでもいいですよ」
なんて、怒ったように口走る私。

そんな私にさらりと見たあとで、天空はにっこりと笑いました。
「家族を大切に、かな」
「は?」
「だから、家族を大切にして生きる」
「なんすか、それ」
「おれは、家族を大切にして生きるんだよ。これまでも、そして、これからも」
「…………」

子どものことはあまり語りたがらない天空ですが、黒木瞳に似た美人の奥さんがいたことを、私は思い出したのです。

「家族を大切に、生きる」

これが、天空の答えです。

主人公のセリフ

最後は山田一郎に答えてもらいます。
なんと言っても山田一郎はこの『フリフリ人生相談』の主役です。
ウソ? どこが? てなものですが、そもそものスタートが「山田一郎のあまりのアホさかげんを見て、こいつ、どうしたらいいでしょう」と毎回読者のみなさんに投げかけるというのが、この連載のスタートでした。つまり、彼こそが真の主人公なのであります。
その「どうしようもない男」も、いつの間にか、地に足のついたしっかりとした意見を述べるようになり、このところ、密かに頼りにしていた部分もあります。
なんちゅうか……ほんとに頼りなくていいかげんで常識のカケラもない男なのですが、その根っこの部分には意外に「真実」が隠されているような気もして、少しばかり驚かされたり目を見張ったり、なんてこともありました。

というわけで、主人公、山田一郎の登場です。

「うす」

いつものせまいカフェの小さなカウンターに壁に向かって並んで座ります。

私は山田一郎の犬みたいな横顔を眺めながら、おだやかに質問しました。

「今回は山田一郎への問いかけなんだけどね」
「ほほお、ぼくに?」
「そう……質問はひとつ、むずかしく考えないでね……きみはどう生きるか? つまりね、山田一郎自身のこれからの人生とか生きかたについて教えてもらいたいんだけど……」
「ぼくの生きかた、ですか?」
「そう。山田一郎の、これからの人生について」
「…………」

ほんの一瞬、正面の壁を見つめてから、ゆっくりと彼は私を見ました。

「どう生きるかって問われても、これまでの生きかたとあまり変わらないんですけどね」
「うん、いいよ」
「もうとっくの昔に松尾さんには話したと思うんですけど」
「そうだっけ」
「ええ、たぶん、話してると思うなぁ。ぼくはね、ずっと、このことを人生とか考えかたの基本にしてるんですけどね……」
「うん」
「世界の中心で生きる」

きっぱりと言いきって、山田一郎は深くうなずいたのです。それは、大袈裟な感じではなく、あくまで、自分のなかでの常識を口にする、みたいな。

「世界の中心?」
「そうです。世界の中心。宇宙のって言ってもいい……とにかく、ぼくがこの世界の中心なんです」
「それは、あの……夢は世界征服っていうのと、関係ある?」
「いや、それとはあまり関係ないかなぁ」
「…………」
「夢は夢ですよ。でも、生きかたの基本って言われれば、世界の中心、ってことかな」

照れもせず、そんなことを言う山田一郎です。

「世界の中心で生きる」

なんでしょう、この、清々しくも意味不明な壮大さ。

「どういうことか、少し、わかりやすく説明してくれると……」
「は? わかりませんか? 松尾さん、やっぱり、ちょっと語彙の理解力が足りないんじゃないですかね」
「おれのことはいいから」
「はあ、だから、言葉のままですよ。どう生きるかって問われれば、これしかない、世界の中心で生きる」
「うん、だから、それが意味するところは?」
「だから、ぼくが中心なんですよ、この世界の……」
「…………」
「世界にはたくさんの人がいます。親しい人も親しくない人も。すごい人も、すごくない人も。松尾さんも、バンジョーさんも、由佳理も……大谷翔平も、トランプも、イーロン・マスクも……とにかく、いっぱい……。よく言うじゃないですか、あんな人になりたいとか、あんなリッチな生活してみたいとか、目標にしたいとか、憧れるとか……」
「…………」
「うらやましいとか、ぼくには無理だとか、好きとか、きらいとか、関係がうまくいくとか、いかないとか。そうやって、自分はいったいどう生きていけばいいのか、迷ってる人もたくさんいます。悩んでる人もいます。そういうのって、だいたい、自分がいったいどんな人間で、なにができるのか、できないのか、わからなくなっちゃってるんだと思うんですよ」
「まさに、人生相談したい人」
「そういう意味で……ぼくは世界の真ん中にいて、そこから外の世界を眺めているっていうか、自分は中心にいるから、ぶれないというか……地球の真ん中にいて、そこから日本やアメリカや、そこで生活している人を眺めているというか……」
「…………」
「ぼくが世界の中心なので、松尾さんはいま、ぼくの右側50センチくらいのところにいる人、なんですよ」
「…………」

わかったような、わからないような。私はわりと本気で、山田一郎の言ってることを、理解しようとしていました。

「世界の中心で生きる」

たぶんそれは「自分を中心に世界がまわっている」というような優越感に満ちた考えではなく、おもに対人関係において、自分の位置を確定しようとする意志みたいなことかなぁと、ぼんやりと想像してみました。

50センチとなりで、山田一郎はほんの少し首をかしげます。

「あの人は自分をどう思ってるんだろう、とか、自分にはどんな価値があるんだろうって考えるときって、どこか他人の視点みたいなものを意識している気がするんですよ。それって、他人の評価軸で自分を見てるわけですよね。それって、無駄じゃないですか? 外から自分はどう見えるかって、想像してもキリがないですよ。なので、ぼくは、これまでもこれからも……世界の中心で生きていたいって思うわけです」

なるほど、と、言いかけて、やめました。
わかるわけはないかなぁ、と、私はそのとき思ったのです。

だって、山田一郎の意見にしたがえば、私もまた世界の中心で生きていて、山田一郎は私の左50センチのところにいる人間にすぎないのですから。

画=Ayano

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