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最終更新日:2024.03.13 公開日:2024.03.06

【フリフリ人生相談】第429話「17歳です。自信をつけるには、どうしたら?」

登場人物たちは、いいかげんな人間ばかり。そんな彼らに、仕事のこと人生のこと、愛のこと恋のこと、あれこれ相談してみる『フリフリ人生相談』。人生の達人じゃない彼らの回答は、馬鹿馬鹿しい意見ばかりかもしれません。でも、間違いなく、未来がちょっぴり明るく思えてくる。さて、今回のお悩みは?「17歳です。自信をつけるにはどうしたらいい?」。答えるのは「人生、なるようになる」がモットーのバンジョーです。

ストーリーテラー=松尾伸彌

画=Ayano

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テラヤマ、だよね?

17歳の若者から相談がきました。それだけでもキンチョーしちゃう、おじさんの私です。

「17歳の高校2年男子です。たいした部活もせずに、ぼんやりとした高校生活を過ごしています。これから大学生になり社会人になることを考えると、自分にはいろんな意味で自信がないことに不安を感じています。こんなぼくは、どうすればいいでしょうか?」

昨今の若者にありがちな「自信ない症候群」ですね。自己肯定感にとぼしい若者たち……おじさんから言わせれば、閉塞感に満ちた現代の日本社会が悪い! などと政治論評のひとつもはじめたくなるわけですが、そんなものは若者には通じません。

と、この問題は、お気楽バンジョーに持っていくことにしました。自己肯定という意味では山田一郎もすごいのですが、彼の場合は、ほとんど幻想のようなものなのです。かといって、バンジョーが地に足がついた根拠ある人生観なのか? というとひどく曖昧ですが、ま、ここはお許しいただいて、バンジョーの話を聞いてみましょう。

「バンジョーさんが17歳のころって、毎日なにを考えて生きてました?」
と、いつもの麻布のバーのカウンターに腰かけ、夕暮れ前のウイスキーソーダなどを飲みつつ、私はのんびりと聞いたのです。
すると、バンジョーはティオペペを舐めながら首を振ります。
「忘れたね」
あまりにあっさりした答えに、私はひとこと言ってやろうと自分の過去を振り返ってみたのですが、確かに、17歳のころのことなんて、まったく記憶にありません。

「そ、そうですよね」
と、納得してしまう私です。

「毎日ボーッと生きてたんだと思うねぇ」
チコちゃんに火を吹かれてしまいそうなセリフですが、でもまぁ、まったく否定できない私もいます。きっとなにかに夢中になってはいたのでしょうが、それがなんだったか、よく思い出せないわけですね。

「では、気を取り直して……」
と、横目でバンジョーを眺めます。

「若者が自信をつけたいと言ってます……さて、どうすればいい?」
「…………」
バンジョーはカウンターに肘をついて、ぼんやりと視線をあげます。
「そりゃあ、やっぱり、旅じゃないかな」
「旅……」
「ぼくらのころは、書を捨てよ町へ出よう、だよね」
そう言って、バンジョーは遠い目をしたまま黙りこみます。

なにが「だよね」なのかよくわかりませんが、寺山修司の著作『書を捨てよ、町へ出よう』は、そのタイトルさえひとり歩きして、昭和の気分を代表するかのように、多くの若者に支持されたのでした。
なので「書を捨てよ町へ出よう、だよね」と語りかければ「そうなんだよなぁ」と深く納得してしまう世代があるわけです。

要するに、書物からの知識に溺れることなく、町へ出て体験を重ねようということです、かね?

まずは、旅

「旅、ね」
と、私もぼんやりと感慨にひたるように言ってしまいました。
「若者が自信をつけるには、まずは、旅だと……」
「そう、1泊2日とかじゃなくてさ、できるだけ長く、じっくりと旅するのはいいと思うなぁ」
「バンジョーさんもアメリカに行ってたんですよね」
「そう……2年くらい」
「旅というより海外生活ですよね」
「そうね。でも、アメリカ中を旅してた2年だから」
「その体験って、その後の人生に影響を与えたと思います?」
「思うよ、思う。この年になって、よけいに思うね。イタリアにも何回も行ったし、やっぱり旅はいいよ」
「自信につながる?」
「と、思う」

ほら、旅は人生にこんなに影響を与えて、バンジョーさんはこんなにすごいことを成し遂げたんだよ、と、言えないところが悔しいですが、本人はいたって本気で旅を勧めてくれます。

「旅のなにがいいんでしょうね」
「そうねぇ……やっぱり、いろいろあるじゃない? 出会いもあれば、苦労もあるし。トラブルはつきもので、そういう体験がいいんじゃないかなぁ」
「うんうん」
「おとなになってからの旅より、若いうちにそういう体験をしておくことが、あとあと自信につながる」

相変わらず、バンジョーは遠い目をしたままです。いろんなことを思い出しているのかもしれません。
出会いや苦労やトラブルの体験が自信につながる……。

「はじめてのおつかい、みたいなもんですね」
と、思いつきで言って、私は自分で苦笑しつつ、思いつきのまま言葉にします。
「いつだったか、自転車で日本中をまわってる若者に会ったことありますけど、いい顔してたもんなぁ」

「そうね……四国のお遍路とかね。やってみるのも、いいかもね」
バンジョーもいきなり飛ばします。アメリカ、イタリアときて、四国八十八箇所……。

「若いうちがいいんですよね、きっと」
「そうそう。おとなになってからの旅って、また少しニュアンスが変わってくる気がする。17歳の若者が自信をつけたい……やっぱり旅がいちばんオススメかな」

Just Do It!

「もうひとつ、ぼくが投稿を読んで思ったんですけどね」
と、私はハイボールのグラスをカウンターに置いてから、言いました。

「この高校生、たいした部活もせずにって書いてるんですよね。逆に言うと、熱心に部活に打ちこむっていうのも、自信につながるっていう側面もあるのかもしれないですね」

バンジョーはちろりとティオペペを舐めると、少しだけ考える顔つきになってから言いました。
「うーん、でもなぁ、部活って人間関係なんかもあるし、よかれあしかれな気もするけどね」
「…………」
「力の差が歴然としちゃうし……部活を熱心にやれば自信を持てるってもんでもないよ、きっと。それより、けん玉チャレンジとかさ、ひとりでじっくりと挑戦するほうがいいんじゃない?」
「ひとりで……」
「人間関係にわずらわされず、コツコツと、やり遂げるって感覚は大切な気がする」
「ふむ……やり遂げる……」
「自信につながるなにか、でしょ? 旅もそうなんだけど、自分はこんなことをやり遂げたんだっていうのが、いいんじゃないかなぁ」
「…………」
「どんな馬鹿馬鹿しいことでもさ、なにかひとつ、しっかりやって、最後までがんばるのは大切だよ」

やり遂げる……私はふと「バンジョーの言葉とも思えない」と言いかけて飲みこみました。彼は「努力・忍耐の大切さ」を説きたいわけではなく、ポイントは「どんな馬鹿馬鹿しいことでも」にあるのではないかと思ったのです。

旅をすると予期せぬトラブルが向こうからやってきたりします。でも、旅に出なくても、自分でハードルを置いて飛びこえることはできるでしょう。そういう体験が若者の自信につながるのは確かです。

「なんでもいいから、ジャスト・ドゥ・イット、だね」
「お、ナイキですね。Just Do It!」
「頭であれこれ悩んでないで、とにかく、やる。その気持ちなんじゃないかな。17歳の若者よ、とにかく、ジャスト・ドゥ・イット!」

バンジョーがそう言って笑います。

なんだか、おじさんたちがみょうにはしゃいだ、夕暮れどきの麻布のバーのカウンターなのでした。

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