【フリフリ人生相談】第427話「実年齢=彼女いない歴の男より」
登場人物たちは、いいかげんな人間ばかり。そんな彼らに、仕事のこと人生のこと、愛のこと恋のこと、あれこれ相談してみる『フリフリ人生相談』。人生の達人じゃない彼らの回答は、馬鹿馬鹿しい意見ばかりかもしれません。でも、間違いなく、未来がちょっぴり明るく思えてくる。さて、今回のお悩みは?「由佳理さんのようなすてきな人と結婚するには?」。答えるのは、もちろん、ご指名の本人、由佳理です。
7割が彼女なし!
今回のお悩みは、ご指名ありの悩みというかファンレターというか……。
由佳理に対して「ズバリ、由佳理さんのようなすてきな人と結婚するには、どうすればいいですか?」という、まさに「ズバリ」な内容です。
相談者は、わざわざ「実年齢=彼女いない歴の24歳の男です」と書いてくれています。生まれてこのかた彼女がいたことがない24歳の男性が、恋愛指南を求めている、というわけです。
昨今のニュースによると、20代男性のおよそ7割が「配偶者・恋人はいない」と回答しているとか……女性は5割なんだそうです。うむむ。これってつまり、彼女・彼氏がいないのがデフォルトってことですよね。少子化もなにも、その前に解決すべき問題があるわけですなぁ。
今回のお悩みに答えることは、まさに、現代ニッポンがかかえる大問題に答えを出すことにつながるのではないか、なんて大上段にふりかぶってもあとでズッコケルのは目に見えているので、とっとと回答を探しにまいりましょう。
答えを見つけるために……もちろん、由佳理と会うことにしました。この相談をほかの人、たとえば、由佳理の旦那である高橋純一のところに持っていくほど野暮な私ではないし、高橋純一がご指名でも、私は由佳理のところに行ってるに違いありません。それくらい、まぁ、彼女に会うのがヤブサカではない私です。
しかも、今回の相談内容がいいじゃないですか。恋愛バナシですよ。子育てとかママ友とのつきあいかたとか、なんていうのとは違って、話は当然、そこに行くわけで、いい女と交わす恋愛バナシほど盛りあがるものはございません。
というわけで、いつものように丸の内にある高級ホテルのカフェで会いました。子育てとかママ友とのつきあいなんて悩みとは違って今回は恋愛バナシ(しつこい)、話の流れで「バーに行きます?」なんてこともあり得るわけです……まぁ、それはないか。
いつものようにエステ帰りの由佳理は、優雅できらぴやかな背景のなか、キラキラしてまぶしいほどです。
「今回のお悩みは……というか、ほとんどファンレターみたいなもんなんだけど、こういう内容なんだけどね」
と、iPadを彼女に渡します。
「最近の20代男性って、7割が配偶者や彼女がいないんだってね。女性の場合は5割なんだって。ちょっと前は、肉食じゃなくて草食、草食どころか絶食なんて笑い話にしてたんだけど、どうやら、最近は、そもそも食事の習慣がないってことみたいだね。どうなっちゃうんだニッポン、なんてあたりもふくめて、話ができるといいと思ってるんだけど……」
と、私はシタゴコロに敢えてフタをするようにむずかしい顔をして由佳理に向き合ったのでした。
「そんな大袈裟なことは、わからないですけど……」
由佳理はやわらかく首を振ります。
「もし、この若者が、ほんとに私みたいな女と結婚するにはどうしたらいいかって考えるなら……」
と、彼女は少しだけはにかんだように笑ってから、私をしっかりと見つめました。
「奪いにきて……としか言えないですね」
その瞳に吸いこまれそうで、私は息を飲んだまま、しばらくかたまるしかないのでした。
奪いにきて
「奪いにきて……」
由佳理のやわらかそうなくちびるは、妖艶に淡く開かれたままです。彼女の表情のひとつひとつのパーツに引きこまれながら、私はなにも考えることができずにいました。
「冗談、ではないですよ」
と、彼女は言葉を重ね、おだやかに笑います。
「うん、うん」
などと、私は何度もうなずきながら、心のなかで「行きます行きます」と繰り返していたのでした。
「松尾さん、じゃなく、ね」
と、由佳理はおかしそうです。
「は?」
「だから、この若者にね、ほんとに結婚したいんだったら、奪いにくるしかないですねって話」
「あ、ああ……」
「ああ、じゃなくて……なにエッチな顔してるんですか」
「いや、してないよ。してない。そうね、この若者にね」
「そう。結婚するにはどうしたらいいですかって……本気ならね、本気で考えて、行動に移すしかないと思うんですよ。結婚バナシが天から降ってくるわけないんですから」
「…………」
「実際問題……」
と、彼女は少しだけためらってから、ちょっぴりいたずらっぽい顔つきになって首をかしげました。
「純一さんは、山田一郎さんから私を奪ったわけですから」
「あ、ああ、そうね……そうだよ」
そうなんです。もうかれこれ10年以上前の話になりますが、すでに山田一郎と夫婦だった由佳理は、わざわざ離婚させられて高橋純一の後妻になったのです。
「もちろん背景には、純一さんのお父さんが私の父を説得したってこともあるんですけど……って、松尾さんは、そういうふうに理解してるでしょ」
親が決めた政略結婚……確かに私はそういうふうに思ってました。
「でも、実際は、やっぱり当事者の思いっていうか、熱意があるんですよ。純一さん……松尾さんいわくMr.オクレそっくりの中年男が、どこかで私を見て気に入って、話が進んで……つまり、高橋純一は山田一郎から私を奪ったわけです」
「…………」
なるほど、と、私は心のなかでうなっていました。あんなブサイクな男が、とか、金にものを言わせて……みたいなことばっかり考えてましたが、確かに、由佳理本人が純一本人を気に入らなければ、そもそも結婚なんてことにはなるわけないのです。
リアルにそこにあるもの
「奪われた……」
ひとりごとのように言った私の言葉に、由佳理は深くうなずいたのです。
「そういうことなんですよ。暴力的にでもなく、犯罪めいたことではなくて、心を奪われたわけですよ。ちゃんと本人が現れて、私も彼を見て、自分の意志で決めたわけですから」
「…………」
「いまの若者……って言うのはおばさんみたいでいやなんですけど、みんな、恋愛とか男女のことが漫画や映画やゲームのなかにしかないみたいに思ってる気がするんですよ。フィクションっていうか、現実ではなくて、自分とは遠いもの、みたいな……カレシとかカノジョ、とか、とつきあうってことが、自分の想像のなかだけで勝手に完結してる、みたいな……」
「…………」
「だけど、ほんとは、リアルにそこにあるものなんですよね。だから、想像ばっかりしてないで、恋人がほしいとか、あの人とつきあいたいって思ったら、いろいろと計画を練って、トライして、少しずつ近づいて、一度や二度ダメでも、いろいろとやりかたを変えて、何度もチャレンジして、手に入れようって思わないと」
「…………」
「もちろん、ストーカーみたいなのはダメですよ。そんなことで心を奪えるって思ってるのが、そもそもフィクションですから」
不思議に生き生きと話す由佳理に、私は圧倒されてしまいそうでした。
「由佳理さんみたいなすてきな人と結婚するにはどうすればいいですか?」という若者の相談に「奪いにきて」とひとこと答える由佳理のリアル。
「どうすればいいですか」なんて質問してる場合ではないんだよ、と。本気なら本気で、しっかりと考えて行動に移しなさい、と。
私は少しばかり感動していました。
「おれも……」
と、そのとき、くだらない冗談を思いついていました。
「おれも、由佳理を奪いに、行っちゃおうかな」
ウヒヒという顔で由佳理を見ます。
「ふふ、いいですけど……奪う相手は、よくご存知の、高橋純一、ですよ?」
「…………」
「かなり、手強い、ですよ」
完璧なライティングで浮かびあがるホテルのゴージャスさのなかで、由佳理はひどく妖艶に笑ったのでした。
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