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最終更新日:2024.01.21 公開日:2024.01.17

【フリフリ人生相談】第424話「子育ての相談は誰にすればいい?」

登場人物たちは、いいかげんな人間ばかり。そんな彼らに、仕事のこと人生のこと、愛のこと恋のこと、あれこれ相談してみる『フリフリ人生相談』。人生の達人じゃない彼らの回答は、馬鹿馬鹿しい意見ばかりかもしれません。でも、間違いなく、未来がちょっぴり明るく思えてくる。さて、今回のお悩みは?「子育ての相談は誰にすればいい?」。答えるのは、ふたりの子を持つビジネスウーマン、恵子です。

ストーリーテラー=松尾伸彌

画=Ayano

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親がなくても子は育つ?

小学1年生の子どもを持つママさんからのお悩みです。

「ズバリ、子育ての相談は誰にするのがベストですか?」

いつになく簡潔な相談かと思ったのですが、実は長い手紙がついてました。関東在住で、昨年離婚してひとりで子育て奮闘中のママさん。仮にAさんとしておきます。Aさんの両親は北陸に住んでいるので頻繁には会えないらしいのですが、たまにやってきては孫の相手をしてくれます。が、それはそれでただの「猫っかわいがり」状態。しっかりと育てたいと切望しつつ、誰に相談していいかわからないので困り果てている、と。Aさんのお姉さんは長野に住んでいて、具体的に相談するには少し遠い……。自分の仕事もあるし、誰に頼んでもお金もかかりそうで……とのことらしいです。

離婚したママさんが子育てに途方に暮れている……。住む場所は変われど、どこでも見かける「お悩み」ではないでしょうか。

「子育てにはお金がかかる」というのも、切実そうです。

さて、どうする?
というわけで、今回のお悩みは恵子に持ちかけることにしました。彼女には高校生と中学生のふたりの息子がいます。シングルマザーではないのですが、働く女性としてなにかしらのアドバイスはもらえそうです。

目黒にできた新しいビルのスタバで待ち合わせました。
おしゃれですね、スタバ。初めてきた店舗ですが、窓がやたら大きくて「最先端」って感じがします。お客さんたちも一様に静か。口から泡を飛ばして営業しているおじさん、みたいなのがいないのがスタバなのかもしれません。

待ち合わせの時間に5分ほど遅れてやってきた恵子には、長い手紙を読んでもらいました。長いといっても論文ってわけでもないので、すぐに読み終わって、少しだけ怪訝な表情を浮かべる恵子です。

「なぜ、私?」
なんて素朴なところに疑問があるようです。

「いや、そんなに深い意味はないけど、きみにも子どもがいて、働いている女の人ってことで、なにかアドバイスをもらえるかなって……」
「子育て……ねぇ」
「そんなにむずかしく考えないでね。そもそも、このお悩みは、子育てはどうすればいいかってことじゃなくて、誰に相談すればいいかってことだから……」
「そう、そこなんですよ、ちょっと引っかかるのは……ズバリ誰に相談すればいいかって言われて私のところにやって来るっていうのが、なんか、松尾さんの皮肉じゃないかなって」
「へ? いや、それはない。ズバリ恵子に相談しよう、それですべて解決だってことじゃないから」
私は笑ってしまいそうになりました。
「そもそもさ、おれが思うに、親がなくても子は育つって言うじゃない? だから、あんまりむずかしく考えないほうがいいよって方向になるのかなって、勝手に想像してるんだけど」
へらへらと笑う私に、恵子が鋭い視線を投げてよこします。

「それは違いますね……親がなくても子は育つって、それはね、男の人の感覚なんですよ。ふざけるなって……親がいなけりゃ子はいなんですよ、女から言わせると」
「へ?」
「誰が生んだと思ってるんですか。女はね、自分のお腹を痛めて生むんですよ。だから、子育ても切実なんです。親がなくとも子は育つなんて、冗談でも口にできないんですよ」

いきなりすごい剣幕です。

本人に聞いてみる

「そうか……」
と、詫びるのもなんだかみょうだと思ったので、曖昧にうなずいているしかありません。
「だったら、切実な悩みとして、どう思う?」
なんて、話を軌道修正するつもりで、やさしく微笑んだりしてみます。

「あと、私が子育てを語るっていうのも、やっぱり、おこがましいと言うか」
と、恵子はすっきりしない顔つきで首をかしげています。

「いや、それはなしね。それを言っちゃあ、このフリフリ人生相談、成立しないからね」
私は山田一郎を頭に浮かべながら言ったのですが、それが恵子に伝わったかどうかはわかりません。

「そうですね」
と、恵子は曖昧な感じで、とりあえずはうなずいてくれました。
「あまりむずかしいことは考えずに、ひとこと言うと……」
「うん、いいね」
「あれこれと悩んじゃうっていうのは、ほんとにわかるんですよ。言うこと聞かないし、じっとしてないし、好ききらいもあるし……小学低学年のころって、赤ん坊がようやく人間の姿になってきたくらいじゃないですか。そのくせ学校で生意気なことをいろいろと覚えてくるし」
「うんうん」
「いまだと、困ったことが起こるたびにきっとネットで検索したりして、よけいにワケがわからなくなると思うんですよね」
「うんうん」
「まして、父親がいないってことだと、ほんと、気が遠くなるくらい大変ですよ。誰かに相談したくなる気持ちもわかります。でも、誰に相談したところで、それって、みんなヒトゴトなんです。自分の子どものことを具体的に熟知してる回答なんて、あり得ないわけですから」
「うん、まぁ、そうだね」
「相談するって……たとえば、学校の先生とか、塾とか、子育て教室の誰それとか、ネットでそれらしい人を探すとか……そういうことですよね」
「そうだね。ママ友とか……」
「あり得ないですね、ママ友は」
恵子は肩をすくめて苦笑します。
「そうなの?」
「最初はいい気がしますけど、結局、ヒエラルキーの迷宮ですからねぇ」
「そうなの?」
恵子の表情に世間のきびしさを感じた私です。

「きっと、他人を頼ろうとするところが、違うと思うんですよ」
「うんうん」

身を乗り出しがちな私に、恵子はあっさりと言いました。

「だから、まずは、本人に聞いてみる、ですね」
「本人……つまり、子ども自身ってこと?」
「そうです。悩んだら、とにかく、子どもにママの悩みを伝えて、いっしょに考えてもらう。たぶん、これがいちばん理想的な解決策……これしかないです」

奇妙にきっぱりとした口調で恵子は言います。

「私としても、いまにして思えばってことなんですけどね」
と、少しだけ照れたように苦笑します。

息子たちが高校になり中学になり、ようやくわかったこと、という意味なのでしょうか。

実のある会話

「子ども本人に聞いてみるって、かんたんそうで、実はむずかしいってことかな」
恵子の、個人的な年月を経た育児体験から導き出された言葉の意味を、私はゆるゆると考えていました。

私の質問に、ずいぶんと長い時間をおいてから、恵子は静かに答えたのです。

「きっと逆ですね。むずかしそうで、実はかんたんってことかもしれませんね。好ききらいとか、落ち着きがないとか、宿題やらないとか、忘れ物が多いとか、お手伝いしてくれないとか……言えばいくらでも出てくるわけです。子育ての悩み。どうすればいいんだろうって、悩めば悩むほど奥が深いっていうか……小学低学年から高学年、中学になり高校になり……どんどん出てきますよ。誰に相談していいかわからない、けど、ひとりじゃとても解決できそうにない……悩みは尽きないですよね。そういう悩みを解決できる人物がいるとすれば、ひとりだけ、子ども本人なんですよ。ってことは、素直に、こちらの悩みをしっかりとぶつけてみるしかないじゃないってことなんですよね」
「そうするしかないんだから、そうしてみようってことだね」
「子どもの年齢とか日々の生活リズムとか、いろいろあるでしょうから、話しかたとか、持ちかけかたはそれぞれだと思うんですよ。でも、最終的には、いまママが悩んでいることを素直に子どもに伝えて、解決策をいっしょに考えてもらう。逆に言うと、子どもが悩んでいるとか困ったことがあったら、そのときはママに相談してねってことになって、いろいろとうまくいくんじゃないですかね」
「なるほど」

本人に聞いてみる——。
目からウロコって気がしてきました。

子育てに関するママの悩みごとを、子ども本人に相談してみる……そこにあるのは、頭ごなしの否定でもなければ、強硬な指導でもありません。
「きみの態度のこういうところに困ってるんだけど、どう思う?」
なんて聞けば、子どもだって、いろいろと言いたいことはあるでしょう。子どもには子どもなりの悩みとか苛立ちもあるはずです。

最初は戸惑いもあるでしょうが、いずれ母と子の豊かなコミュニケーションが成立する気がします。

「なんですか」
と、恵子が私の視線に気づいたのか、ためらいがちに聞いてきます。

「いや、すばらしいなと思ってさ。惚れ直したよ、恵子さん」
素直にほめたひとことですが、あっさりと無視するような目つきで、恵子は横目で私をにらみます。
「松尾さんって、ほんと、馬鹿ですよね」

馬鹿……いったいどこが? と思いつつ、呆けた顔のまま、それでも感心しきりの私なのでした。

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