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最終更新日:2023.12.20 公開日:2023.12.17

【フリフリ人生相談】第422話「イヤと言えない性格がイヤ」

登場人物たちは、いいかげんな人間ばかり。そんな彼らに、仕事のこと人生のこと、愛のこと恋のこと、あれこれ相談してみる『フリフリ人生相談』。人生の達人じゃない彼らの回答は、馬鹿馬鹿しい意見ばかりかもしれません。でも、間違いなく、未来がちょっぴり明るく思えてくる。さて、今回のお悩みは?「イヤと言えない性格がイヤ」。答えるのは、飲み屋にはツケだらけ、バンジョーです。

ストーリーテラー=松尾伸彌

画=Ayano

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頼られるうちが華

今回のお悩みはこんな内容です。32歳の男性から。

「ぼくは昔から、頼まれたらイヤと言えない性格です。何度も『お金を貸してほしい』と言われたり、保険の勧誘とかオススメ商品の購入とか、知り合いから頼まれます。そのたびに、断れない自分がいて、なんとかやりくりして期待に応えてきました。でも、さすがに、この年齢になって、そんな自分がいやになってきました。どうしたら、きっぱり断れる男になれますか?」

なるほど。断れない自分をなんとかしたい、きっぱりと断れる男になりたい! そういう悩みと希望です。

いろいろ迷いつつ、このお悩みはバンジョーに相談することにしました。
なにせ、バンジョーは飲み屋のツケをためこみ、友人知人から借金をする男なのです。つまり、このお悩み男性に金をせびるタイプ。
まずは、敵を知れ。
というわけで、しっかりと「金を借りる男の心理」を学んでみようと考えたわけですね。

バンジョーと会ったのは、いつものように麻布にあるカウンターだけのバーです。18時まではなにを飲んでも半額。とはいえ、この季節になると5時前なのにすっかりあたりは夜の気配です。

「こういうお悩みなんですけどね。バンジョーさんの場合、友だちにお金を借りたり、飲み屋にツケをためるタイプじゃないですか……そっち側の意見も参考になるんじゃないかと思って……」
などと、いきなり核心を突いてみましたが、いやな顔もせず、バンジョーはビールを飲んでいます。
「まぁあれだよね」
と、いいことを思いついたみたいな顔つきで言うのです。
「昔から言うじゃない? 人間、頼られるうちが華ってことだよ」
私は皮肉でもなく笑うしかありません。
「ということは、そんなことで悩んでないで、いまのままでいいじゃんってことですね。バンバン貸して、バンバン買ってあげて、まわりに好かれなさい、と……」
バンジョーに相談したモクロミどおりの答えなのかもしれませんが、これではあまりに身も蓋もないですね。

「じゃあ、そんなバンジョーさんに質問です。お金を借りようとは思わないタイプって、どんな人ですか?」
まさにそれに対する答えこそが、今回のお悩みの回答になるに違いありません。

頼りたくない人

「そりゃあ、かんたんだね」
相変わらず呑気な雰囲気で、バンジョーは言います。

「ぜったいに貸してくれそうにない人でしょ」
「ふむふむ」
「たとえば、松尾さん、とか?」
「え、おれ?」
いきなりの名指しで、少しばかり面食らうしかありません。

「なんで……? おれってそういうタイプですか? ぜったいに貸してくれそうにないって感じ?」
「そうでしょう」
「そうかなぁ」
と、首をかしげてみます。

「じゃあ、貸してくれる?」
微笑を浮かべながら、私を見つめるバンジョーです。

「いや、え? どうかな……」
うろたえる私です。冗談のように言ってるバンジョーではありますが、もしも本気だったらどうしよう、などと、いろんなことを考えてしまいます。

「ね……」
と、なぜかおかしそうに笑ってから、ぐびぐびとビールを飲み干して、カウンターのなかに向かって空いたグラスをかざします。

「つまり、松尾さんは、頼られるうちが華だなんて、これっぽっちも思ってないってことだよね」
「いや、べつにそういうわけでは……」
「ない」と言いきりたい気持ちはあります。頼られてうれしくないはずはないのです。人間誰しも、頼られればどこかうれしい……はず。

そんな私に、バンジョーはなおも言います。
「お金のことだよ。頼られたい? ぼくがお金貸してってお願いしたら、頼られてうれしいって思う? 松尾さんは、そういうふうには、ぜったい思わないでしょ」
そう断言して、バンジョーはなぜかうれしそうなのです。

そんなバンジョーの横顔を見つめていると、少しばかり腹立たしい気持ちにもなってきました。

「確かに……頼られてうれしいって言うより、どういうんですかね、そんなバンジョーさんをどこか軽蔑するというか、馬鹿じゃないのって……」
「ね、そうなんだよ」
と、まるで勝ち誇ったようにバンジョーはうなずきます。

「そういう人なんだよ、松尾さんは。人にお金を借りたり、お店のツケをためるなんて、馬鹿じゃないのって思ってるんだよ」
「…………」
いやな感じです。いやな感じですが、反論する気持ちにはなりません。

「た、確かに」
と、私は小さな声で言いました。
「そういうところ、あるかも、ですね」

「でしょ?」
何度もうなずきながら、バンジョーは新しく注いでもらったビールをうまそうに飲むのです。

馬鹿だと思え

「つまり、答えは出てるよね」
心の底からうれしそうに、バンジョーは私を横目で見て、またビールを飲みます。
「この相談者さんは、松尾さんみたいな人になればいいってことだね」
「…………」
「断れない自分をなんとかしたい。きっぱりと断れる男になりたい。それにはどうするか……答えは、松尾さんみたいになる、だね」
「さっぱりわかんない」
私はそう言うしかありません。

「そんなことないでしょ? 松尾さんの本心をしっかりと伝えてあげればいいんだよ。借金を頼んできたり、保険の勧誘をしてきたり、なにかを売りつけてきそうな人に対して、心の底から、馬鹿じゃない? って思える人間になれってことだよ」
「なんか、それ、いやな言いかたですよね。まるでやさしさのない人間みたいだ」
「だって、そうでしょ? 頼られるうちが華だなんて、これっぽっちも思わないんだからさ。おれに頼ってくるんじゃねえよ馬鹿って言いきれる人間」
「…………」

借金をする人を馬鹿呼ばわりしているつもりはないのですが、バンジョーにはそう見えているってことかもしれません。

そういう評価は、甘んじて、というより堂々と受け入れるのが正しいということでしょうか。
うーむうーむ、と、自分のココロのうちを眺めてみれば、バンジョーが言うように、結論はとっくに出ているのかもしれません。

「確かに」
と、私はまだ口をつけていないグラスを見つめて言いました。

「知り合いに借金をしようとか、飲み屋にツケをためるとか、そういうのは考えかたが甘いとは思いますよね。なめてる。だめ。人間として許せない」
「…………」
バンジョーは黙ってうなずいています。

ひとりごとのように言いながら、私は少しばかり昂ぶってきました。
「頼られるうちが華じゃないんです。そんなやつらに頼られるってことは、馬鹿にされてるってことですよ。どんなことお願いしても、きっとあいつなら許してくれる、きっと貸してくれるって思われてる……そんなのに応える義務はない! 堕落した人間につきあう義理はない!」
私は自分の言葉にうなずきながら、ふと気づいて、照れ隠しのような苦笑を浮かべてみました。

となりでバンジョーも笑っています。
「堕落ってことはない気がするけど……でも、そういうことだよね」
「…………」
「今回の結論が出た、ということで……」
そう言って、バンジョーは、置いたままになっている私のグラスに自分のビールグラスをカチンと当てて、おだやかに微笑んだのでした。

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