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【フリフリ人生相談】第421話「知らなかった! 夫の女装趣味」

登場人物たちは、いいかげんな人間ばかり。そんな彼らに、仕事のこと人生のこと、愛のこと恋のこと、あれこれ相談してみる「フリフリ人生相談」。人生の達人じゃない彼らの回答は、馬鹿馬鹿しい意見ばかりかもしれません。でも、間違いなく、未来がちょっぴり明るく思えてくる。さて、今回のお悩みは?「知らなかった! 夫の女装趣味」。答えるのは、髙橋純一の妻、由佳理です。

ストーリーテラー=松尾伸彌

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画=Ayano

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もしも髙橋純一が

今回のお悩みは「よくある」ってことはなさそうですが、でも、実際は案外、こういう事例もけっこうあるのかもしれません。

「30代女性です。夫に女装趣味があることを最近知りました。友人の友人が、そういう趣味の人が集まる店で夫を見かけたらしく、友人を通じて、そのことを知りました。あまりのショックに気を失いそうになりました。これから先、どうしたらいいでしょうか」

夫の女装趣味です。
みなさんはいかがですか? 女装を趣味とする人は最近増えているようですが、夫にその趣味があることをこれまで知らなかった妻の驚き……想像するだに笑ってしまいそうですが、実際問題、笑ってる場合ではなさそうです。

というわけで、今回は由佳理に相談することにしました。由佳理の夫は髙橋純一。Mr.オクレにそっくりの実業家です。はっきり言ってハンサムの逆をいってるタイプです。でも、もしかすると、髙橋純一が実は女装趣味……ということもないわけではない! なんて想像しつつ、とにかく由佳理に会うことにしました。

会った場所は……いつものように丸の内の高級ホテルのラウンジです。この『フリフリ人生相談』では6人のメンバーにいろんなところで会うわけですが、当然、由佳理の回がいちばん好き!

なんてことは置いといて……。

「どうかね、こういう悩み……」
と、ざっくりとお悩み内容を読んでもらったあと、由佳理の顔をうかがうようにしてみました。
「どうって……」
由佳理はどう反応していいのかわからない感じで、黙っています。

「旦那さんが……つまり、髙橋純一が実は女装趣味だったってことだよね。たとえばね。由佳理ちゃんなら、どうする?」
「え?」
そんなことはまったく頭になかったらしく、少しばかり動揺しています。

「ま、松尾さん、知ってたんですか?」
と、彼女は意外なことを言いました。
「え? どういうこと?」
今度は私が動揺する番です。

「ほんとなの? 実は高橋純一が?」
ほんの一瞬、彼が女装している姿を想像して、思わず声が大きくなりました。

「なぁんてね」
と、かわいく舌を出す由佳理です。
「なんだよ、ウソ?」
「いや、ほんとのところは知りませんよ。聞いたことないですからね。でも、そういうことですよね、このお悩みは……」
「そうだね……もし、そうなら、どうする?」
「どうするって……どうするかなぁ」
真顔で視線をちょっとだけ上向きにして、彼女は黙っています。髙橋純一が女装している姿を想像しているのかもしれません。

私はその表情を眺めながら、ほとんどなにも考えていません。髙橋純一の女装も、それも想像している由佳理の頭のなかも、私にはまったく見当がつかないのです。

ようやく私を見た由佳理は、ゆっくりと言いました。
「おもしろそう、とは思いますね」

噂のイメージ

「おもしろそう?」
思わず聞き返してしまいました。
「純一さんが女装趣味なんて想像できないけど、もしほんとにそうなら、なんだか……深そうですよね」
「深そう?」
「そう、深そう……ディープな……なにか、哲学的な境地ってわけでもないけど、趣味としてはほんとに奥が深そうな気配っていうか……」
「…………」

私は由佳理を見つめます。彼女は穏やかな顔をしています。夫の女装趣味を想像して、そういうふうに答える由佳理……私は、思わず小さく笑っていました。

「ほんとに、仲がいいんだね」
由佳理と髙橋純一の夫婦仲を想像すると、そういう結論になってしまいます。
「旦那のことを信頼しているっていうか……」
「そうですか?」
「少なくとも、今回の相談をくれた奥さんみたいにショックで気を失いそうってことは、ないわけだよね」
「ああ、確かに……ショック? ショックってことはないと思うんですよ」
「うん」
「あの純一さんが女装ですよ……ショックというより、やっぱり、なにか深いものがある気がしませんか?」
「しませんかって……それはよくわからないけど……」
髙橋純一の女装姿を想像しても、まったく深いものは感じられない私です。
「でも、この奥さんは衝撃を受けて、これから先どうしたらいいんでしょう、なんて悩んでいるわけだよね」
「ああ、そうですね」
由佳理は目を落として、テーブルに置いたiPadを眺めています。

「あ、でも、それは……」
少し首をかしげて、iPadを見つめたまま言いました。
「友人から聞いたからじゃないですかね」
「…………」
「噂って、どこで、誰から、どんな雰囲気で耳にするかで、まったくイメージが変わるじゃないですか。だから、この奥さんは、すごくショッキングな感じで聞いちゃったんじゃないですか? 実は、あなたの旦那さんには、こんなにすごい趣味があるらしいよ、みたいに……」
「なるほど」

明るく聞いてみよう

私は深くうなずいていました。確かに由佳理の言うとおりかもしれません。噂にまつわるイメージというのは、確かにあります。噂がどんな雰囲気をまとうかで、その中身もまったく違う伝わりかたをします。

「旦那さんが浮気しているっていうのと、女装趣味っていうのは、ぜんぜん違うと思うんですよ」
「…………」
「でも、いままで知らなかったということは、旦那さんも奥さんに言い出せてないわけで、その理由は……」
と、一瞬考えてから、彼女は考えをまとめるようにつぶやきます。
「言っちゃうと奥さんにいやがられる……とか、ですかね」

「確かにね。たぶん、そうなんだろうね、実際、奥さんはショックで気を失いそうになってるわけだから」
「それが想像できるから、告白できない」
「そうだね」

由佳理はそうではないようですが、男の女装趣味を生理的に受けつけないという女性もいるかもしれません。そうなると、なかなか、夫としては奥さんと共有できない趣味ということになります。

「だから、ここで夫婦の危機にならないためにも、できるだけ明るく旦那さんに聞いてみるっていうのが、いいんじゃないですかね」
由佳理はきっぱりとそう言いました。

「明るく?」
「そう……いやだ、ショックだ、とんでもない、なんて顔で旦那さんに接すると、問いつめてるみたいになって、よくないと思うんですよ」
「うん、そうだね」
「だから、ここは無理してでも、旦那さんに、明るくやさしく、こういう噂を聞いたんだけど、ほんとに女装してるの? ねぇほんとなの? 見たい見たい見たぁい、見せて見せて、とかって甘えてみるとか」

こんなふうに迫られちゃうと女装でもなんでも見せちゃうぞって気になりますが、それは、由佳理がそういうタイプだからでしょう。

ショックを受けている奥さんに、それは可能でしょうか?

「どうだろうね」
と、私は正直に感想を口にしました。
「無理なことをやっても、やっぱり奥さんの表情に嫌悪感みたいなのが、にじんじゃうんじゃない?」

「そうかなぁ。でも、そんなにいやがることなんですかね。女装でしょう? 女の子がお化粧したりかわいい格好したり……それと似てる気がするんですけど。気持ちがわからないはず、ない気がするんですけど」
「うんうん、それは言ってあげたほうがいいかもね」
「だから言ってるじゃないですか」
由佳理は笑います。

「とにかく、奥さんとしては生理的に受けつけないにしても、できるだけそういうのは顔に出さないようにして、明るく、前向きな感じで旦那さんに聞いてみる……それしかないですよ」
「ふむ……」
「これは女装に限らず、旦那さんから本音を引き出すコツです」
「コツ?」
「そう……たとえば、浮気の疑いがあるとか、仕事がうまくいってないかもしれないとか、悩みがあるみたい、なんていうときって、あるじゃないですか。きっと私には話したくないんだろうなっていう感じ……そういうときに、真剣な顔して迫ってもぜったいほんとのこと言ってくれないと思うんですよ。だから、そういうときこそ、明るく、ふわっとした感じで聞いてみるのがいいんですよ。これは、ほんと、人間関係のコツですね」
「なるほど、人間関係ね」
「そう、夫婦に限らず、相手は誰でも」

由佳理はなにやら意味ありげに笑っています。

もしかすると、高橋純一も由佳理の笑顔に誘導されてあれこれとしゃべっているのかもしれません。
でも、まぁ、それはとても幸福な旦那さんに違いない、と、由佳理を見ながら思うのでした。

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