世界が注目する日本の若きアスリート──いま「F1」に最も近いレーシングドライバー、岩佐歩夢って誰だ?
岩佐歩夢、21歳。職業、レーシングドライバー。いま「F1」にもっとも近い注目のホープは、日々何を考え、何を目指し格闘しているのか。モータージャーナリストの大谷達也が緊急インタビュー。その素顔に迫った。
日本人、史上初の快挙となるか
岩佐歩夢という名のレーシングドライバーをご存知だろうか?
彼が本格的に4輪レースで戦い始めたのは2019年のこと。そして、わずか4年後の2023年、いまではF1直下のFIA-F2選手権でチャンピオン争いをしていて、その結果次第では2024年のF1昇格も夢ではないという、スーパースターになる可能性を秘めた若手ドライバーが岩佐選手なのである。
「F1のワールドチャンピオンになるのが夢です」と語る現在21歳(取材当時。今年9月に22歳になる)の岩佐選手は、4歳でカートレースにデビュー。2014年に鈴鹿のカートレース(クラスはヤマハSS)で優勝したほか、2018年には国内のFIA-F4選手権にもスポット参戦したが、大きな成功を収めることはなかった。
ところが、2019年に鈴鹿サーキットレーシングスクール(SRS-F。現在はHRS-Suzuka Formulaに改名)でスカラシップを勝ち取ると、翌年はフランスF4選手権に参戦していきなりタイトルを獲得。2021年のFIA-F3選手権(結果はシリーズ12位)を経て2022年にFIA-F2選手権へとステップアップし、ここでもシリーズ5位という好成績を収める快進撃を見せたのである。
ただし、岩佐選手自身はここまでのレースキャリアを「決して順調だったとは思えません」と振り返る。
国内有数のステップアップカテゴリーであるFIA-F4選手権には16歳から出場できる。事実、岩佐選手も16歳でFIA-F4選手権にデビューしたが、シリーズへのフル参戦はかなわず、スポット参戦にとどまった。
「これまでレースを続けるなかで、資金面でいろいろと苦戦した部分がありましたが、いろいろな方々に助けていただいて、ここまでやってくることができました」
岩佐選手の場合、SRS-Fでスカラシップを勝ち取ったことでホンダ・フォーミュラドリーム・プロジェクト(HFDP)の育成ドライバーに選出され、資金面の不安が解消。これが、その後の活躍につながったことは間違いなさそうだ。
FIA-F2選手権に参戦して2年目の2023年は、ここまで10戦を終えて134ポイントを獲得し、ランキングトップのテオ・プルシェールとは34点差で3番手につけている。ちなみに、F1直下の国際的なレースシリーズでタイトルを勝ち取った日本人ドライバーはまだいない。もしも岩佐選手が栄冠を勝ち取れば、史上初の快挙となる。
岩佐歩夢に立ちはだかる高い壁
それでも岩佐選手は、今シーズンのここまでの戦い振りに納得していない様子だった。
「正直、僕が予想していたほど、うまくいっていません」
その原因は、どこにあったのか?
「自分自身には速さを示せるポテンシャルがあったのに、それをちょっとしたミスで失ったり、チーム側のミスもあったりと、いろいろなことが噛み合わず、ここまで結果を出せませんでした」
そういいながらも今シーズン、すでに計3勝(週末の土曜日に行われるスプリントレースで2勝、日曜日に行われるメインイベントのフィーチャーレースで1勝)を挙げているのだから立派なものだ。
「はい、ランキングのポジションとしては悪くない場所にいるので、残り3戦を諦めることなく、チャンピオンを目指してしっかり頑張りたいと思います」
ただし、F2でチャンピオンになったからといって、確実にF1ドライバーになれる保証はない。2021年1月にレッドブル・ジュニアチームのメンバーに選ばれた岩佐選手にとって、F1ドライバーになるもっとも現実的な筋道はレッドブル傘下のアルファタウリからデビューすることだが、ご存知のとおり、ここには同じ日本人の角田裕毅選手が在籍している。
ここで角田選手が来季レッドブル・レーシングに“昇進”できればアルファタウリに“空きシート”が生まれるものの、そうでなければ、角田選手と岩佐選手でひとつのシートを奪い合う展開にならないとも限らないのが、F1界の厳しい現状なのである。
この点について岩佐選手に訊ねると、こんな答えが返ってきた。
「いま僕が世界でいちばん速くて強いドライバーかといわれれば、正直なところ、そうではないと思います。だからこそ、ここから経験を積んで、さらに成長しなければF1ワールドチャンピオンにはなれません。ですから、いま(の実力)はまだまだですが、最終的には誰にでも勝てるところを目指しているので、そこ(=角田選手を破ること)についても、しっかりと戦う気持ちでいます」
僕には夢がある
それにしても、なぜ岩佐選手はF1ワールチャンピオンを目指しているのか?
「先ほど、これまで資金面でいろいろな方に助けていただいたと申し上げましたが、自分がF1ドライバーとして長く戦い続けて、最終的にF1ワールドチャンピオンになれれば、今度は自分がそういうこと(=人を助けること)をできるようになります。F1ワールドチャンピオンになりたいと思う理由のひとつは、ここにあります」
では、ほかにどんな理由があるのか? 岩佐選手に訊ねてみた。
「やはり、F1ワールドチャンピオンになるのは、自分にとっても魅力ある夢です。そのふたつの理由から、いまはF2チャンピオンになることを目標に頑張っています」
状況が容易でないことは、岩佐選手も承知している。
「ここ数年の様子を見てもわかるとおり、どれだけいいドライバーであっても、タイミングとかいろいろな状況でF1に乗れる、乗れないが決まってきます。そこで、まずは自分でできることはすべてやって、いつでもいける状態にしておくことが最優先だと思っています」
まずはF2タイトルの獲得、続いてF1への昇格を、岩佐選手には決めて欲しいものだ。
PROFILE
岩佐歩夢|Ayumu Iwasa
2001年9月2日生まれ。大阪府出身。4歳の頃にカートレースでモータースポーツの世界へと足を踏み入れ、16歳でFIA-F4選手権にデビュー。2021年にはRed Bull Junior Team加入し、2022年にはFIA-F2選手権で5位入賞を果たす。今シーズンもタイトル獲得を目指しF2選手権に参戦中。