世界初の防弾仕様EVをBMWが発表! 世界のVIPカーと何が違う?
BMWは8月9日に、銃撃や爆弾に対する乗員保護性能を持つ世界初のEV「i7プロテクション」と、ガソリンタイプの「7シリーズ プロテクション」を発表した。これを機に、この2車種と日本、アメリカ、中国、ロシアのVIPカーの仕様についても確認してみたい。
VIPカーは国のステータス!
“VIPカー”と聞くと高級車を連想する人が多いと思うが、今回のテーマは、その中でも、各国元首のような特別に重要なVIP=Very Important Personを乗せるための、厳重なセキュリティ機能を備えた要人警護車両を紹介しようと思う。
VIPカーはその国のステータスを表す象徴のひとつともいえるため、様式・安全・快適性などのどこに重きを置くかは国ごとに異なる。メーカーにとっても自社のクルマが選ばれることは名誉なことだ。
中でも要人警護能力に優れたVIPカーの場合は、防弾ガラスや追加装甲、堅固なネットワークセキュリティなど、外観からは想像もできないような機能を多数搭載している。もちろん、仕様については機密事項となっている部分が多く、真の姿を知る者は一握りというロマンの塊のような存在でもある。
そんなVIPカーにも、ついにEVが登場した。ドイツのBMWは、現地時間の8月9日に、世界初となるバッテリーEVモデルの要人警護車両「i7 プロテクション」と、ガソリンモデルの「7シリーズ プロテクション」を発表。パンクしても時速80kmで走行可能なタイヤや、ガソリンタイプでは穴が空いても自己修復する燃料タンクなど、驚きの機能が多数搭載されている。まずは最新のVIPカー、BMWの新型車の仕様を紹介しよう。
i7 プロテクションはどれくらいスゴイ!?
通常、VIPカーは完成車両に架装メーカーが装備を後付けするものだが、BMWは全面改良した7シリーズの設計段階から防弾仕様のモデルも同時に開発している。そのため、操縦性や居住性、走行性を高い次元で両立させることに成功したという。それでは、新型2車種の共通仕様とそれぞれ別の仕様を確認してみよう。
■7シリーズ プロテクションとi7 プロテクションの共通仕様
・ドア、アンダーボディ、ルーフには「BMWプロテクション・コア」と呼ばれる装甲鋼板を採用。手榴弾やドローン攻撃を想定した爆発物に対する保護機能を持つ。
・ガラスは7.62mm弾の貫通を防ぎ、ドイツの防弾性能審査機関「VPAM」の基準で民間車両トップクラスとなるVPAM10評価を獲得。
・タイヤはミシュラン製で20インチのランフラットタイヤ「PAXシステム」を装着。エアーが完全に抜けてもタイヤが潰れず、時速80kmで80kmの距離を走行できるとしている。
■7シリーズ プロテクション(ガソリンタイプ)の仕様
・燃料タンクは銃弾で穴が空いても自動的に密閉状態となり、燃料漏れを防ぐ「自己密閉式燃料タンク」を装備。
・排気量4.4リットルのターボエンジンで、48ボルトマイルドハイブリッド機構を組み合わせた。
・V8 4.4L ツインパワーターボエンジンと48Vの電動パワートレインを搭載し、最高出力は390kW/530hp、最大トルクは750Nm。
・発進から時速100kmまでの加速時間は6.6秒、最高速度は時速210km。走行100km当たりのCO2排出量は355gとなる。
■i7 プロテクション(EVタイプ)の仕様
・前後のツインモーターによる最大出力は400kW/544hpで、最大トルクは745Nm。
・発進から時速100kmまでの加速時間は9.0秒、最高速度は電子制御により時速160kmに制限している。
・販売は欧州限定で、2023年12月に納車予定。
気になる諸元や価格は不明。参考までにエクステリアのベースである「i7 xDrive60 M Sport」の諸元を見てみると、全長5390mm×全幅1950mm×全高1545mmで、車両総重量は2965kgとあるが、重量はこれよりもかなり重くなるだろう。
各国のリーダーが乗るVIPカーも知りたい!
次に、BMWの新型VIPカーと比較するために、世界各国のリーダーが乗るVIPカーについて、日本、アメリカ、中国、ロシアの4か国分をまとめてみたので見てみよう。とはいえ、各車両とも公開情報が少なく、インターネット等からの未確認情報も含んでいるので、あくまでも参考レベルとして楽しんでほしい。
■日本:トヨタ センチュリー
2020年4月から内閣総理大臣専用車として採用されている新型センチュリー。通常のセンチュリーとの外観上の違いは青色灯やミラー程度で、ガラスは防弾仕様であるようだが、その他の仕様については謎が多い。移動手段として高頻度で使用するこの公用車は、同時に情報収集や演説準備の場として活用されることが多いため、居住性や走行性も配慮されているらしい。ちなみに先代の内閣総理大臣専用車だったレクサスは、今でも予備車として併用されている。参考までに、現行のセンチュリーの諸元は下記の通り。
【センチュリー(UWG60)主要諸元】
エンジン:V8 4.968L
最高出力:280kW/6200rpm
最大トルク:510Nm/4000rpm
サイズ:全長5335mm×全幅1930mm×全高1505mm
車両重量:2645kg
■アメリカ:ゼネラルモーターズ キャデラック・ワン(ビースト)
世界最強といわれるビーストは、ゼネラルモータース製のキャデラックをベースに仕上げた大統領専用オリジナルモデル。大統領専用の航空機がエアフォース・ワンと呼ばれていることから、大統領専用車両のキャデラックにも「ワン」が付けられている。ワンオフ車両につき、諸元も不明。
・サイズは不明、車体重量は約8tとされている。
・ドア厚は20cm前後、ガラスも防弾仕様で厚さ12cm以上あるとされており、運転席のみ3インチだけ開く。
・地雷や爆弾、手榴弾から守るよう車体下は耐爆性能を持つ。
・タイヤはランフラットタイヤを採用し、パンクしたり、タイヤ部分が吹き飛んでもリムのみで走行が可能。
・燃料タンクはフォームシールで密封され、銃撃を受けても爆発しない。
・車内は完全に密閉され、生物兵器や化学兵器に耐えるという。消防設備、酸素ボンベ、大統領への輸血用の血液の他、夜間視界カメラも格納されているらしい。
ランフラットタイヤやエクステリアの防弾・防爆仕様についてはi7 プロテクションにも通ずるところがあるが、車内に内蔵した機能の数々は圧巻。
■中国:紅旗 L5
中国の自動車メーカー「第一汽車」が展開する高級ブランド紅旗(ホンチー)のフラッグシップモデルが「L5」。紅旗の大型リムジンには中国の歴代国家主席らが軍事パレードで搭乗している姿が報道されており、現行のL5も2009年の国慶節パレードに登場している。L5はそもそもが要人向けのモデルであるため、豪華な装備が標準搭載されているが、中国政府要人が乗る際にどのような防弾・防爆処理が施されているかは不明だ。紅旗のクルマは日本でも2021年の5月から購入できる。
【L5 主要諸元】
エンジン:V12 6.0L
最高出力:300kW/5600rpm
最大トルク:550Nm/4000rpm
サイズ:全長5555mm×全幅2018mm×全高1578mm
車両重量:3150kg
燃料タンク:105L
■ロシア:アウルス セナートリムジンL700
AURUS(アウルス)は、ラテン語で“金”の意味を持つアウラと、ロシアを掛け合わせた造語で、ロシアのプーチン大統領が立ち上げた自動車メーカー。ロシア国営のNAMI(中央自動車エンジン科学研究所)が車両を開発、2019年に開催されたジュネーブ・モーターショーでは、メーカーが初開発したセナートS600と、セナートリムジンL700が出展され、販売を開始している。
ロシア大統領の公用車であるセナートリムジンL700は、標準モデルに防弾装甲、20インチの防弾ホイール、防火・防爆燃料タンク、消火・空気ろ過システム、外部通信システム、非常用出口などを装備しているという。全長6620mmのロングボディと、堅固な装甲をはじめから装備している世界で唯一のモデルといえそうだ。
【セナートリムジンL700 主要諸元】
エンジン:V8 4.4L ツインターボ
最高出力:598hp
最大トルク:880Nm/2200-4500rpm
サイズ:全長6620mm×全幅2000mm×全高1695mm
車両重量:6500kg
2023年の5月に広島で開かれたG7サミットにおいて、岸田首相を乗せたセンチュリーと、バイデン大統領を乗せたビーストを除いた7首脳が、全員7シリーズに乗って移動している姿が報道されている。BMW 7シリーズ プロテクションは、世界の標準的なVIPカーになる可能性もありそうだ。
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