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最終更新日:2023.06.19 公開日:2022.05.26

電気自動車の本格普及に貢献するか? 日産と三菱がより身近な「軽EV」を発売

脱炭素社会の実現へ向け、バッテリー式電気自動車(BEV)への関心が急速に高まっている。そんな中、日本市場でのBEV本格普及に向けた "真打ち" とも言えるクルマが、5月20日に登場した。日産「SAKURA(サクラ)」と三菱「eK X (クロス)EV」である。

文・写真=会田 肇

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補助金を受け取ることで軽自動車並みの価格を実現

三菱「eKクロスEV」と日産「サクラ」は、両社が共同出資したNMKVの下、三菱自動車工業の水島製作所で製造される。写真のオフライン記念式典には日産の内田誠社長(左)、三菱自動車の加藤隆雄社長(右)が出席した

 5月20日に登場した、BEVの日産「SAKURA(サクラ)」と三菱「eK X (クロス)EV」は、プラットフォームを同じにする兄弟車だ。しかし、それぞれのコンセプトは大きく違う。日産は車名を新しく「サクラ」とし、同社EVの新ラインナップとして登場させた。対する三菱は、車名を「eKクロスEV」と名付け、これまでのeKクロスの流れを汲むEVの追加モデルとしている。

そのため、サクラは上位モデル「アリア」とも重なるデザインイメージを持たせた。一方でeKクロスEVは、外観にルーフレールを準備するなどeKクロスのSUV風デザインを引き継いでいる。つまり、両車は立ち位置を変えることで、それぞれに個性を訴求しているのだ。

注目は、両車とも価格をBEVながら230万円台(最量販グレード)からとしている点だ。価格だけを見れば、軽自動車としてかなり高価だといえるが、国のクリーンエネルギー自動車導入促進補助金を活用することで、実質約170万円台から購入できるようになる。さらに、自治体ごとの補助金が加われば、実質的な価格はもっと下がる。その結果、補助金頼みではあるが、価格面での軽自動車らしさはしっかり実現できていることになる。

日産「サクラ」は同社のBEV三兄弟の一翼を担うべく、初めて軽自動車として登場した。右は日産の最上位BEV「アリア」

 一方で、サクラ/eKクロスEVともに、搭載したバッテリーは20kWhにとどめられている。日本のBEVの先駆けである日産リーフのバッテリー容量は、標準車が40kWhで、航続距離は322km(WLTCモード)を実現している。サクラ/eKクロスEVは、その半分のバッテリー容量しかないため、航続距離は最大180kmと短い。このように、コストのかかるバッテリー容量を抑えることで身近な価格を実現したのだ。

“ご近所クルマ” だからこそ環境負荷が少ない走りが出来る

三菱がi-MiEVに続く軽乗用車第二弾として発売するBEV「eKクロスEV」

 では、前述の航続距離の短さでユーザーは満足できるのだろうか。三菱自動車工業の調査によれば、軽自動車およびコンパクトカーのユーザーの約8割は、一日当たりの走行距離が50km以下にとどまっているという。仮に、エアコンを使ったりして航続距離が180kmを下回ったとしても、「大半のユーザーは2日間以上充電しないで走行できる」(三菱)ことになるわけだ。しかも、バッテリー容量を20kWhに抑えたことで、自宅で8時間充電すれば満充電も可能だ。これは、近所にガソリンスタンドがないエリアに住んでいる人にとっては大きなメリットとなる。

データは少し古いが、経済産業省が実態調査として2016年に行った、「最寄りSSまでの道路距離が15キロメートル以上離れている住民が所在する市町村」という調査によると、全国で302市町村が条件に該当したという。これは、給油するために往復30km以上の距離を無駄に走行していることを意味するといえよう。排出ガスを抑える観点でも、明らかにマイナスとなるのは言うまでもない。そして、こうした地域の住民こそが、サクラ/eKクロスEVがターゲットとしているユーザー層なのだ。

さらに、近年関心が高まっている脱炭素を目指すためには、日常の走行で発生する排出ガスを抑えることが効果的な対策のひとつである。しかし、これまでのように航続距離ばかりを優先すれば車両価格が高くなり、BEVの普及は遅々として進まないだろう。同じく、バッテリー製造の際に生じる二酸化炭素も脱炭素化においては無視できないが、これらに対してバッテリー容量が少ないBEVなら価格も安く提供でき、環境負荷も少なくて済むというわけだ。

両車ともにエアコンの冷媒を活用したバッテリー冷却システムを採用。急速充電を繰り返しても安定した充電量を確保できる

 もともと軽自動車は、セカンドカー的な使い方をする人が多かった。誰もが複数の車両を持つことが難しいのは確かである。しかし、日常時の “ご近所クルマ” としてはバッテリー容量が少ないBEV、遠乗りする時には “足が長く環境負荷も少ない” ハイブリッド車(HEV)を利用する、といった使い分けをすることこそ、脱炭素社会の実現へ向けて貢献することができるのではないだろうか。

力強い加速力は、もはや軽を超える “異次元” の領域

日産「サクラ」:バッテリー配置を最適化したことで運転席周りは広々とした足元を実現できている

 サクラ/eKクロスEVには、電動車ならではのトルクフルな走りを楽しめるメリットも与えられた。サクラの最高出力は、デイズのターボ車と変わらない47kW(64ps)であるという。これは、軽自動車としてのスペック上の制限があるからだが、一方で最大トルクにおいては規制がない。そのため、サクラは195Nm(19.9kg-m)という強大なトルクを発揮することができるのだ。これは、日産「デイズ」のターボ車が発揮する100Nmの約2倍にも相当する。

それだけに、走りの力強さは半端ではなかった。今回はサクラを試乗する機会を得たので、まずはもっとも加速力を抑えたEcoモードからスタートしてみた。すると、軽自動車とは思えない力強い加速で、アッという間に常用速度域を超えた。次に、Sportモードへ切り替えると、今度は体がシートに沈み込むような強力な加速力を発揮した。もはやこれは、ターボ付き軽自動車のレベルをはるかに超えた、軽自動車としては “異次元” の走りだといえよう。

試乗日はあいにくの雨によって路面が濡れていたが、コーナリングでも日産が得意とする「eペダル」のアシストが効果的に働き、ノーブレーキでスムーズにコーナリングを曲がって行けた。この効果には安心感を覚えるとともに、一度体験してしまうと二度と手放せないといった気持ちにもさせられた。さらには、フロアにバッテリーという重量物を搭載したこともあってか、道路の凹凸にも柔軟に対応でき、乗り心地の良さにおいても軽自動車の領域を超えるものだったことも報告しておこう。

「サクラ」「eKクロスEV」ともにワンペダルで加減速をコントロールできる機能を装備。写真はサクラの「e-Pedal Step」用スイッチ

 サクラとeKクロスEVが持つ最大の魅力は、軽自動車の枠を完全に超えた強力な走りと高品質感にある。価格だけを見れば、ガソリン車に比べて割高感は否めないが、従来EVと比べればはるかに身近な出費で買える魅力は大きい。 “コンパクト×高品質” という基本設計とも相まって、両車がEV普及の後押しをすることなるのは間違いないだろう。

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