エゾシカとの衝突事故、修理費は平均58万円超え! 発生状況と対策を解説
ドライバーの命さえ奪うことがあるエゾシカとの衝突事故。なぜ事故は起きてしまうのか。今回は発生状況と対策を解説する。北海道の道路を走るすべてのドライバーに、この記事を読んでもらいたい。
エゾシカとの衝突事故は年間4000件以上!
北海道では国道、道道、そして高速道路の道路脇にエゾシカを見つけることは日常の光景である。当然、エゾシカの出没しやすい秋から冬にかけては、エゾシカとの衝突事故の話題には事欠かない。
クルマが大破することも珍しくなく、日本損害保険協会北海道支部が2022年に実施した最新の調査では、衝突事故などによる支払保険金の総額は6億2423万円にのぼり、クルマの修理費も58.2万円(車両保険金平均支払額)と、前年度と比較しても高額になっていることがわかった。
エゾシカとの衝突事故はどこで発生している?
北海道環境生活部自然環境局野生動物対策課の調査結果は上記の表のとおりとなっており、2022年のエゾシカに関係する交通事故の発生件数は4480件だったことがわかっている。うち、死亡事故は2件。地域別に見ると、最も多いのが東部(オホーツク・十勝・釧路・根室)で1553 件。続いて北部(空知・上川・留萌・宗谷)の1162件。そして中部(石狩・胆振・日高)の1441件、南部(後志・渡島・檜山)は324件と続く。
振興局別で見ると胆振で791件、釧路で614件、石狩で491件と特に多い。また道路別に見ると、胆振では国道36号、234号、235号、276号。釧路では国道240号、272号、44号。石狩では国道231号付近で衝突事故が多発している。
なお、上記の件数には、エゾシカとの衝突だけでなく、接触、または回避などによる事故も含まれている。
北海道でのエゾシカに関わる交通事故の発生件数は、右肩上がりで増えている。上記のグラフを見れば明らかだろう。その理由は、エゾシカの個体数の急増が関係しているようだ。では、なぜエゾシカの個体数は増えたのか。
北海道環境生活部自然環境局野生動物対策課の調べでは、原生林が農地になりエゾシカにとっての新しいえさ場になったこと、天敵のエゾオオカミが絶滅するなどして繁殖しやすくなったこと、ハンターの人数が減少していることを、その原因としてあげている。
エゾシカ、でけぇ!
「鹿」といえば、奈良公園の鹿、はたまた宮島の鹿(いわゆるホンシュウジカ)のような、観光地で人気者のとてもかわいらしいイメージではないだろうか。
しかし、エゾシカは「ものすごくデカい」ということは、道外ではあまり知られていないかもしれない。北海道の人間からしてみれば、とにかくでかくて、まったくもって「めんこくない(北海道弁でかわいくない)」のだ。
ホンシュウジカの雄の肩高はおよそ85cm。対して、エゾシカの雄はおよそ100cm。その差、わずか15cmである。だが、北海道で生まれ育った筆者は、奈良公園でホンシュウジカとたわむれた際に、地元で遭遇したエゾシカの方が2倍は大きかったと感じたものだ。わずか15cmとはいうものの、両者を知っていると、とてもわずかとはいえない差があると思っている。
エゾシカは角を加えると180cmに迫り、大きいものだと体長2m、体重150kgにもなるのだから、道路に飛び出してきたエゾシカと衝突すれば、クルマが大破するのもわかる。
エゾシカとの衝突事故を防止するには?
北海道開発局の「エゾ鹿衝突事故マップ」では、以下の衝突防止6原則を掲げている。
1.【早朝、夕方の飛び出しが多い】
シカの出没時間は夜明けと日没前後に集中している。特に、エゾシカの出没しやすい秋から冬にかけては夜明けと日没前後の運転に注意したい。
2.【『1頭だけ』と思わない】
道路脇からエゾシカがピョンッと1頭、飛び出してきた。なんだ1頭か…と油断してはいけない。群れで行動するエゾシカは、続いて2頭、3頭と飛び出してくるのだ。
3.【夜間の光物に注意】
クルマのヘッドライトの光が反射するとエゾシカの目が光る。暗がりのなか、キラリとなにかが光ったときは、エゾシカがいるかもしれないと注意したほうがいい。
4.【舗装道路では動きが鈍い】
ピョンピョン跳ねて素早いイメージのあるエゾシカ。実は、舗装道路では動きが鈍い。クルマが近づいてきても逃げない(逃げたくても逃げられない)ことがある。「これだけ距離があればエゾシカも逃げるだろう」と思わず、道路の先にエゾシカを見かけたら減速しよう。
5.【山間部でのブレーキ痕に注意】
山間部の道路を走行中、アスファルトの黒いブレーキ痕を見かけたら、近くにエゾシカがいることを疑ったほうがいい。なぜなら、先にエゾシカに出くわした車両が急ブレーキを踏んだ痕かもしれないからだ。
6.【道路脇の林には要注意】
右を見ても、左を見ても木々の生い茂る道は要注意だ。エゾシカにとって、それが舗装された道路であろうとテリトリーである。いつ飛び出してきてもおかしくはないと意識しておくべきだ。
昨年の9月頃、稚内空港の近くの道路で、筆者も2頭のエゾシカを見かけている。幸い、こちらをじっと見つめるだけだったが、北海道では「とつぜん飛び出してきた」「接触した」「群れで歩いていた」というような話は日常的に耳にするものだ。
根本的な対策があればいいのだが、相手は自然で生きる動物だ。まずはドライバー自ら、身を守るために対策を講じるほかないのが実情である。エゾ鹿衝突事故マップを確認のうえ、事故の発生しているポイントを通行する際は、スピードを出しすぎることなく、周囲に気を配るようにしたい。
また、北海道開発局では、エゾシカと衝突した、道路上にシカが倒れているのを発見したなど、道路の異常に気が付いたときには、道路緊急ダイヤル(24時間無料)#9910に通報するよう呼び掛けている。