「民間救急」って何? 高まる需要と利用例を解説。
119番通報による救急車の出動件数が増加している。通報から医師に引き継ぐまでの時間が延びるなか、緊急性が低い傷病者の搬送を民間の力で補う「民間救急」が期待されている。そこで、今回は民間救急と119番通報の救急車との違いや、利用シーンについて紹介する。
民間救急の需要が高まっている理由
近年での交通事故発生件数は減少傾向にあるなか、逆に増えているのが119番通報による救急車の出動件数だ。総務省消防庁「消防白書」によると、2021年の救急車による出動件数は619万3581件(前年比+4.4%、26万304件増)、1日あたりの平均は約1万6969件で、なんと、5.1秒に1回の頻度で救急車が出動していることになる。
出動件数の増加と共に、病院収容所要時間(通報を受けてから医師に引き継ぐまで)も増えている。2021年の平均病院収容所要時間は約42.8分で、これは10年前の2011年と比べても4.7分の増加だ。出動件数増加の原因は新型コロナウイルス感染拡大の影響もあるが、少子高齢化の影響が深刻で、消防庁では救急需要は今後も増大すると予測している。そうなると、病人・怪我人の症状や、救急車の出動状況次第では、搬送を断られるケースも増えてくるだろう。病院収容所要時間の増加を防ぎ、救命率の低下を防ぐ策がいま、求められている。
これらの問題解決策のひとつとして、救急出動はできるだけ急病人を優先し、緊急性が低い傷病者は民間の力で補うことが期待されている。そこで登場するのが「民間救急」だ。
民間救急、119番 消防救急、介護タクシーの違いは?
日本の救急車は、次のような種類がある。
・消防救急車……119番通報により、緊急走行で現場に出動できる。
・病院救急車……医療機関が保有する救急車で、消防救急車と同様に赤色灯とサイレンを鳴らして緊急走行が可能。
・民間救急(車)……消防機関から認定を受けた、民間事業者による患者搬送事業。車両には赤色警告灯やサイレンがなく、緊急走行ができない。
※防衛省管轄の救急車などは今回は割愛
民間救急とは、緊急性の少ない患者を搬送する民間運営の救急サービスで、緊急走行はできない。ただし、民間救急にはストレッチャー(車輪付きの簡易ベッドのようなもの)や、車椅子のまま乗車可能な設備が車両に搭載されている。
では、民間救急は消防救急と何が違うのか、それは、
(1)救急車には、条件つきで一部の医療行為が行える救急救命士がほぼ同乗しているが、民間救急では運営会社による。
(2)民間救急は基本的には予約制となる。緊急車両ではないので緊急走行ができない。
(3)消防救急は最寄りの病院へ搬送(無償)。対して民間救急では指定場所へ患者を搬送できるが、利用時間や移動距離に応じて料金が発生する。
このような違いがある。また、介護タクシーとの違いについては、介護タクシーはヘルパー2級以上の介護資格を有した運転手が一人で乗降の手助けに対応する。対して民間救急は、ベッドから指定場所まで搬送し、複数人で手当も行える。
次のページでは、
依頼されるシーンについて紹介!
誰が、どんな場合に依頼する?
民間救急の大きな特徴は、一般人以外にも、行政や病院から依頼が入るということだ。
群馬県に本社を構え、観光バス事業や民間救急事業を行う「スター交通」では、コロナ禍には行政から約4000件もの搬送依頼があったという。普段は緊急性が高い患者は扱わない民間救急でも、医療機関がひっ迫したコロナ禍では、重篤患者を搬送する機会も多かったそうだ。
病院からの依頼では、例えば外出先での急病で119番通報を利用した際は、最寄りの病院へ搬送されるが、その後の治療を自宅付近の病院に転院したい場合の搬送などがある。以前は病院間の搬送は消防救急車が行うことがあったそうだが、出動件数が増加している現在では、このような役割は民間救急に託される傾向にあるという。
一般家庭からの依頼では、通院・入退院の際に自力で歩けない人を連れ出してもらう場合が多い。最近では統合失調症やアルコール依存症の疑いがある人を病院に連れて行くために依頼されるケースが増えているそうだ。他にも、病院で終末期を迎えた人を、家族で看取るために自宅に搬送してもらうケースもあるそうだ。
民間救急を利用するには
民間救急を利用するには、各地の民間救急事業者に直接電話で問い合わせたり、インターネットから申し込む形式が多い。基本的には予約制と述べたが、状況次第では柔軟に対応できることもあるので、相談してみてもいいだろう。
また、利用料金についても事業者ごとに設定が変わるため、事前に見積依頼をできるだけの余裕は持っておきたい。参考までに、今回紹介したスター交通の基本料金では、「運賃」+「介助料」+「機材使用料」などを加算した料金が設定されている。(※介助料:最初の1時間3300円、看護師要請料(医療処置を継続する場合など):最初の1時間4400円など)
寝たきりのまま階段を使って移動させたい場合、独り身で自身で動けない場合など、少子高齢化の加速に伴い、搬送を必要とする人がますます増えることは想像に難くない。このようなサービスが存在していることを、ぜひ覚えておいて欲しい。