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最終更新日:2023.06.14 公開日:2023.04.24

吉田 匠の『スポーツ&クラシックカー研究所』Vol.19 マセラティの意欲作、MC20を箱根で駆る。

モータージャーナリストの吉田 匠が、古今東西のスポーツカーとクラシックカーについて解説する人気連載コラム。第11回はマセラティを特集。久方ぶりに自社開発したネットゥーノV6エンジンを搭載し、マセラティの新時代を告げるスーパースポーツとして登場した「MC20」に箱根で試乗した。

文=吉田 匠

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マセラティ渾身のピュアスポーツ

イタリアのスーパースポーツブランドというと、フェラーリ、ランボルギーニ、マセラティの3つが有名だが、実はこのなかで最も歴史が長いのがマセラティだ。各社の創立は、かのフェラーリが第二次大戦終結2年後の1947年、ランボルギーニがそれより16年後の1963年。それに対して、エンジニアで腕の立つレースドライバーでもあったアルフィエリを中心とするマセラティ兄弟が、彼らの名を持つレーシングカーを生み出すためのワークショップをボローニャに開いたのは第一次大戦勃発時の1914年と、他の2ブランドより圧倒的に早いのである。

で、時は移ってあれはたしか2020年のグッドウッドの映像だったと思う。鮮やかなブルーのマセラティMC20がヒルクライムコースを走ってくるシーンを観て、このクルマに早く乗ってみたいと思った。独特の形状のエアインテークをノーズの先端に配置し、ボリューム感のある前後フェンダーと引き締まったキャビンからなるその姿は、イタリアのスポーツカーブランドのなかでも、その創成期に取り分けレースカーに特化していたマセラティのスーパースポーツに相応しいグッドデザインだ、と直感したのだ。

それから3年近くが経って最近ステアリングを握ったMC20は、期待に違わぬスーパースポーツだったけれど、走り出す前にその概要をおさらいしておこう。シャシーはイタリアのレースカーコンストラクター、ダラーラが開発に協力したというカーボンモノコック製で、そのコクピット後方に新開発の3リッターV6ツインターボエンジンを搭載、2ペダルの8段DCTを介して後輪を駆動する。

つまりMC20、電気モーターを併用したハイブリッドでもなく、モーター駆動による4WDでもないという点において、ガソリンエンジンを駆使した伝統的なスーパースポーツのピュアな流れの延長線上にあるクルマなのだ。

しかもそのパフォーマンスは、今日のスーパースポーツのレベルを楽々とクリアするものだ。ネットゥーノ3リッターV6ツインターボエンジンは、F1のテクノロジーを応用したという副燃焼室を備えるシリンダーヘッドを持ち、635㎰/7500rpmのパワーと730Nm/3000-5750rpmのトルクを叩き出す。

その一方で、カーボンを多用したシャシーとボディは車重1640㎏に収まっているから、ひとたび全開をくれれば発進から100㎞/hまで2.9秒以下で加速し、そのままアクセルを踏み続ければ325㎞/h以上のトップスピードに達するという。ちなみにMC20、車両本体価格は2995万円で、今回の試乗車はそこにさらに1000万円を超えるオプションを装備しているとのこと。

想像以上にいい乗り心地

路上に出てまずは都心の道を走り、次いで首都高から東名に乗ってそのまま箱根を目指すというルートだったが、そこで最初に意外だったのがMC20の乗り易さと、快適さだった。この手のミドエンジン方式スーパースポーツの常で、後方と斜め後ろの視界はかなり限られたものになるが、それ以外の角度は見晴らしも悪くなく、都内の雑踏のなかも、全幅2m近いボディを持て余すことなく走っていける。

それに加えて驚かされたのは、GTモードで走る際の乗り心地が想像以上にいいことだった。前後とも20インチ径の超扁平タイヤを履いた脚は、路面の凹凸を拾うガツンといったショックやコツコツとした突き上げを感じさせず、いかにも上質なGTカーらしいフラットな乗り心地を味わわせてくれたのである。

だから長距離を走るのが楽なのはいうまでもないが、ちょっと都内にショッピングといった用途にも、想像するより気軽に使えるのではないか。もちろん、目的地にそれなりの幅のある駐車スペースがあることを、事前に確認する必要はあるけれど。

 そんなわけだから、高速クルージングはまことに快適。メーターの100㎞/hではDCTはトップの8速に入らず、エンジン回転数は7速で1500rpmといったところだから、背中の後ろで3リッターV6が軽くハミングするのをBGMに、何処までも走っていける気分になれる。

タイヤの発するロードノイズが意外とはっきり室内に伝わってくるものの、ショックの吸収という分野ではサスペンションはここでもすこぶるいい仕事をして、適度にソフトなのに腰のある、フラットな乗り心地を振る舞ってくれる。

生粋のドライビング好きに好適の一台

というわけで、存外に快適なクルージングを味わって箱根に到着、ターンパイク、芦ノ湖スカイラインと駆け上がり、スーパースポーツとしてのMC20の真髄を味わう。ここでモードスイッチをGTからスポーツに切り替えると、エンジンのレスポンスが一段と鋭くなると同時に排気音も迫力を増したものに変わり、トランスミッションも一段低いギアにエンゲージ、と同時に電子制御サスペンションも硬く引き締まって、すべてが臨戦態勢に。

GTモードではその名のとおり長距離を高速で快適に走るグランドツアラー風だった乗り味が、精悍なボディスタイリングに相応しいスーパースポーツスタイルに切り替わり、V6ツインターボエンジンが高らかに唸りを上げて吹け上るとともに、低いノーズがステアリング操作に鋭く反応して素早く向きを変えていく。

実はMC20という車名のMCとはMaserati Corsa=マセラティレーシングのイニシャルなのだが、スポーツモードを選ぶとその名に相応しい身のこなしに変身するのだ。さらにその上に、サーキット走行用のコルサモードがあるのだけれど、箱根山中ではスポーツモードで充分愉しめたので、コルサモードは今回、敢えて使わなかった。

その一方で、街中や高速と同じGTモードで箱根のワインディングロードを走ってみたが、それでもまったく危なげなく、スポーツドライビングを愉しめたことを報告しておこう。だがそのことは驚くに値しない。本質的に優れたスポーツカーは、敢えてハードな走行モードを選ばなくてもスポーツドライビングを愉しめるものだが、MC20もまさしくそんな生粋のスポーツカーのひとつ、というわけだ。しかもそれは、GTモードで走れば驚くほど快適に市街地走行や高速移動をこなせるという、意外な側面も持ったスーパースポーツなのだった。

というわけで、3000万円級のスーパースポーツ、それも乗りたいと思ったら普段も痩せ我慢せずに乗れる一台をお探しの生粋のドライビング好きに、マセラティの意欲作MC20はまさに好適の一台ではないかと思う。

マセラティ MC20|Maserati MC20
ボディサイズ:全長4670×全幅1965×全高1220mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1640kg
駆動方式:MR
エンジン:V型6気筒ツインターボ
総排気量:2992cc
最高出力:630PS(463kW)/7500rpm
最大トルク:730Nm(74.4kgm)/3000-5750rpm
トランスミッション:8段DCT
サスペンション:(前後)ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:(前後)ベンチレーテッドディスク
タイヤ:(前)245/35ZR20 (後)305/30ZR20
最高速度:325km/h以上
0-100km/h加速:2.9秒以下
車両本体価格:2995万円

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