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最終更新日:2023.04.11 公開日:2023.04.11

もし一般ドライバーが「サーキットを走る能力」を手に入れたら──『私のAE86物語』後編

サーキット走行の技術や経験は、一般ドライバーにも役に立つのか? モータージャーナリストの大谷達也が初代”ハチロク”を使って運転レッスン。公道でも役立つ情報をお届けします。今回はその後編。

文=大谷達也 写真=田村 弥

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【前編を読む】
【中編を読む】

練習の成果を試す時が来た!

 とある試乗会をきっかけにして「クルマの運転がうまくなりたい」と思った私は、モータージャーナリストの山田弘毅さんに相談。彼に紹介してもらった輿水モータースポーツでAE86を手頃な価格で購入すると、このクルマを用いて筑波サーキットで特訓し、サーキット走行の基本を身につけました。そのおかげで、いざというときの事故回避能力が高まり、普段の運転がよりていねいになったことは、前編と中編でお話ししてきたとおりです。

 ここまで至るのに、2年半ほど。自分の運転が上達したことが嬉しくて、仲のいい何人かの同業者にそのことを打ち明けました。すると、とある自動車雑誌の編集部に勤務する知り合いから「一緒にレースに出ませんか?」と誘っていただきました。

 それは、自動車メーカーのマツダが中心となって開催されているメディア対抗ロードスター4時間耐久レースでした。

 もう33回も続いているこのレースは、単に速さを競うだけでなく、4時間のレースを60Lで走りきるという燃費レースの要素も含んでいます。今回の優勝チームは182周、つまり約364kmを走行したので、平均燃費は6km/Lを上回っていることになります。これは、いくらマツダ・ロードスターの燃費がいいといえども、通常のサーキット走行ではありえないほど良い数値です。

 これを達成するためには、エンジン回転数を低く抑えたり、アクセルペダルを強く踏み込まないといった工夫が必要になりますが、だからといってコーナーをゆっくり曲がっていたらペースが上がらず、上位は狙えません。

 つまり、ガソリンをできるだけ使わないように気をつけながらも、コーナーではタイヤの能力をめいっぱい使って曲がるという、特殊な運転が必要になるのです。したがって、私がこれまで練習してきたことを実践するには理想的なレースだったといえるかもしれません。

2019年に開催されたメディア対抗ロードスター4時間耐久レースの様子(写真=マツダ)

 問題は、これが私にとって8年ぶりのレースだったことにあります。実は、レースに出場するのに必要なヘルメット、レーシングスーツ、グローブ、シューズなどの装備品は、すべて国際自動車連盟(FIA)によって公認されたものでなければいけません。しかも、公認には有効期限があるほか、一般的に製造から10年を過ぎたものは使用できない決まりになっています。

 私が前回レースに出場してから8年が経過しているということは、私が所有している装備品のなかにはもはやレースに使用できないものが紛れ込んでいる可能性があります。そこで、そういった規則に詳しくない私は、専門のショップで相談にのってもらうことにしました。

知らない間に大進化! モータースポーツ競技の装備品

 私が訪れたのは、GRガレージ・マスターワン東名川崎でした。

 このショップに勤務する額田信明さんは、私がかつて某自動車雑誌の企画でレースに参戦したときにエンジニアとしてお世話になった方。もともとダートトライアルの選手としても活躍していた腕利きで、私たちの業界ではつとに有名な額田さんに、自分の持っている装備品のどれが使えて、どれが使えないかを相談しようと思ったのです。

 しかも、GRガレージ・マスターワン東名川崎ではモータースポーツ競技で必要になる装備品を販売しているので、手持ちの装備品でもはや使えなくなったものは、こちらで購入すればいいと思った次第です。

充実したアイテムと商品知識豊富なスタッフが出迎えてくれるGRガレージ・マスターワン東名川崎の店内

額田信明さん(左)と上野真之さん(右)

 ショップを訪れると、額田さんとマネージャーの上野真之さんが親切に迎え入れてくれて、私の相談に乗ってくれました。そこで、私の装備品のどれが使えて、どれが使えないかをひとつひとつチェック。そのうえで、最新の装備品を紹介してくださり、どのサイズだと私にぴったりかを調べてくださったのです。

 額田さんと上野さんに確認していただいたところ、私が所有している装備品はまだほとんどが使えることがわかりましたが、すでに有効期限を迎えているもの、間もなく有効期限を迎えるものも少なくないことがわかりました。しかも、最新の装備品はどれも機能性が大幅に向上。たとえばレーシングスーツは軽くて動きやすく、HANSデバイス(アクシデントの際に頸部の損傷を防ぐもの)は大幅に軽量化されていたうえに価格も手頃になっていました。いっぽうで、モータースポーツ用のグローブといえば”手のひら側”は革張りが常識でしたが、それが難燃性の合成素材に置き換わっているのをみたときには心底驚きました。

ボロボロになるまで使いたいところだが、安全に直結するアイテムゆえ、FIA規格のレーシングスーツやヘルメットには使用期限が定められいる。

 額田さんや上野さんと相談のうえ、今回はレーシングスーツ(Sparco VICTORY R562)、ヘルメット(アライヘルメット GP-6)、HANSデバイス(Sparco HANS CLUB3)、ソックス(Sparco RW7 SOCKS)、バラクラバ(ヘルメットの下に被るカバーのようなもの。耐燃性が求められる。Sparco RW7 バラクラバ)などを購入。合計で30万円を超える出費は正直、痛かったですが、これらはレースに出場するうえで必要なうえ、万一のときには自分の身体を守ってくれるのですから、文句はいえません。

遊んで学べる自動車趣味。「サーキット走行」のすすめ

レース直前の大谷氏と仲間たち

 こうして準備も整い、レース本番に挑みました。「エンジンには優しく、でもタイヤはギリギリまで酷使する」というドライビングは、「エンジンもタイヤもすべて酷使する」という一般的なサーキット走行とはまるで異なるもので、当初は頭が混乱しましたが、チームメイトのアドバイスもあり、自分が走行を担当した40分ほどの間に次第に馴染んできて、速さはともかく燃費の点でチームにしっかり貢献することができました。

 さらに、ほかのチームメンバーもしっかり燃費を守りながら走行した結果、トップの1周遅れでフィニッシュ。しかも21台中7位という好成績でした。実は、6位とのタイム差はわずかに4秒だったので、入賞も(6位以上が入賞)も夢ではありませんでしたが、8位のチームともわずか1秒差だったので、素直に7位を喜ぶべきところなのでしょう。

 ちなみに、私たちは19番グリッドからスタートして7位フィニッシュ、つまり12台抜きを果たしたことになります。そこで「もっとも多く順位を上げたチームに贈られる賞」を受賞しました。

大谷氏がドライブした44号車が7位でフィニッシュしたことを表示する筑波サーキットの電光掲示板。

 JAF公認という真面目なレースで、私がトップ10フィニッシュを果たしたのは今回が初めてのこと。その意味でいえば、山田弘毅さんの指導のもと、AE86から学び取ったことはとても価値があったと思います。そんなAE86はトレーニングが終了し次第、手放すつもりでいましたが、今後もサーキットで練習を積むため、いましばらく手元に残しておくことにしました。

 というのも、クルマさえあれば、サーキット走行は意外にも安上がりな趣味だからです。なにしろ、20分ひと枠の走行に必要なチケットは1枚2400円で、1日に3枠も走れば腕がパンパンになってしまうほど。つまり、ガソリン代と走行券代の両方をあわせて1万円も支払えば、1日まるまる楽しめるのです。このためにはサーキットの会員になる必要がありますが、これにも2万円とかかりません。

 いかがでしょうか? もしもあなたの周りにサーキット走行の経験が豊富な友人がいたら、まずはその方に連絡してみることを私としてはお勧めしておきます!

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