車の所有者が死亡したら~売却や廃車について弁護士に訊いてみた~【クルマと法律vol.02】
交通問題やクルマに関する相談について、法律の見地から分かりやすく解説する連載「クルマと法律」。今回は、所有者が亡くなったクルマの売却と廃車について弁護士・芳仲美恵子先生に話を聞きました。
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「亡くなった親が残した車を売却するにはどうすればいいですか? また、廃車にする方が手続きは簡単ですか?」
所有者が亡くなったクルマ。売却の手続きはどうする?
相談者:前回(クルマと法律vol.01)は、所有者が亡くなったクルマの相続について相談したのですが、相続せずに売却や廃車にした方が手続きは簡単ですか? 遺産分割協議をした結果、クルマを売却や廃車することに決まったらどうすればいいでしょうか?
芳仲弁護士:売却するにしろ、廃車にするにしろ、相続人全員が手続きするやり方と相続人のうち1人に名義変更した後に手続きするやり方があります。裁判になるような紛争性の高い相続の場合は別として、通常は、後者の方が必要書類が少なく簡便ですので、先に名義変更をするといいでしょう。相続による名義変更に必要な書類は前回(クルマと法律vol.01)説明した通りです。相続人のうち1人に名義変更した後、その相続人からさらに中古車買取店などに売却する場合は、通常のクルマの譲渡と同じです。下記のような書類が必要です。
【新所有者たる相続人から第三者に売却する場合に必要な書類(普通車を中古車買取店に売却)】(2022年6月15日現在)
・自動車検査証
・新所有者たる相続人の印鑑登録証明書
・新所有者たる相続人の実印
・自賠責保険証明書
・自動車税納税証明書
・自動車リサイクル券(預託済みの場合)
・譲渡証明書(新所有者たる相続人の実印を押印したもの)
・委任状(代理人による申請の場合に限り必要。新所有者たる相続人の実印を押印したもの)
相談者:相続人のうち1人に名義変更をしてから、売却をした方がいいのですね。
芳仲弁護士:通常はその方が便宜です。名義変更した後であれば、売却方法は、その相続人が通常自分のクルマを売却する場合と同じに扱いになります。中古車買取店などに査定して貰い、お店の方の指示に従って上記のような書類を集めれば問題ありません。
相続人は、遺産分割協議で、(1)現にクルマを取得する相続人を決めてもいいですし、(2)クルマを売ってお金の分け方を決めてもいいですし、(3)廃車してしまって廃車費用の分担方法を決めてもいいのです。
(2)の場合、本来的には、クルマの売り主は相続人全員であり、売買代金も相続人それぞれが受け取ることになります。相続人間で争いが激しい場合には、売ること自体はよくても、相続人の誰かに名義変更してしまったら勝手に安く売られてしまうかもしれないなどと相互に疑心暗鬼になって、いざ、いつ、誰に、いくらで売るのかとなると合意が得られず、この本来の形を取らざるを得ないこともあります。このような場合には、自動車の登録名義も、相続人全員の共有名義の(複数相続人が新所有者として登録される)手続きをとり、売却時も相続人全員が譲渡人(売主)となりますので、相続人全員の実印と印鑑証明書が2回必要となりますし、売買代金の支払いや受け取りも非常に煩瑣です。
これに対し、相続人間に一定の信頼関係があるケースでは、このような手続きによる必要がありません。もちろん売却代金について相続人間で決めておく必要はあります。等分にするとか法定相続分で分けるという合意をする場合もありますが、代金はそのままプールしておいて遺産全体の分割が決まった時に金銭的に清算しましょうという合意をする場合が多いかと思います。
相談者:わかりました。もし、お店ではなく、個人間で売買する場合は何か注意すべきことはありますか?
芳仲弁護士:個人間で売買する場合には、「名義残り」にならないよう注意しましょう。自動車税の課税対象期間は、4月1日から3月末日まで。納付義務は、4月1日現在の名義人にあり、5月末が納期限です。購入者に名義変更されていない「名義残り」のままだと、翌年度の5月初旬になって、自動車税納税通知書が、元の持ち主(自分)に届いてしまいます。さらに、万が一事故が起きたとき、名義人は車の所有者として責任を負うおそれもあり、トラブルのもとです。
相談者:それは怖いですね。気を付けます。
廃車の手続きはどうする?
相談者:廃車にしたい時は、どうすればいいでしょうか。
芳仲弁護士:廃車には一時抹消登録と永久抹消登録の2つのパターンがあります。
一時抹消は、しばらくクルマで公道を走行しないので、その間の税金や自賠責保険料を節約したいという場合にとられる手続きです。公道を走行しないサーキット専用のレーシング用改造車や、中古車販売店の展示車両などが、一時抹消登録がされている車両の典型例です。
一時抹消は、解体処分を前提とする永久抹消に比べて手続きが簡便ですから、例えば、お父様のクルマについて、解体処分すべきかどうかを迷っているような場合に、まずは一時抹消するということはありうるかもしれませんが、保管費用はかかりますし、古いクルマほど走らないと劣化が激しくなりますから、相続の場面で一時抹消登録が相応しいケースというのは、やや考えにくいように思います。一時抹消してしまうと公道を走ることはできなくなり、移動が困難となりますので(※)、売却が想定されるなら、まずはディーラーや中古車買取店などの業者に相談することをお勧めします。一時抹消の手続きに必要な書類は下記の通りです。
※再登録のために運輸支局へ検査を受けにいくなど、一時抹消登録したクルマを運転する場合、有効期間が5日を超えない「仮ナンバー」や「臨時ナンバー」と呼ばれる道路運送車両法34条の臨時運行許可を得て公道を走ることは可能。そのためには別途申請手続きが必要。
【一時抹消登録に必要な書類】(2022年6月15日現在)
・申請書
・印鑑登録証明書
・実印
・手数料納付書(自動車検査登録印紙を添付)
・自動車検査証
・ナンバープレート
・委任状(代理人による申請の場合に限り必要。所有者の実印を押印したもの)
相談者:クルマの状態が悪くて、解体したい時は、どうすればいいですか?
芳仲弁護士:その場合は、永久抹消登録を行いましょう。永久抹消登録はクルマの解体が前提で、永久抹消登録したクルマは、再登録して再び公道を走行することはありません。
永久抹消登録では、自動車リサイクル法による自動車リサイクルシステムによって、使用済み自動車が適正に解体処理されたことが確認できなくてはいけません。そのため、申請手続きには、解体業者の解体証明書に記載される移動報告番号(自動車リサイクル番号)の記載が必要です。クルマの解体業者を探したり、クルマを持ち込んだりする手間がかかるため、自分で手続きすることは稀で、業者に代行してもらうのが一般的です。廃車の手続きに必要な書類は下記の通りです。
【永久抹消登録に必要な書類(業者に依頼し、適正に解体処分した場合)】(2022年6月15日現在)
・申請書(移動報告番号、解体報告記録日を記載)
・印鑑登録証明書
・実印
・手数料納付書
・自動車検査証
・ナンバープレート
・委任状(代理人による申請の場合に限り必要。所有者の実印を押印したもの)
相談者:なるほど。他に何かした方がいいことはありますか?
芳仲弁護士:手続きが完了した時点で車検の有効期限が残っている場合には、自動車税や自賠責保険、自動車重量税を還付してもらうための書類発行手続き行いましょう。残存期間分の差額を還付して貰うことができます。
ちなみに、もしクルマが軽自動車の場合には、名義変更等の窓口が運輸支局ではなく、軽自動車検査協会になります。また、軽自動車は、軽自動車税の残存期間の還付はありません。
相談者:既に払った自動車税や自賠責保険、自動車重量税が還付されるのは知りませんでした。忘れずに手続きするようにします。
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車の所有者が死亡したら~名義変更について弁護士に訊いてみた~【クルマと法律vol.01】
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