雨でも滑りにくい横断歩道の秘密。スジ入りトラフィックペイント
雨や雪が降ると、横断歩道や車線などの路面標示の接地面は、アスファルトに比べて滑りやすくなる。しかし近年、路面標示用の塗料であるトラフィックペイントの表面処理の技術が進み、滑りにくいものが登場しているという。そんなトラフィックペイントについて紹介。
スジの入った路面標示
横断歩道を渡りながら足元の白線を見ると、細かいスジ(グルービング)が入っていた。スジの役割について疑問が湧いてきた。そこで、道路標識や路面標示、防護柵などの設置に必要な技術を調査・研究を行っている(一社)全国道路標識・標示業協会に取材してみた。
JIS規格で定められた塗料
道路交通の安全と円滑のために道路に塗装されるものは、一般に「路面標示」と呼ばれている。それらに使われる塗料は、JIS(日本産業規格)で定められた規格JIS K 5665に合致したトラフィックペイントを使用しなくてはならない。
このトラフィックペイントに求められる性能は、反射輝度(mcd/m2・lx)、耐摩耗性(mg)、濡れた状態での滑り抵抗値(BPN値)などがある。反射輝度は、夜間の乾燥時、湿潤時での反射具合と、施工の直後、1か月、3か月、6か月、1年後という時間経過による反射具合の変化を数値化したものだ。耐摩耗性は、規格JIS K 5665で定められた試験方法でどれくらいトラフィックペイントが摩耗するかを数値化したものになる。
そして滑り抵抗値(BPN値)は、滑り抵抗器(ポータブルスキッドレンジテスター)という試験機器で測定して、数値化したものである。滑り抵抗値は、数字が大きいほど滑りにくいという評価方法となっており、規格JIS K 5665では濡れた状態で40BPN以上が望ましいと規定されている。ちなみにアスファルト舗装が濡れた状態での滑り抵抗値は40から70BPNなのに対して、トラフィックペイントは40から50BPN。このように数値で見ると、やはり路面標示はアスファルト舗装より滑りやすいということになる。ちなみに雨で滑りやすいもののもう1つの代表格であるマンホールは、20から40BPNと路面標示よりも滑りやすいのだ。
一方で全国道路標識・標示業協会が作成した路面標示の滑り具合に関する資料によると「湿潤時(濡れた状態)において、四輪では走行やブレーキに与える影響は少ない」「二輪は急ハンドルや急ブレーキなどで滑りやすい」「歩行者はゴムサンダルのようなもので滑りやすいが、一般的な靴では影響が少ない」としている。つまり荒っぽい運転や、特定の履物だと滑りやすさを感じるという程度のようだ。だが、横断歩道などはではやむを得ず急ハンドルや急ブレーキで危険を回避する状況も発生する。そのような状況でも安全を確保するためにも、滑りにくいトラフィックペイントの開発は行われている。
1989年の建設省告示で評価される
滑りにくいトラフィックペイントの1つとして登場したのが、最初に紹介したスジが入ったものなどである。1989年(平成元年)に、建設省告示第1332号で「区画線の雨天(夜間)時に視認できる区画線の開発」で評価されたものだ。この建設省告示の評価では、視認しやすい、摩耗しにくい、滑りにくいなど、さまざまな特徴を持った新しいトラフィックペイントが複数実用化された。
スジの入ったトラフィックペイントには、アトミクス社のレインフラッシュグルービーという商品がある。同社によると従来製品の滑り抵抗値が41BPNなのに対し、レインフラッシュグルービーだと縦方向で57BPN、横方向で54BPNへと向上しているそうだ。また従来製品のような反射輝度を高めるガラスビーズを塗料に混ぜるだけでなく、塗料の上に光の屈曲率が高くなる特殊な表面処理を施したグルービー用ビーズ(散布ガラスビーズ)を散布することで、夜間の反射輝度を高めているという。
1989年の建設省告示で評価されたトラフィックペイントの中には、レインフラッシュグルービー以外にもさまざまなものが実用化されている。たとえば横断歩道用とされるものだけでも8種類あり、スジが入ったもの以外に、タイル状の凹凸があるもの、ガラスビーズを大粒にして表面を凹凸にしたものなどもある。
横断歩道用トラフィックペイントの種類
このように路面標示に使われる塗料であるトラフィックペイントも日々の改善が続けられている。もし横断歩道や車線などの近くを通ることがあれば、周囲の安全を確認してから、その表面処理を観察してみてはいかがだろうか?