クルマ好きのための本気のスポーツカーだ! マセラティ MC20を試乗。
電動化が叫ばれる時代において、マセラティが新たに投入した「MC20」は、シャシーからエンジンまですべてを新設計したスーパースポーツカーだった。オールイタリアンメイドを謳うマセラティ渾身の一台を、モータージャーナリストの小川フミオがイタリア・モデナで試乗した。
マセラティ新時代の幕開け
マセラティという名前をみなさんがよく知っているのは、どうしてだろう。その響きがいかにもカッコいいっていうのもあるだろうけれど、戦前はレースで大活躍し、戦後は高級GTで世界中のクルマ好きをとりこにした。マセラティのクルマづくりの歴史が果たした役割は大きいはず。
私にとってマセラティは、いわゆるバブル経済のとき、日本でもみなが憧れた2ドアの「ビトゥルボ」シリーズや、エモーショナルなスタイルの「3500GT」シリーズが印象深い。BMWをさらに官能的にしたような存在感は他に類がないものだった。
いっぽうで、トラブル(故障)の話もよく聞いた。でも「そんなのは昔の話」と言うのは、現在マセラティのCEOを務めるダビデ・グラッソ氏。
「いまのマセラティは、とりわけ2020年をターニングポイントに、ドイツ車と張り合う、すばらしいクルマを手がけていくことに全社をあげて取り組んでいるところです」
その嚆矢が、20年に発表された「マセラティ MC20」だ。MCはマセラティ・コルセ(Maserati Corse=マセラティ・レーシング)の頭文字で、数字は上記のとおり、年号。マセラティの新時代を意味しているという。
まもなく日本でも顧客向けデリバリーが開始されるという、シザードア(はさみのように開くのでこんなふうにも呼ばれる)の2シーターミドシップクーペであるMC20。私もクルマ好きとして、ドライブに恋い焦がれていたクチである。その夢が、先日、イタリアのモデナで現実のものとなった。
新規開発・自社生産のV6ターボエンジン
F1マシンでおなじみの副燃焼室(プレチャンバー)とツインスパークシステムを組み合わせた、新開発の3リッターV型6気筒エンジン搭載。燃焼効率の高さがセリングポイントのこの新エンジンは、463kW(630ps)の最高出力と、730Nmの最大トルクを絞り出す。
MC20は、速くて、すべてがスムーズで、パワーでねじふせるようなところがあった従来モデルのMC12とは、あきらかに一線を画した出来だ。力強い発進と、ロケット的な加速とともに、素直なハンドリングと、強力なブレーキで、ドライバーの操作にきちんと応えてくれる。
シャシーは高価な炭素素材で作ったバスタブ型。強度と軽量性を両立させていて、マセラティの本気度の象徴のような技術だ。モデナで走ったサーキットは、二輪レース用だからか、ストレートも長くなく、出せる速度に限界があったものの、それでも、気持ちいいハンドル操作が味わえた。
短いストレートだけれど、アクセルペダルを強めに踏み込めば、一瞬で驚くほどの速度域に達する。そこからブレーキペダルを踏むと、強烈な減速Gとともにコーナーに飛び込んでいける。
アクセルペダルから完全に足を離さないで、少しだけエンジンにガソリンを送り込みながら、加速を途切れさせないように、コーナーを回っていく。出口が見えたら踏みこみ量を増やしていく。アクセルペダルに載せた右足とクルマとが一体化したような、反応のよい加速が味わえる。
官能的な造形美
スタイリングも、大きな魅力だ。うんと低い位置にフロントグリルをかまえたマセラティ独自のデザインテーマとともに、20インチ径のホイールと組み合わされた4つのタイヤの存在感と、中央部分でぎゅっとしぼった、むかしの表現ではコークボトルシェイプといった、官能的な造型が、個性を生んでいる。
いっぽう、前出のマセラティのグラッソCEOは「このクルマはGT」とも言う。速くてエレガント、そして長距離移動も快適に。「それこそマセラティのDNA」だそうだ。私も、そうだろうと納得。
私が乗ったMC20クーペには、MC20チェロというルーフが全開になるスパイダーバージョンも、2022年5月に追加された。スポーツカーの大きなマーケットである北米の西海岸でウケそう。フェラーリだろうとランボルギーニだろうと、ほぼ必ずといっていいぐらいスパイダー版を作るのは、ここのマーケットのためなのだ。