最新フェラーリ、296GTBに初試乗。V6エンジンとモーターが生み出すプラグインハイブリッド(PHEV)スーパーカーの魅力とは?
フェラーリもついに電動化! V6ターボエンジンにモーターを組み合わせた同社初の量産プラグインハイブリッド(PHEV)スーパースポーツカーとは、一体どんなクルマなのでしょうか。まったく新しい最新の跳ね馬、296GTBをスペインで試乗しました。大谷達也がレポートをお届けします。
電動化にいち早く舵を切るフェラーリ
フェラーリが送り出すまったく新しいPHEVである296GTBの国際試乗会に参加してきました。
PHEVはプラグイン・ハイブリッドの頭文字。プラグインとは「コンセントにつなぐ」という意味で、つまりは家庭の電源などで車載のバッテリーを充電できるハイブリッドカーを指します。
ハイブリッドカーなので、もちろんエンジンも積んでいますが、PHEVに搭載されているバッテリーの容量は一般的に大きく、車種によっては100km程度のEV走行、つまりエンジンをかけずにモーターの力だけで走ることができます。つまり、電気自動車と同じ原理ですね。このため、欧米では”プラグイン車”と呼んでPHEVを電気自動車とひとくくりにする傾向があります。
また、電気の力で走っている間は二酸化炭素を一切排出しないために環境に優しいと位置づけられており、ヨーロッパではEV走行できる距離に応じて優遇措置が与えられています。現在、ヨーロッパではCAFEといって、メーカーが販売したクルマ全体の平均燃費(二酸化炭素排出量)を制限する法律が存在します。
この規制値は大変厳しいもので、コンパクトカーでもクリアするのがやっと。大型セダンやスポーツカーではクリアするのがほぼ不可能なほどです。しかも、規制を守れないと会社の経営が傾きかけないくらい多額の罰金を科せられます。ところが、PHEVに与えられる優遇措置を用いると、実際よりもいい燃費データと同等の扱いを受けることができます。
理想的? スーパーカーとPHEVの組み合わせ
前述のとおり、PHEVは二酸化炭素を一切排出しないでも走行できるので、その分を折り込んで燃費を計算していると考えればいいでしょう。いま、ヨーロッパの自動車メーカーがPHEVを熱心に開発しているのは、二酸化炭素を削減するのもさることながら、CAFEの優遇措置を受けるのが目的という側面もあります。そしてスーパースポーツカーを手がけるブランドとしては、フェラーリがその先陣を切って296GTBを投入した格好です。
ちなみに、PHEVのスーパースポーツカーはこれまでにもあって、フェラーリ自身も市販したことがありますが、それらはいずれも価格が1億円以上で、台数もごく限られたものでした。いってみれば試験販売のようなものだったのです。しかし、今回、発売された296GTBは継続的に販売されるカタログモデルで、フェラーリとしては量販モデルです。それだけに、開発にはとても力が入っていたと推測されます。
296GTBに搭載されるエンジンはV型6気筒で排気量は2.9リッター。ここに2基のターボを装着して663psの最高出力を発揮します。これに組み合わせるモーターも167psと強力なもので、エンジンとあわせて最高830psの出力と最大740Nmのトルクを生み出します。
296GTBの先代モデルにあたるF8トリブートは排気量3.9リッターのV8ツインターボエンジンで最高出力と最大トルクは720ps/770Nmだったので、296GTBは、最大トルクでは微妙に及ばなくても、最高出力ではF8トリブートを大きく上回るといえます。
これからのスーパーカーのあるべき姿とは
実際に試乗してみたところ、その軽快な走りに驚かされました。実は、296GTBの車重はF8トリブートより140kgも重くなっているのですが、その差を感じさせないどころか、むしろ296GTBのほうが軽快に感じられるほどです。これは、アクセルペダルに対する反応が鋭敏で、低回転域ではエンジンをしのぐ大トルクを発生する電気モーターの効果と考えられます。
また、エンジンとモーターを適切に組み合わせることで、どんな回転数でも安定したトルクを生み出す特性とした結果、とても扱いやすいパワートレインに仕上がっていることも印象的でした。830psという途方もない最高出力からは、想像できないくらいの扱いやすさです。
操縦感覚もとても軽快でした。これには、前後の車輪の間隔を示すホイールベースをF8トリブートより50mm短縮させたことが利いているようです。たとえば全長が100mもある船よりも、全長10mの船のほうが小回りが利きそうですよね? それと同じでホイールベースが短いほうが機敏なハンドリングを実現しやすいのです。
いっぽう、一般的にいってホイールベースを短くすると、クルマとしての落ち着きが失われ、たとえば高速直進性などが低下する傾向が現れます。ただし、296GTBではサスペンションやタイヤの性格を安定性重視の設定にするとともに、スタビリティ・コントロールと呼ばれる電子制御システムによって安定性を補うことで、高速道路も安心して走れる特性に仕上げられていました。
外観は、1960年代に登場した名車、フェラーリ250LMのエッセンスを採り入れながらも、未来的で魅力的なデザインとされた296GTB。今後のスーパースポーツカーが進むべき方向性を示したという意味において、実に先進的なPHEVといえるでしょう。