ソニーとホンダが合弁でEVを開発。自動車メーカーの枠を超える “化学反応” に期待
ソニーが目指すEV戦略のパートナーはホンダだった。ソニーグループと本田技研工業は、3月4日、モビリティ事業の戦略提携に合意したと発表。ソニーグループの吉田憲一郎会長(兼社長CEO)と本田技研工業の三部敏宏取締役代表執行役社長が、わずか3か月で合意にいたった経緯や、今後の方針について語った。
自動車とITの強力タッグで、EVをリードする
両社が合意した提携内容は、新たな合弁会社を2022年中に設立し、電気自動車(EV)の共同開発と販売、モビリティ向けサービスの提供について共同で事業化していくというもの。
具体的にはホンダが長年培ってきたモビリティの開発力、車体製造の技術やアフターサービス運営の実績と、ソニーが保有するイメージング・センシング、通信、ネットワーク、各種エンタテインメント技術の開発・運営の実績を持ち寄り、2025年に共同で開発した最初のEVを販売することを想定する。新会社は固有の生産設備は持たず、車両生産ではホンダの生産設備を使うとした。
ソニーがEVを販売する考えに至ったことについて吉田氏は、「ソニーにとってモビリティは新しい領域だ。そこに貢献するにはモビリティを学ぶ必要があり、そうした思いから「VISION-S」の開発に取り組んできた。そして我々は安全面を支える”Safety”、移動空間を感動空間に変える”Entertainment”、それらの進化を支える”Adaptability”の3つの領域で貢献できそうだという実感を持つに至った」と述べた。
そうした中で吉田氏は、「新会社では我々の技術や経験と、ホンダが永年培ってきたモビリティの開発力や車体製造の技術などの実績を掛け合わせて、モビリティの進化をリードできるよう取り組んでいきたい」(吉田氏)と合弁会社設立での抱負を述べた。
互いに補完し合い、個性豊かなEVを目指す
続いてホンダの三部氏は、「モビリティ業界は、産業が生まれて以来初めてといわれるほどの大きな変革期を迎えている」とした上で、「これからの革新や変革の担い手は、必ずしも従来の自動車メーカーではなく、むしろ異なる業種の新たなプレーヤーや、失敗を恐れずに果敢にチャレンジを続ける新興企業に移行しているように思う」と語った。
その上で三部氏は、「ホンダはこの変化を傍観するのではなく、自ら主体的に変革を起こし、新しい時代のモビリティの進化をリードする存在でありたいと思っている」との考えを示し、今回の検討に至った理由としては「ソニーもモビリティの進化への貢献をビジョンとして掲げており、そうした未来のモビリティへの野心的な思いやビジョンを共有できたことがあった」という。
ここから見えてくるのは、互いの足りない部分を補完し合うことで誕生する新コンセプトのEVだ。ホンダは、いずれコモデティ化するEVにおいて既存の自動車メーカーにはない発想をソニーに求め、ソニーはEVを生産する設備や販売網、メンテナンスへの対応をホンダに求めた。こんな相互関係が今回の提携を生み出したといえるだろう。
3か月でまとまった提携。背景には開発者魂を持つ創業者の存在
では、この提携はいつ頃から検討していたのか。これについては会見後の質疑応答で明らかにされた。それによると、「提携話がスタートしたのは21年12月のこと」といい、そのきっかけは「ホンダがモビリティ事業の展開にあたり、21年夏に異業種との意見交換を目的としたワークショップ開催をソニーに申し入れたことだった」そうだ。その上で三部氏は「ここで若手が化学反応のように変化していく様子に大きな可能性を感じた」という。
それにしても提携話はわずか3か月でまとめられたわけで、これは驚くような速さだ。しかし、これが実現した背景には両社がともに深い縁で結ばれていたことがあった。
実はホンダの創業者である本田宗一郎氏、ソニーの創業者の一人である井深大氏はともに親友関係にあったほど付き合いが深かった。吉田氏は会見でこれを引き合いに、「創業者同士が互いに近い考えを共有しながら影響し合っていた」と話し、三部氏も「歴史的にも文化的にもシンクロする関係にあった」とし、ここで培われた信頼関係があったからこそ、短期間で提携合意にいたることができたというわけだ。
ただ、今回の提携によって、ソニーがすでに発表している新会社「ソニーモビリティ」と、新たにホンダと設立する合弁会社との関係性は明らかにされなかった。
ソニーの新会社と、ホンダとの合弁会社は別のもの?
ソニーがEVの試作車「VISION-S」を初公開して世界中を驚かせたのは、2020年1月に米国・ラスベガスで開催された「CES 2020」でのことだ。以来、ソニーがEV事業に参入するのではないかと、さまざまな憶測が飛び交うようになった。そして2022年1月、コロナ禍の影響で2年ぶりの開催となった「CES2022」で、ソニーはその第二弾「VISION-S02」を発表。その場で2022年中にもEVの販売を検討する新会社「ソニーモビリティ」を設立すると宣言していたのだ。
ソニーモビリティとホンダとの合弁会社は別々の会社となるのか、あるいは一本化されて集約されていくのか。今回はオンラインでの参加者には質問の機会が与えられなかったため、現段階ではその結論は両社の動きを待つしかない。
一方で会見では新たにわかったこともある。それは今回の提携がソニーとホンダの関係にとどまらず、ここに参加社を増やすことも念頭に置いていることだ。吉田氏が特に強調したのが、「ソニーが提供するサービスのプラットフォームをホンダ車以外の自動車メーカーにも使ってもらうこと」だ。2025年に発売する段階では時間がないこともあり、両社だけで進めるが、それが実現すれば「ソニーが貢献する幅が広がる」(吉田氏)としている。
一方、ホンダがすでに発表した、”40年に世界で販売する新車をすべてBEVかFCEVにする”とのEV戦略への影響はあるのだろうか。これについて三部氏は、「(ホンダとして)メジャーな電動化ビジネスはGMとの提携の下で進めていく」としつつ、今回のジョイントベンチャーで誕生するEVは「ホンダブランドとは一線を引いた、ジョイベン(ジョイントベンチャー)のクルマになっていく」とした。
開発するEVは「VISION-S」系、それとも「HONDA-e」系?
では、ソニーとホンダが提携することで「VISION-S」が誕生するのか。ここからは筆者の推測でしかないが、おそらくその話は両社が提携した時点で試作車のまま消えるのではないかと思っている。なぜかといえば、「VISION-S」はあくまでソニーがマグナシュタイヤーに委託して試作したEVであって、ここではEVプラットフォームをマグナシュタイヤーが手掛け、そこにはさまざまなサプライヤーからの調達した部品が使われている。つまり、ホンダとはまったく関係性がない世界で生まれたクルマである。ここにホンダが乗っかるという話は常識的に考えてあり得ない。
むしろホンダには「HONDA-e」というEVがあって、現状では価格も割高で販売競争力はほとんどないと聞く。しかし、乗ってみればクルマとしての出来は素晴らしくいい。加えてインパネを見ればワイドなディスプレイが広がる。ここにソニーが提供するエンタメ系サービスが加われば、それこそ「VISION-S」のコンセプトがそのまま展開されることにもなる。その意味でも「HONDA-e」こそ、今回の提携を開花させるに相応しいのではないかと考えるのだ。
いずれにしろ、今回の提携は、まさに”100年に一度の大変革期”の中で、自動車メーカーと家電メーカーが手を携えた歴史的な出来事として記録されるだろう。2025年まであと3年。今回の提携によって誕生するEVがどんなインパクトを携えて誕生するのか、首を長くして楽しみに待ちたいと思う。