スパコン富岳がタクシーでの感染症をシミュレーション
理化学研究所はスーパーコンピュータ富岳で、タクシー車内における新型コロナウイルス感染リスクと対策のシミュレーションを行い、その結果を発表した。それによると、エアコンを外気導入で風量を通常レベル以上にすると換気能力が高まるのと、運転手・乗客ともマスク着用が感染症対策として望ましいことがわかった。
飛沫・エアロゾルは10秒以内でタクシーの車内に拡散
理化学研究所は国土交通省、トヨタと協力し、タクシー内における新型コロナウイルス感染リスク・対策のシミュレーションを行い、その結果を発表した。一連のシミュレーションではスーパーコンピュータ富岳が使われている。
感染リスクでは、「窓をすべて閉めた状態」「運転席と後部座席で窓開けした状態」「運転席と後部座席で窓開けし、運転席と後部座席の間にパーティションが付いた状態」という3つの状況を設定。それぞれの場合で、運転手が咳をした際と、乗客が咳をした際の飛沫飛散※1の様子を富岳でシミュレーションした。なおいずれの場合においても、乗車人数は運転手1名と乗客2名の合計3名で、エアコンを使用。窓は5cm開ける。車速は、市街地走行を想定して時速40kmとした。
まずは「窓をすべて閉めた状態」で運転手・乗客のいずれが咳をした場合、エアコンの気流でエアロゾル※2が10秒以内でタクシーの車内に拡散することがわかった。
※1:飛沫とは水しぶきのこと。会話や咳などで、細かい唾液が飛び散る様子を指している。飛沫は水分の重みで長時間、空気中に漂うことができない。
※2:エアロゾルとは、気体中に液体ないしは固体の微粒子が広がった状態のこと。微細な飛沫に加え、水分を含まないウイルスが単体で空気中に漂っている。水分を含まないウイルスは軽いため、空気中に漂う時間が飛沫より長い。
「運転席と後部座席で窓開けした状態」で運転手が咳をした場合は、運転席側の窓から20秒後には発生した飛沫の約25%が窓から排出される。乗客が後部座席で咳をした場合は、20秒後に飛沫の約10%のみが窓から排出されるにとどまった。
「運転席と後部座席で窓開けし、運転席と後部座席の間にパーティションが付いた状態」で運転手が咳をした場合は、20秒後には発生した飛沫の約50%が排出され、パーティションによって後部座席に飛沫が到達する量も減少する。乗客が後部座席で咳をした場合は、運転席へ直接の飛沫飛散は防御できるが、窓から排出される飛沫の量は少ないことがわかった。
なお時速40kmでは窓開けにより換気量が約25%向上するが、それ以上の向上は期待できないことや、時速20km以下では窓を開けても換気量がほとんど増えないということが判明した。
エアコンは外気導入に加え、運転手・乗客ともマスク着用
今回研究された対策のもう1つが、「外気導入」のエアコンで風量が「通常モード」「最大モード」だったときの換気能力の違い。外気導入のエアコンで風量は、窓を閉め切った車内でも通常モード(最大風量の半分)なら1時間に40回程度(1.5分に1回)の換気が達成されており、3人乗車の場合、一人当たりの換気量は一般オフィスの2~3倍確保されていることが分かった。そのためエアコンの風量は通常以上とすることが望ましいとした。
今回のシミュレーションでは、咳をする人がマスクをしていれば、飛沫・エアロゾルが約30%まで減少できることも判明しており、エアコンの外気導入+通常モード以上の風量、窓開けだけでなく、運転者・乗客がマスクを着用することを推奨している。
これらの結果から、複数人で乗車する場合は、通常以上の風量(最大風量の半分)によるエアコンの外気導入、運転に支障ない気温なら窓開けによる換気、そして乗員各々がマスク着用を心がけることが、タクシー以外の乗用車でも感染症対策として有効であると言えそうだ。
飛沫飛散の様子やエアコン換気などのシミュレーション動画は、こちらを参照。
27分40秒から「タクシーにおけるリスク評価と対策について」の説明が始まります。再生ボタンを押すと27分40秒から再生されます。