巣ごもりは”レストア”を加速させる!?「コロナ禍でも車内で楽しく過ごそう」イタリア編
いまイタリアでは車のレストアが密かなブームに!? コロナ禍で世界の人々のカーライフはどう変わったのでしょうか。イタリアならではの事情と車との過ごし方について、シエナ在住のコラムニスト、大矢アキオさんが現地からレポート。特別寄稿をお届けします。
カー用品店を支えるのは、92歳の女将
イタリアで新型コロナウイルス対策として最初の都市封鎖(ロックダウン)が2020年3月9日に施行されてから1年が経過した。
それは約2か月後に解除されたが、2020年11月から各州などで行動制限レベルを3段階(のちに4段階)に分ける方式が導入され、今日に至っている。
本稿執筆時点で筆者が住むトスカーナ州は、最高警戒レベルから2番目の「市外への移動禁止」である。国家警察や憲兵が市街地や路上で違反者のチェックにあたっているほか、大都市部では陸軍も動員されている。
交通量も減少している。イタリア最大の高速道路運営会社「アウトストラーデ・ペルリタリア」によると、都市封鎖直後の2020年3月末には40.5%も減少し、2020年全体の通行量も27.9%減となった。
いっぽう人々のカーライフは、どう変化しているのか。それを知るのに手っとり早いのは「カー用品店」である。筆者が住むシエナにある老舗「トゥッタウト」は、プロの修理業者と一般人の双方を相手にしていることもあって、訪ねると店内は盛況だった。
女将のリーナさんは、お客さんの注文を聞いては後方の棚に一瞬姿を暗ましたかと思うと、直後にパーツをカウンターに差し出す。四輪用・二輪用どちらでも対応している。昔、秋葉原で電子部品をテキパキと揃えてくれたおばさんの仕事ぶりを彷彿とさせる早業である。
聞けば今年で92歳という。その明晰な頭脳は、長年さまざまなクルマのパーツやアクセサリーを頭の中でアップデートをし続けた賜物であろう。不透明感が漂う時代、元気なお年寄りの姿は、街行く人々の励みになる。
コロナ禍で変化したカー用品の売れ筋
脇で働く番頭のジャンカルロさんに売れ筋の変化を尋ねると、「新型コロナ以前はクラッチプレートなどの大きなパーツが売れたけど、今ではヘッドライトのバルブといった、今日無いと困る部品や、ワイパーのゴムといった季節の変わり目に交換する消耗品がよく売れるようになったな」と教えてくれた。要は、必要最低限、かつ低予算のものが主流になったと証言する。
「それから」とジャンカルロさんは続ける。「ロックダウン解除前後はバッテリーも売れたよ」。長いこと放置していた間、放電してしまったクルマが多かったためである。筆者のクルマも同じで、その顛末は5月15日の本欄に記したとおりだ。
日本で販売されているようなエンジンスタート用のUSBパワーバンクがあるか調べてみると、イタリアでは通販で僅かな選択肢があるものの、選択肢が極めて少なく買う気が起きない。そのうえ街なかでは売っていない。その後もう1回バッテリー上がりでロードサービスのお世話になったのを機に、日本円換算で3万6000円近くを投じ、新品バッテリーに交換した筆者であった。
なお、彼らの店は、ロックダウン中も業務を続けていた。「救急車も含む緊急車両用パーツのオーダーが、いつ入るかわからなかったからね」とその理由を語る。そうした意味でも自動車用品店は、カーライフの番人であったのだ。
レストア・ブームは外出自粛がきっかけ!?
いっぽう自動車趣味の世界は、どうなっているのか。それを聞くのに最適任なのは、古いフランス製大衆車のパーツ販売を手掛けているマッシモ・デ・マルコさんである。彼は「新型コロナをきっかけに、販売量が増えたよ」と語る。その理由は?
「家にいる機会が増えた人たちが、趣味に時間を費やせるようになったからさ」。つまり、家にある古いクルマの復元を始めたのである。本場フランスからも在庫問い合わせが舞い込むというというから、そのトレンドはイタリア国内にとどまらないようだ。
先日彼は業務拡張のため、今までのショップの近くに、新たに600平方メートルの倉庫を確保したというから、マッシモさんの仕事の順調ぶりが窺える。
そういえば筆者の周囲でも、レストアを始めたという話をちらほら耳にする。我が街のSUBARU販売店主の息子リッカルドさんは、仕事とは別に趣味で1980年式の「スバルGL(レオーネ)」のレストアを開始した。もともとお客さんから下取り車として引き取ったまま仕舞っておいたものだ。「父が40年前、最初に売ったクルマと同型車だからね」と、復元の理由を語る。
知人ファビオのお題は、ピアッジョ社製スクーター「ペスパPX」だ。病院勤務医時代は多忙で長年放置していたが、定年退職と新型コロナによる外出の減少を機会に、レストアを開始した。
ベスパPXはデビューを1970年代後半にさかのぼる。10年くらい前までは、まだ街中で頻繁に目にしたが、絶版になってしまったのと同時に、台湾製スクーター勢に押され、近年はめっきり目撃する頻度が減った。それでも、草創期モデル風デザインと実用性を兼ね備えていることから、ファビオのような熱いファンがいるのである。彼の作業場は、離れの工作室だ。すでにフルペイントも施した。
以前からイタリアでは週末の物置で、先祖が遺した家具を再生して使うためにヤスリがけをしたり、ニス塗りしている人がたくさんいた。そのクルマ版が、巣ごもりモードによって加速しているのである。
晴れてイタリアが新型コロナから解放されたとき、路上に彼らの成果が縦横に走り回ると思うと、今から楽しみではないか。