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最終更新日:2020.04.09 公開日:2020.04.09

未確認走行物体「パルス シルバーバレット」、公道走行中を動画スクープ!?

現在、日本国内には5台前後しか現存しないとされる、未来的な外見を持った米国製ビークル「パルス」。当サイトでは、2018年の「お台場旧車天国」のレポート記事において、中でも特別な1台である「パルス シルバーバレット」を紹介したが、今回、公道を走行中の勇姿が動画に収められた。それを紹介しよう。

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画像1。戦闘機型バイク「パルス」。お台場旧車天国2018にて撮影。

 「PULSE AUTOCYCLE」(以下「パルス」)は、1985年から1990年にかけて、米ミシガン州のOMMC(Owosso Motor Cycle Company)社によって400台弱が生産された、近未来的な航空機風の外装をまとったビークルだ(画像1)。全長5370×全幅1980×全高1700mm、ホイルベース3124mm、車重780kgというスペックである。乗車定員は2名だ。

 大型自動二輪免許を必要とすることから分類としてはバイクとなるが(生産年度によって四輪車扱いのものもある)、超ロングホイールベースで、主翼の下には補助輪を用意。コックピットはまさに航空機のようなキャノピーを閉じる構造で、操縦はツインスティック型の操縦桿で行うという、地上を走るビークルとしては類を見ない特徴をいくつも持っている。

 2018年12月18日に公開したお台場旧車天国2018のレポート記事の5本目「戦闘機型バイクに軽『カウンタック』!? 思わず目が点になるスゴイのを集めてみた!」において、中でも特別な1台である「パルス シルバーバレット」(所有者:相澤さん)を紹介した。そのときは残念ながら走行している様子を収めることはできなかったのだが、2020年に入ってからドライブレコーダーの映像を投稿できる、当パークブログの姉妹サイト「ドラドラ動画」に、「パルス シルバーバレット」が公道を走行している際の映像が投稿された。そこで、お台場旧車天国を主催する八重洲出版オールドタイマー編集部に相談したところ、相澤さんとの橋渡し役を快く引き受けてくれ、今回話を聞くことに成功した。「パルス シルバーバレット」とは、どのような乗り味のビークルなのだろうか?

画像2。「パルス」のコックピット。免許は大型自動二輪だがキャノピーを閉じて座席に座り、しかも操縦桿で運転する。

慣れないと乗るのが難しいところも多い

 操縦する際は、「乗り慣れないと操縦するのはかなり難しいですね」と相澤さんは語る。まず、コックピットの両脇に主翼があるため、車幅感覚をつかみづらいことがひとつ。そして同様につかみづらいのが、前走車との車間だ。キャノピー越しの前方視界は下側に死角があり(画像2)、また「パルス シルバーバレット」自体、デザイン的に先端が延びていることも大きい。慎重に車間を見極める必要があるという。さらに、超ロングホイールベースのため最小回転半径が大きく、小回りが利かない。一般的なバイクのような軽快な動きは難しいようだ。

 また走行中は基本的に2輪だが、停車時は左右どちらかの主翼下の補助輪を使って3輪となる。これもまたバイクともクルマとも異なる特別な感覚で、「浮遊しているような感じがします」と相澤さんはいう。

15年かけて細部をカスタマイズ

 乗りこなすにはコツが要るそんな「パルス シルバーバレット」だが、相澤さんはふたつの点から大いに魅力を感じている。ひとつ目は外観だ。オリジナルの「パルス」も主翼や尾翼があるが(尾翼がないものもあるようだ)、もっとつるんとした凹凸が少ない外観だ。昔のSF映画に出てきそうな、未来のクルマ的雰囲気である。

 しかし、相澤さんはそれを15年かけて細部までカスタマイズ。「パルス シルバーバレット」をよりメカニカルな感じに、そして誰が見てもわかるように戦闘機風に仕立て上げたのだ。「パルス」自体希少だが、「パルス シルバーバレット」はその中でも唯一無二の1台。それだけに、相澤さんもこのスタイリングをとても気に入っているという。

画像3。リアビュー。一般的な「パルス」は、垂直尾翼があっても1枚の模様。それを2枚にしてある。ジェットノズルの中にブレーキランプなどがある。

バイクともクルマとも異なる独特の操縦感覚

 そしてふたつ目の魅力として、相澤さんはバイクともクルマとも異なる操縦感覚を挙げる。バイクにもかかわらずシートに座り、足下は3ペダルの四輪のMT車と同等の仕組み。超ロングホイールベースの車体をツインスティック型の操縦桿で操る。まさに独自の操縦感覚だ。コーナリング時はクルマにはないバイクならではのバンク感がある一方で、逆にクルマのような安定感や快適さ(エアコンも追加装備)もある。バイクとクルマのいいところ取りの乗り心地なのだそうだ。

 その上、短所が逆に長所になる場合もある。相澤さんがとても気に入っているのが、山間部などで下り坂を走るときだ。というのも、下り坂では下側の死角で道路が見えなくなることなどから、まさに航空機で飛んでいるかのような錯覚に陥り、とにかく乗っていて楽しいのだそうだ。「パルス シルバーバレット」は、”(バイク+クルマ+航空機)÷3″とでもいうべき、まさに未確認走行物体ともいうべきカテゴライズ不能のビークルなのである。

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相澤さんと「パルス」の出会いについて

400台のうちのさらにスペシャルな1台を購入

 相澤さんと「パルス」の出会いは、米国に在住していた1980年代後半まで遡る。その頃にエアショーか何かのイベントで実車を見て気に入ったのだそうだ。そして1988年に日本に戻ったところ、世田谷のディーラーが赤い「パルス」を輸入販売しているのを雑誌で見かけ、すぐに購入を決意。しかし連絡を取ってみたが一足遅く、売約済みだったのである。

 しかしもう1台輸入できるというので依頼したところ、なんと米国ビール会社クアーズの広告が入った特別な7台のうちの1台がやってきた。このことから、相澤さんの「パルス」は「パルス クアーズ シルバーバレット」が正式名称である。ただし相澤さん自身は、「パルス シルバーバレット(PULSE SILVER BULLET)」と呼んでいる。

 ちなみにシルバーバレットとはクアーズの登録商標で、弾丸型の高速な乗り物をイメージしているという。そのイメージに当てはまるレーシングカーや列車、小型ジェット機などさまざまな乗り物にクアーズがその名をつけており、「パルス」も弾丸型であることから選ばれたようだ。

画像4。「パルス」はとても希少なバイクだが、この1台「パルス シルバーバレット」は細部まで改造した唯一無二の1台。

エンジンの換装や細部の仕上げなど15年かけて現車が完成

 実は、「パルス クアーズ シルバーバレット」は、購入してみたら外見とは裏腹にラフな作りであることが判明。「とても、”ワイルドな”作りだったんです(苦笑)」と相澤さんは愛車との初対面の時のことを語る。

 輸入したディーラーでは整備が無理だったことから、新たに整備してもらえるところを探すことに。そのとき、改良・改造で協力したいと名乗り出たのが、サイドカーおよびトライクを扱う新潟技研だった。そして同社社長の好意により、なんと細部をコツコツと15年もかけて(しかも安価に)仕上げてもらったのだという。その結果誕生したのが、唯一無二の戦闘機型をした「パルス シルバーバレット」なのである。

 「パルス シルバーバレット」の最大の変更点はエンジンだ。「パルス」には250ccモデル(当時の価格5395ドル)と450ccモデル(当時の価格6995ドル)があったが、エンジンを換装して大排気量化することにしたのである。当初は、ホンダ「GL1200」のエンジンを考えていたが、同エンジンはあまり出回っておらず、パーツ交換やエンジンそのものの交換など、将来的なメンテナンスのことを考えて断念。旧車は、すでに生産されていないパーツを中古市場からどれだけ入手しやすいか、という点も維持していく上で重要なのである。

 さらに探したところ、同じホンダのひとつ上の大排気量車「GL1500」に搭載されている1522ccのSC22型エンジンが見つかった。SC22型エンジンは数多く出回っているので、それだけパーツ取りもしやすい。その上、リバースギアが備えられていることも決め手となったそうである。SC22型エンジンの最高出力は97馬力/5000rpm、最大トルクは149.0N・m/4000rpmだ。

公道では五感をフル活用して走行

 こうして完成した唯一無二の「パルス シルバーバレット」に乗って、相澤さんは毎週水曜日にツーリングに出かけており、60~70kmぐらいは走るという。走行中は、かなり安全運転に気を遣うそうだ。「パルス」自体の操縦特性が特徴的ということは既述したが、30年以上も前の乗り物であるため、状態や調子などを常に気にかける必要があるからである。水温や電圧などのメーター類もこまめな確認が必要で、五感を総動員して安全運転を心がけているとのこと。また旧車に乗る際の心がけとして、万が一の故障時のリカバリー方法も入念に考えてあるそうだ。

 そんな「パルス シルバーバレット」が走行する様子は、以下の画像をクリックすると、ドラドラ動画の「ジェット噴射しないでね!」(たけるくんさん投稿)のページに飛んで再生することができる。相澤さんによれば、ツーリングに出た際に、鎌倉街道(都道18号)を走っているときに撮影されたのだろうということだった。


ジェット噴射しないでね!

ドラドラ動画に投稿された「 パルス」の公道走行の様子。エンジン音など、サウンドは収録されていない。再生し時間1分10秒。

 なお相澤さんによると、とにかく乗車中は撮影されることが多いという。中には、運転を二の次にして撮影しようとするドライバーもいて、危うく衝突されそうになったことも一度や二度ではない。それほど特徴的で際立った外見をしているということなのだろう。もし読者の方がクルマの運転中に「パルス シルバーバレット」を見かけたときは、我を忘れないようご注意いただきたい。


 1990年まで生産された「パルス」を待っていたのは、製造元の米OMMC社が1991年に倒産してしまうという逆境だった。しかしそんな苦難を乗り越え、30年経った今でも、米国ではまだ数十台が現役で、オーナーズクラブも活動している。ちなみに日本で現役なのは、「パルス シルバーバレット」のほか、四輪登録のオーナー車が沖縄県に1台。そして大分の九州自動車博物館に、「ジェット パルス」の名で展示中なのが1台。そのほかにも、埼玉や名古屋など、あと3台ぐらいあるようだが、詳しい所在地や今なお現役かどうかは不明とのことである。

 「パルス」は、空を飛ぶことはできないが、メーカーの倒産という最大の逆境すらはねのけて、30年という時空を飛び越えることができた特別なビークルだ。今後もさらに時空を超越した存在であり続けることだろう。オーナーの愛情をエネルギー源に、空は飛べなくても時空を飛び越えられるのが、未確認走行物体「パルス」なのだ。

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