「家」を探す仔猫の妖精のロードムービー|羅小黒戦記レポ
昨年秋に日本で初公開され、SNSを中心に人気の広がりを見せている中国製アニメをご存知だろうか。妖精たちが活躍する中華ファンタジー、「羅小黒戦記」だ。週末のミニシアターやドリパスのチケットは完売が続き、2月下旬に川崎チネチッタで公開されてようやく鑑賞の機会を得られたので、その感動をレポートしたい。
住みかを追われた仔猫の妖精の物語
木々は深く青く葉を広げ、動物たちがのどかに暮らす自然豊かな森。やんちゃな仔猫の妖精・小黒が不思議な生き物(森の精?)と遊ぶ、微笑ましい場面から幕が開ける。そんな平和そのものの森に開発の手が入り、住みかを追われた小黒は新しい「居場所」を探す旅に出た。
途中で出会った頼りになる妖精・フーシーとその仲間の住む離島に招かれ、新しい家を手に入れたと思ったのも束の間、フーシーを捕まえるためにやってきた執行人・人間のムゲンのせいで台無しになる。その上、取り残された小黒はムゲンに捕らえられて、長い道のりを大陸まで連行される羽目になってしまう。
その程度のあらすじはなんとなく知っていたが、SNSで流れてくる「可愛い!」「最高!」「また見たい!」といったカタコト程度の呟き以上は追わずに、ほぼ事前情報なしで劇場へ行った。
ストーリーに目新しさはなく、「環境破壊」「妖精(=自然)と人間の共存」といったテーマもよくあるものだ。ではつまらないかと言えば、そうではない。
例えば、日本の伝統芸能なら歌舞伎や文楽。あるいは落語。観客は内容を熟知して見に行く。内容どころか、場面によっては次の台詞まで知っている。それでも、素晴らしい演技に笑って泣いて、拍手を送り、衣装や舞台装置を楽しむ。同じように、「羅小黒戦記」を楽しんだ。
可愛らしいがデフォルメされすぎにも感じていた小黒は、動き出すと猫そのもの。ちょっとした仕草の愛らしさや跳ねるように駆け回る姿に、クリエイターたちの「猫愛」をたっぷりと感じる。猫好きでなくとも、小黒の可愛らしさだけでいきなり涙腺が緩みそうになるだろう。
おまけに、理不尽に住処を追われながら、明るく逞しい。「新しい居場所はきっと見つかるよ」。自らの分身でもある相棒のヘイシュにそう言って、食べる物にも苦労しながらさまよう中で、まっすぐに前を向いてへこたれない。住み慣れた森を離れて見る新しい風景を、楽しんでいるようにさえ見える。
途中から、旅で出会ったフーシーたちの姿に合わせて人間の子どもの姿に変じるようになるが、猫の時には猫らしかったように、子どもの時にはとても子どもらしい。元気いっぱいで強情で、それでいて、時に妙にしおらしい。不本意ながら一緒に旅をすることになる、ムゲンへの態度もそうだ。
人間のムゲンは、見かけは若いが超常の力を持つ妖精たちを難なくいなし、沈着冷静で悠揚迫らざる風格がある。なんだか大好きなこの感じ。カンフー映画に出てくる、絶対的に頼りになるカンフーマスターたちのあの感じだ。人間でありながら人間を超越し、かといって妖精でもないムゲンもまた、小黒と同じく居場所を持たない者でもある。
二人の長い旅路
別のクライマックスが用意されてはいるが、本作の主眼はそんな二人の旅ではないだろうか。子どもらしい頑なさで反目し続ける小黒と、仔猫の反発など気にする風でもないムゲンが、旅の中で少しずつ互いを知っていく。
二人が打ち解けるきっかけになる、わかりやすいアクシデントは起きない。むしろ淡々としながら、全体の尺を考えれば長すぎるほどにたっぷりと二人の旅を見せていく。小黒はいつでも自由にやんちゃで、寡黙なムゲンは一歩退いて見守るスタンスだ。それでも大切なことは教え、諭し、いざ危険があれば助ける。不器用でさりげないが、実は優しい。共に過ごす時間の中で二人の関係が緩やかに変化し、細くとも確かに縒られていく絆が、無理なく自然に見えてくる。生まれ育った森しか知らなかった小黒はムゲンを介して他の妖精や人間に出会い、関わり、知識と見聞を広げ、自分の持つ力に気づいて成長していく。
好きなシーンがある。
「人間の速い乗り物」に興味津々な小黒のために、ムゲンが真っ赤なスクーターを手に入れる。「もっとかっこいい乗り物がある」と不満そうな小黒に、子どもってそうだよね、と思う。事情がある中でなんとか希望を叶えてあげたいと思う大人の気遣いに、「こんなのじゃない!」と無邪気に言い放つ。でもこの子どもらしさも、「免許がない(からスクーターで我慢しろ)」と必要以下の言葉で素っ気なく切り返すムゲンもとても良い。
文句を言いつつも、二人乗りできないスクーターのために猫の姿へ戻った小黒は、フルフェイスのヘルメットの中にすっぽりと収まって、前かごに乗せられる。特別な力を持つムゲンは事故に遭ったところで危なくもないだろうが、それは小黒も同じだ。それなのに、自分が被るべきヘルメットを小黒に被せてやっている。ムゲンから与えられたヘルメットに当然のように守られて、小黒はやはり無邪気に人間の街に目を瞠る。
表面上のやりとりはそれほど二人の関係性に変化が起きているように見えず、当人たちにもまだ自覚はないのかもしれない。微笑ましくも、いつ気付くのだろうと、そっとやきもきしたりもする。見守っている観客も一緒に、彼らとの絆を育んでいる。だからこそ、クライマックスではぎゅっと胸が熱くなった。
YouTubeで公開されているFlashアニメシリーズの前日譚といった位置づけのためか、世界観についての説明なしに出てくる用語などに若干わかりにくい部分もあるが、気になるほどではない。中華ファンタジーといえばお約束の「あの方」も、もちろん颯爽と出てくる。
本作は、各地ミニシアターや一部のシネコンなど上映館が変わりながらロングラン中だ。新型コロナウイルスの拡散防止もあるので、同ウイルスの拡散が落ちついて、お近くに上映館があれば、二人の紡ぐ絆の終着点を見届けに、足を運んでみていただきたい。
映画「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)/The Legend of Hei」全国公開中
©北京寒木春華動画技術有限会社
配給: チームジョイ株式会社
https://heicat-movie.com/