「ルーチェ」には昭和の雰囲気がよく似合う【ジオラマ作家・杉山武司の世界:その1】
YouTube「JAFで買う」チャンネルにて、JAF通販紀行が公開したミニカー「ノレブ」のプロモーションビデオが秀逸だ。映像作家・尾形賢氏とジオラマ作家・杉山武司氏のコラボレーションによって制作され、4作品が公開中である。ここでは、それらの映像中に使用された杉山氏のジオラマの魅力に迫る。第1弾は、“ハイウェイの貴公子”と呼ばれたマツダ「ルーチェ ロータリークーペ」編だ。
杉山武司(すぎやま・たけじ)氏は、建物のミニチュア創作を得意とする、日本屈指のジオラマ作家だ。2002年に立体画家の芳賀一洋氏に師事して、クリエイターとしての活動をスタート。2007年に故郷の北海道滝川市に戻るとアトリエを建て、本格的な創作活動を開始した。クルマやバイクなどのスケールモデルが似合う、”男のドォルハウス”などとも呼ばれる、昭和風やアメリカ風のガレージや町工場などを発表している(画像1)。その完成度はとても高く、個展が開かれるほどだ。また自身では創作教室なども開催しており、北海道にジオラマ制作の裾野を広げる活動も実施中である。
その完成度に映像作家も注目
今回、以前からそのクォリティの高さに注目していた映像作家の尾形賢氏が、JAF通販紀行「〈ノレブ〉 1/43スケール 懐かしの名車シリーズ」(画像2)のプロモーション動画を撮影するに当たり、杉山氏に打診。快諾を得て尾形氏は杉山氏の作品をバックにした、ミニカーの魅力を余すことなく伝える映像を完成させた。プロモ動画は4作品あり、YouTube「JAFで買う」で公開中だ。
映像で背景となるジオラマ(ミニチュアの建物)は、4車種それぞれに用意(複数に登場するジオラマもある)。第1回は「ルーチェ ロータリークーペ」編のみで使用された、町の整備工場(その看板にある工場名から取って「ワーゲンガレージ」と呼ぶことにする)の魅力に迫ると同時に、杉山氏の作品のポイントを紹介する。
なお、マツダ「ルーチェ ロータリークーペ」については、最後に掲載したプロモーション動画中でナレーションによる解説が行われているので、詳しくはそちらを視聴いただきたい。
ポイント1:レトロでくたびれて汚れた雰囲気
杉山氏の作品の特徴は、古びて汚れて、レトロな感じがするところ。ワーゲンガレージは実際にモデルがあるわけではないそうだが、まさに昭和の町の整備工場である。
実際に昭和の時代に製作されたかのような古びた雰囲気は、例えば看板ひとつをとっても見て取れる(画像3)。「ワーゲン」の「ン」の上の点が取れてしまっているのだ。昔は、こうした文字の一部が欠けてしまったり消えてしまったりして読めない看板を、見かけなかっただろうか。ちなみに杉山氏によれば、これは意図したものではないという。たまたま取れてしまって、レトロな感じが強まったのであえて接着し直さないことにしたのだ。
建物全体が同じだけの時間を経た、統一された雰囲気も見るべきポイントである。こうしたミニチュアの建物は何種類もの素材を駆使して製作されるが、統一感が取れてないとチグハグになってしまう。全体的に一様にくたびれた感じを出すことができるのが、日本屈指のウェザリングのテクニックなのである。まるで、実際に何年も野ざらしにしておいたのではないかと錯覚してしまうほどだ。
ポイント2:建物の内部まで徹底した作り込み
そしてもうひとつの特徴が、建物の内部まで丹念に作り込まれているところ。画像4を見てもらうとわかるが、ワーゲンガレージの奥には、ツールボックスや消火器、フロアジャッキなどがあり、壁にはポスターも貼られている。またウイングらしきパーツも無造作に床に置かれている。ワーゲンガレージはモータースポーツに関わっているのだろうか? そんな想像も膨らんでしまう。
そして作り込みは1階だけに留まっていない。1階の左側には階段があるのだが、その上がった先には休憩室がある(画像5)。2階は窓からしかのぞき込むことができないため、磨りガラスにして中をあまり見せないという方法も取れただろう。しかし、ここもしっかりと作られている。見れば見るほど、新たな発見があるのも杉山氏のジオラマの魅力なのだ。