空のグルメ機内食を運ぶ「フードローダー」ってどんなクルマ?
空港の滑走路で見かけるクルマのひとつ「フードローダー」というクルマをご存じだろうか。ケータリング会社が、機内食を飛行機の中に運び込むための保冷機能やリフトが備わっている特殊車両だ。本記事では、その特徴や、機内食が機内に運ばれるまでの流れなどをご紹介しよう。
機内食を積み込むための、冷蔵車とリフト車のハイブリッド
快適な空の旅に欠かせないもののひとつに「機内食」があるだろう。航空会社や国柄によってさまざまな工夫が凝らされている機内食は、空の旅の楽しみのひとつともいえる。そんな機内食や飲料、そして食器などを機内に運び込むために欠かせないのが、「フードローダー」という特殊車両だ。その特徴や仕組み、機内食が運び込まれるまでの流れはどうなっているのだろうか。ジャルロイヤルケータリング(株)に聞いた。
機内食は空港から運ばれるのではなく、周辺のケータリング会社の機内食工場で作られ、そこからこのフードローダーによって運ばれる。フードローダーの基本的な仕様は、保冷機能付きのコンテナを搭載したトラックである。そのトラックの荷室部分が、シザ―リフトという装備で持ち上げられる仕組みとなっているのだ。シザ―リフトとは文字通り、シザー(ハサミ)のような形状の、重量物を持ち上げるための油圧式リフトだ。いわば冷蔵車と高所作業車が組み合わさったような造りである。コンテナの大きさは、一般的なもので長さ約7.5m幅約2.4m高さ約2.1m。これは、B777などの大型機500食分の場合は2台で、近距離路線などの中小型機であれば1台で1便あたりの機内食を積み込める搭載量だという。
通常の冷蔵車の場合、扉は後面のみだが、フードローダーの場合、コンテナをリフトで上昇させて航空機に密接させてから積み込むため、前面にも観音扉のドアが設置されている。コンテナ内部には機内食用のカートを固定するベルトが備え付けられており、運搬中の揺れや崩れ対策として工場出発時に装着される。
シザーリフトを稼働させる際も、揺れや崩れに対する備えが必要だ。コンテナを丸ごと持ち上げるには、タイヤやサスペンションによってどうしても揺れが発生してしまう。そのため、フードローダーには「アウトリガ」と呼ばれる装置が備え付けられている。これによって車体を地面に固定することで、サスペンションの影響を受けず、揺れを防ぐことができるのだ。本格的な搬入作業は、フードローダーを航空機に横付けして位置を定めた後に、このアウトリガで固定してから開始される。では、航空機へ積み込む際にはどのような作業があるのだろうか。
ジャルロイヤルケータリングによると、工場出発から航空機への積み込みが完了するまでの所要時間は、おおよそ1時間20分ほどだという。滑走路に到着してからは、まず航空機にフードローダーを横付けし、前述したアウトリガで車両を固定する。そして、固定後に、機体ドアまでシザーリフトでコンテナを上昇させていく。
コンテナの操作パネルは運転席、コンテナ内部、車両側面と複数に設置されているのが一般的で、コンテナ上昇時には、コンテナ内部に作業員が乗り込んで操作をするという。そして、コンテナが機体ドアの高さまで上昇したところで、コンテナ前面にあるドアを内部から開ける。同時に、運転台上にあるステップがせり出されると、これがコンテナと機体をつなぐ通路となる。
そうして通路が整うと、機体ドアを作業員が手動で外部から開ける。万が一の落下に備えて、車両と機体の間には落下防止ネットが取り付けられ、雨天時には、搬入時に機内食が濡れることのないよう車両と機体の間にはキャノピーを出すことができる。
航空機内へ機内食を積み込む際に気を付けている点についても聞いてみると、「航空機の通路は機内食を積むカートより少し広い程度なので、設備を破損させないよう細心の注意を払っています」と教えてくれた。機内のギャレーまでは作業員が手作業でカートを運ぶのだが、その短い距離でも料理が崩れないよう心配りをするという。この丁寧な作業があるからこそ、きれいな盛り付けを乗客が楽しむことができるというわけだ。
また、機内食を搬入していると、その重量で機体が沈んでいくのがわかるそうだ。その沈みを考慮し、フードローダーのコンテナ位置には常に気を配り、機体に接触しないようにも注意しなければならないという。
機内食を航空機内に積み込む。ただそれだけのために、フードローダーにはこれほどの装備と配慮がなされている。人とクルマの絶妙な連携と心配りが、安全で美味しい機内食の秘訣といっても過言ではないだろう。今は、飛行機に乗る機会もあまりないだろうが、コロナ禍が収束し、飛行機で機内食を食べる機会があったら、是非フードローダーのことを思い出してほしい。