【くるくら座談会】アフターコロナのクルマがどうなるか考えてみた。【後編】
アフターコロナのクルマと車社会について考えるオンライン座談会後編。引き続き、クルマの最新技術とライフスタイルを研究している三菱総合研究所の杉浦孝明氏と、カーナビやETCなどの開発に長く携わってきた浮穴浩二氏、それとくるくら記者の3名でお送りします。後編では、クルマの消毒方法から、カーシェアや観光などについてざっくばらんに話し合いました。
車のある豊かな暮らしを提案する情報サイト、くるくらの「くるくらカーライフ座談会」第1回目後編。前編の話を引き継ぎ、クルマの消毒をどうすればよいかや、これからの観光、カーシェアリングなどについて、専門家のお二人とオンライン座談会で語り合っていきます。
前編はこちらから。
カーシェアリングで気になるのは衛生面
くるくら記者(以下、記者):アフターコロナの移動手段として注目されているマイカーですが、前編では、マイカーをより安心して使う機能として、より高性能で使い勝手のいい空気清浄機能が必要だという話になりました。それ以外にはどうでしょうか? 浮穴さん、ITやITSを利用して、若い世代でもマイカーを利用しやすくなるような仕組みは考えられないでしょうか。
浮穴浩二(以下、浮穴):特に若者世代は、クルマを所有するのではなく、より手軽にカーシェアやレンタカーを使うことは多くなると思いますね。IT技術の進歩で借りる手続きなども簡単になったので、これからも伸びると思います。ただ、アフターコロナを意識すると、やはり気になるのは清掃や消毒でしょうか。みんなで使う公共交通みたいなクルマなので、より消毒が気になります。
レンタカー店で聞いてみると、戻ってきたクルマは5分間クリーニングするそうです。農薬を撒くようなポンプでスプレーをして、そのあとに拭く。この拭く作業が大変なようで、拭かないと意味がないのですが、そこに時間がかかっているようです。さらに、アルコールだと塗装が剥げてしまう可能性があるので次亜塩素酸を使うのですが、この臭いがきつくて、次のお客さんのために、臭いがなくなるまで空気を入れ替えることが必要なんだそうです。
それでもレンタカーはお客さんが変わるたびに清掃できるからいいのですが、カーシェアはいつクルマが戻ってくるか分からないし、そのたびに掃除する人を駐車場に配置することは、営業的に現実的ではないじゃないですか。だから、定期的な消毒は行うとしても、あとはお客さんにお願いするしかない。タイミングによっては、消毒できていないクルマを使う人が出てきてしまう可能性はあるでしょうね。
それで考えたのですが、ヨーロッパでは自動清浄機つきの公共トイレをよく見かけます。イギリスやオランダで増えてきているようですが、私はフランスで見かけました。用を足してトイレから出ると、自動で扉が閉まりクリーニングが始まります。便器だけではなく、個室全体を洗ってくれるんです。私が使った時には、かすかに次亜塩素酸の匂いがしてましたので、しっかり消毒されていることが分かりましたよ。時間はかかるけど、すごく安心感があります。カーシェアのクルマでも、あのように車内が丸洗いできれば安心ですよね。そこまでは無理としても、それに近い自動消毒くらいできるようになると、アフターコロナの時代にもカーシェアは伸ばせるんじゃないでしょうか。
杉浦孝明(以下、杉浦):レンタカーは、浮穴さんがおっしゃった通り、きちんと消毒と清掃をしていたら安心して受け入れられると思うんです。カーシェアのほうは、基本的にどんな人が前に乗ったか分からないじゃないですか。コロナ禍以前でも、誰が触ったか分からないハンドルは握りたくないという話を、特に女性ドライバーから聞いていました。そうなると、なんだかんだいっても、やはりマイカーが一番いいんじゃないかって話になりますね。
ただし、そこに2つポイントがあると思います。
1つは、今までは独身、既婚者に関わらず都心回帰という感じで、職場に近くて通勤に時間をかけずに済む場所が好まれていました。だから、電車で通えるし、クルマを必要としないという方が多かったと思うんです。でも、新型コロナでクルマがあった方が安心して暮らせるという意識がでてきたり、テレワーク化によって出社が週1~2日になってきた人も増えてきましたよね。そうなると、「職場に近くて通勤に時間をかけない住まい探し」という価値観以外の観点もありになってくる。そのとき、土地に余裕のある郊外を選択したら、たとえば、茅ケ崎とか八王子とか埼玉とかは、駐車場代も安くなりますしね。そうなれば、若い方でもクルマを買いやすくなるんじゃないかと思います。
2つ目は、中古車市場の活性化です。カーシェアというよりも、中古車市場がもっと活性化するのではないかと思います。10年落ち、10万キロ走ったクルマでも、性能的には問題ないのが最近のクルマの品質です。誰がハンドルを握ったかわからないカーシェアではなく、中古車でしっかりマイカーを所有した方が、自分や家族も安心できるという考え方もあるのではないでしょうか。
記者:たしかに、マイカーが持てるとベストなんですが、そこまではという若者もやはり残ると思うんです。カーシェアは消毒などの問題もありますが、でも、よくよく考えてみると、電車のつり革やイスもそうですし、カラオケのマイクもそうですよね。極端な話、賃貸のアパートだって「前に誰が住んでたの?」ってことを考えると、今までは消毒してるよ、クリーニングしてるよっていわれれば、信用して使っていました。今後カーシェアも、適切な消毒は必要ですが、それが当たり前になってくれば、意外と普通に受け入れられていくのかなとも思います。
暑い時、寒い時にお米とか重いものを買いに行くときとか、ちょっとしたときに気軽に使えるクルマがあると嬉しいです。自転車に乗るような感覚というか、自販機でお金を入れてジュースを買うぐらいの感覚で気軽にパッと利用できれば、カーシェアもいいなと思います。もちろん、消毒済みで。
杉浦:そうなると、近くで借りられるというのが、カーシェアの使命になりますね。東京でも環状八号線より外側に行くと、カーシェアの場所まで数百メートルあったりすることもあるようです。距離があるとカーシェアの便利さが減って抵抗感が出てきてしまうので、住む場所とのバランスの問題になってくるかと思います。
求めるのは「人の渋滞」が一様に分かるサービス
記者:カーシェアの今後も気になるところですが、乗用車を使った公共交通機関としてはタクシーもあります。タクシー会社によっては、アフターコロナでも安心な乗り物としてPRを行っているようですが、今後、より使われるようになりますか?
杉浦:タクシーはコロナ感染対策という意味でいうと、安心して使えると思います。ただ、運賃が割と高いので、アフターコロナで日常生活の中でも気軽にタクシーに乗るようになるかというと、そこは抵抗感が強いかな。たとえば、お子さんが急に熱が出た時に、タクシーを呼んで病院まで行く、などの緊急時でこそ使いますが、大雨だったり、暑かったりするような時でも、健康な方はタクシーを使うより我慢して歩きますよね。ということは、日常生活のタクシー利用はそんなに変わらなくて、変わるとしたら非日常の観光や旅行かなと感じています。
これから先どうなるかわかりませんが、経済を回すということでGoToキャンペーンも含めて、観光の活性化をしていますよね。観光をビジネスにしている方は非常に多いと思うので、活性化していかなきゃならない。ところが、長時間同じバスに乗るとかは抵抗感があるかもしれない。そういうところで、タクシーの役割が大きくなるかもしれないですね。
記者:観光の話になりましたが、観光のための移動手段も変わってきそうですね。
杉浦:国土交通省が実施した「全国幹線旅客純流動調査」をもとに、休日旅行に利用される交通機関を集計したことがあるんですが、結果を見てみると、実はすでに日本の観光の8割は実はマイカー旅行なんですよ。そういう意味でいうと、まずはマイカーで安心して旅行ができるような仕組みを考えたほうが現実的かもしれません。例えば、SAとか道の駅が混雑している情報を、事前にコネクテッドの機能でクルマにいながら分かるとか。そんな機能が一般的になると、もっと安心して快適に旅行ができるのかなという気がしました。
浮穴:VICSによって道路の混雑情報はカーナビなどで簡単に分かるようになりました。SAの混雑具合なども、電光掲示板では分かるようになっていますが、それ以外の観光施設や観光地の混み具合をリアルタイムで分かるようになるのは、まだこれからでしょうね。
杉浦:今年の夏は、特に関東地方では東京中心に感染が拡がっていることもあったので、郊外への旅行は控えるべきだという風潮がありました。それでも、やはり夏休みなので、せめて県内で出かけようとしても、ショッピングモールは混んでいるのか? アウトレットは? 水族館は? と、行き先の込み具合が分からない。それが分かったらすごく出かけやすいなと思うんです。
今のコネクテッドやテレマティクスにも、道路の情報はかなりありますが、人の密集度合いは一様に分かるものがありません。現時点では、それぞれの施設のWebサイトで確認しないといけないんですよね。日常の中でも、外出の楽しさや安心感を得られるような機能があってもいいんじゃないかと感じています。
浮穴:テレビでは既に渋谷の混雑度の減少率を報じていますね。つまり携帯キャリアは、全ての電話の位置を把握しているわけですから、電話番号は非公開のままVICSと同じように情報を送ってナビに表示することだってできるわけですよね。とはいえ、技術的には可能でも、ビジネスとして成り立つかどうかというところがポイントです。サービスを上手く回すプランナーが現れれば、「人の渋滞」情報を確認して行き先を決めることも可能になりそうですね。
記者:そういえば、ディズニーランドの施設ごとに、何分待ちとかを確認できるアプリがあります。どこでも遊びに行くのであれば、混雑具合は気になります。ディズニーランドに限らずそういうアプリがあって、気軽に混雑情報が取れると嬉しいですね。
杉浦:どこに遊びに行ったら、今が一番空いてるし安心できるっていうのが分かるものが、ですね。僕も、8月に入ってから近隣に出かけて思ったんですけれど、混んでるか空いてるかは行ってみないと分からない。それは、今この日本において解決していくべき課題のひとつだと感じています。先ほど出たディズニーランドのアプリみたいなものが、県なり関東全体なり、日本全体でも、できるといいなって思いますね。
記者:ここ数年、モビリティの分野では、MaaS(Mobility as a Service)という言葉をよく聞きました。行きたい先探しから、そこへ行くための情報、そしてチケットの予約や支払などまでが一つのサービスでできてしまうというイメージだったのですが、このMaaSという考え方は、アフターコロナの社会でも残っていきそうですか。
杉浦:MaaSみたいなものは、基本的に公共交通を絡ませた利便性向上なんですよね。なので、マイカーで移動するときは、直接MaaSとは関係ないと思います。ヨーロッパでいわれているMaaSは、カーシェアを含めた公共交通利用の活性化みたいなイメージなので、公共交通がどれだけ使われるかというところに依存すると思います。
環境面とか、エネルギー効率とか、公共交通機関のメリットはもちろん大きいのですが、僕の感覚としては、家族で郊外に観光やアウトレットに行こうというときには、正直使いにくい気がしています。なぜかというと、新型コロナの問題もありますし、そもそも観光に行くと、貴重な時間の中で買い物したり、お土産を買ったり、美味しいものを食べたりしたいものです。そうなると、柔軟に動けるマイカーに分がある気がするんですよね。
日常の通勤や通学の中では、公共交通の利便性は大事だと思うんですけれど、非日常の中だと、マイカー旅行の方が利便性が高い。そこで、マイカーの利用をもっと向上する機能を、MaaSのような形で充実させていってもいいと思います。
記者:最後に、アフターコロナで大きく変化しそうなこと、逆に変化しないと思われることを、教えていただけますか。クルマ以外の話題でもいいですよ。
杉浦:新型コロナに関する状況が日々変化していたり、ウイルス変異の可能性もあると、この先がどうなるかと読むのは正直難しいことです。ただ、今回の件で浮き彫りになったことは、日本の産業の構造と、我々の暮らしが都心の機能を中心にできあがっていることです。
アメリカやドイツなどの諸外国を見ると、産業にしろ暮らしにしろ、いくつかの地域に分散されている傾向にあります。そのように、働く場所も住まいも、もっと日本全体の国土が均衡して使われていた方が、暮らす人たちにとっても安心で快適なのではないでしょうか。たとえば、全ての都心が感染対策で外出規制ということになれば、そこで産業がストップしてしまうということはリスクが高いはずです。地方分散を、コロナ禍をきっかけに進めた方が日本にとっていいと思うんです。
時間的にも空間的にも余裕がある暮らしは、暮らす側にとってもメリットが高いし、人口が分散していった方が会社機能においてもリスク分散ができるメリットがあると思っています。新型コロナの影響だけではなく、先々の安心感や快適性、信頼感を考えると、暮らしと働き方を変えていくことが大切だと思います。そうなると、マイカーのよさもますます生きてくるはずです。
浮穴:新型コロナの影響で、私の友人もオフィスを3フロアから1フロアにして、残りはみんな在宅勤務に移行したり、家賃の安い山梨に移動した人がいました。先ほど杉浦さんがおっしゃったように、地方分散してもネット環境があるので、問題なく仕事ができると思うんです。
ただ、一方で大学生が田舎に帰ってネットで授業を受けていると、同級生と交流したり、友達を見つけるチャンスが減ってしまいます。Zoomでは100人が一斉に画面に出るかもしれないけれど、そこで相性がよい人を見つけることは非常に難しい。そういうものは、直接のコミュニケーションがすごく大切だと思っています。チーム作りや仕事以外の仲間との絆などは、日本の強さでもあると思うのでそれは残していきたい。
でも、世の中はオンラインミーティング全盛になってしまいました。私も、Zoomはよく使いますが、周りの人がどういう目でこちらを見ているのか分からず、雰囲気や場が読めないこともあります。このコロナ禍によって、もし学生たちのコミュニケーションもオンラインでしかできない状況では、真に分かり合える友達はできにくいのではないでしょうか。対人関係における感覚を身に付けるためには、人と会わなければいけない。そのためにも、移動しての対面コミュニケーションを大切にしてほしいです。もちろん、衛生的で安全な移動が前提です。
もう一つは、家族にとってのクルマですね。子どもが結婚して家を出て行って、孫ができたりしても、会うのは年に数回くらいですが、クルマの中の会話ってすごく絆が深まるんですよ。一緒に移動しながら空間を共有できるからでしょうね。軽自動車も、ワンボックスカーみたいに空間が大きなものがあるので、リラックスできるようなクルマがますます人気が出てくるだろうと思っています。交流する場として、クルマというものが再評価されるだろうと思っています。
海外の方と仕事をした時も、一緒に食事をして人間性をお互いに理解して、その人を通して契約をするということがありました。世界どこでも、大切なのは人と人との関係なんです。そして人と会うためには移動が必要で、アフターコロナでは、モビリティこそがより重要になるのではないでしょうか。
記者:私の場合、今までは生活の中心が仕事だったのですが、在宅勤務が増えたことによって生活の質が上がってきている感じます。これは、私にとってはとても嬉しいことです。アフターコロナやウィズコロナという言葉を、ポジティブに捉える人は少ないかもしれませんが、仕事は仕事、プライベートはプライベートと、メリハリがある生活が手に入ったという人も多いのではないかなと思います。
反面、浮穴さんがおっしゃられるように、直接会って話すということも大切である、ということもとてもよくわかります。リモートに慣れ過ぎて、人と会った時にうまく話せないというのもイヤですよね。コロナ禍で起こったよい変化はうまく取り入れて、アフターコロナでも人との関わりを保つには、やはりモビリティが、なかでもマイカーの活用が大切になることが、今回の対談でもよく分かりました。
今日は、さまざまな興味深いお話、ありがとうございました。アフターコロナに向けた新しいマイカーのアイデアもいくつかでましたが、これをお読みの関係者の皆様に是非実現していただければと思います。アイデア料はいらないので(笑)。