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最終更新日:2019.12.03 公開日:2019.12.03

シューティングブレークとステーションワゴンはどこが違うのか

キャビン(乗車スペース)と大容量の荷物搭載スペースが一体となったボディに、大きな開口部のリアゲートを備えたクルマが「ステーションワゴン」といわれてきた。しかし、これを「シューティングブレーク」とするメーカーもある。両者の違いはどこにあるのだろう。

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セダンに大きな荷物を積みたい

 多くのステーションワゴンは、大きな荷物を積めるラゲッジスペースを確保するために、室内とトランクルームを一体化して、ルーフを直線的に後方へ伸ばしている。だから、ステーションワゴンには直線的なボディラインのものが多い。実用的というイメージを持っている人も多いだろう。

リアゲートを開くと、大容量のラゲッジスペースのあるステーションワゴン。開口部がセダンのトランクルームより大きいので、スーツケースやゴルフバッグなどの大きな荷物の出し入れが楽になる。

デザイン重視のステーションワゴン

 ステーションワゴンのユーザーには、アウトドア用具をたくたん積みこんでレジャーに利用する人も多い。その中には、もっとデザインを重視したステーションワゴンの需要はある。そう推測しているはメーカーは多くある。

 たとえば、メルセデス・ベンツは、ベースを4ドアセダンではなく、流線型のボディラインで構成された4ドアクーペをベースとしたステーションワゴンタイプのクルマを、「シューティングブレーク」とした。

メルセデス・ベンツCクラスのステーションワゴン。ベースは4ドアセダンだ。ルーフのラインは直線に近いものとなっている。

メルセデス・ベンツCLAのシューティングブレーク。ベースは4ドアクーペだ。ルーフのラインが後方に向けて少し下がっている。リアウインドーもステーションワゴンと比べて傾斜しており、ルーフと連続するようなラインを描く。またサイドプレスラインやサイドウインドーに緩やかな曲線を用いるなど、流れるようなラインのデザインとなっている。

 クーペベースだけではなく、プジョーからは、508SWのようなセダンベースで、デザインを重視したシューティングブレークスタイルのステーションワゴンも登場している。デザインを重視したステーションワゴン。それが、近年のシューティングブレークの定義となりそうだ。

プジョー508SWは、「シューティングブレークとも呼ばれる、スポーツクーペのようなスリークな佇まいを持つ(中略)ワゴンスタイル」というデザインコンセプトのクルマ。4ドアセダンをベースにしているが、リアウインドーに傾斜をつけているなど、各部に流れるようなラインをあしらっている。

 一方、日本では1990年代ころに、ホンダ アコード・ワゴンや日産プリメーラーワゴン、スバル レガシィなどのデザインを重視したステーションワゴンが散見された。しかし当時はそれをシューティングブレークとは呼んでいなかった。

1994年型のホンダ アコード・ワゴン。ラゲッジスペースのサイドウインドーなどにデザインを凝らしている。アメリカの工場で生産されたモデルの1つだった。

2003年モデルの日産プリメーラワゴン。ルーフからリアゲートへのラインが流れるようなデザインだ。2001年のモデルチェンジで、このデザインとなった。

 これ以降、日本ではミニバン・SUVの人気や、リーマンショック以降はラインナップの見直しなどがあり、ステーションワゴンのラインナップが拡張されることは少なくなった。

シューティングブレークのご先祖様

 そもそもシューティングブレークってどんな意味?という疑問が湧く。それは馬車の時代にルーツがある。元来クルマのボディタイプを示す、クーペやセダン、ステーションワゴン、バンなども馬車の時代にルーツがある。

 シューティングブレークとは狩猟用の馬車のことで、クーペの馬車を改造したものだった。

 馬車におけるクーペのデザインは、2ドアで2席の箱型車(御者席は車外)。それに狩猟用品を積めるようにキャビンやラゲッジスペースを拡大するなどの改造をしていたのが、シューティングブレーク。

 所有している人たちは貴族などの富裕層だった。そのデザインは所有するオーナーのステータスを物語るスタイリッシュさも求められた。

 だから、ただラゲッジスペースを拡張するだけでは満足してくれない。そこでコーチビルダーと呼ばれるカスタマイズ工房などで製作されたスタイリッシュな一品ものが、シューティングブレークと定義されるようになった。

 その系譜からクルマでも、スポーツタイプなどの2ドアクーペの後部のラゲッジスペースをアウトドア用品が積めるようにカスタマイズしたものをシューティングブレークと呼ぶようになった。

 その1つとして、20193月に発表されたスポーツクーペのアストンマーティン ヴァンキッシュ ザ・ガードの1モデルにも、シューティングブレークと名付けられたものがある。

アストンマーティン ヴァンキッシュ ザ・ガード シューティングブレークは、ルーフからリアウインドーをダブルバブルルーフに変更している。ダブルバブルルーフはトヨタGRスープラなどに採用されている、運転席と助手席の頭上部分のルーフが山型に盛り上がっているデザインのこと。

ダブルバブルルーフのため下のクーペと比較して、リアウインドー周辺の高さが増している。ダブルバブルルーフはスポーツカーやレーシングカーで古くから採用されており、ラゲッジスペースを拡大しながらもスタイリッシュさを演出、というシューティングブレークの定義を満たすことに一役買っている。それをカーボンパターンとし、後端にスポイラーを装備したことでスポーツカーらしさも演出。

シューティングブレークと同時発表されたヴァンキッシュ ザ・ガードのクーペタイプ。

ヴァンキッシュザ・ガード シューティングブレークの俯瞰写真。ダブルバブルルーフ中央はガラスがはめ込まれており、パノラマルーフとなっている。ダブルバブルルーフに変更しただけでない演出が至るところに施されている。しかしベースとなる2ドアクーペのボディラインを乱さないことも、シューティングブレークでは重要な要素。

なぜシューティングブレーク?

 なぜメルセデス・ベンツとプジョーは「シューティングブレーク」と呼んだのだろうか? それは両者のデザインコンセプトに見て取れる。流れるようなボディラインへのこだわりがあり、馬車時代から続くシューティングブレークのボディラインへのオマージュが込められている。

 4ドアセダンのステーションワゴンを、よりスタイリッシュにデザインするという動きは、各メーカーで1990年代から起きていた。しかし、それを端的に示すキーワードが存在しなかった。

 従来の価値観を新しいデザインコンセプトで刷新したクルマが登場するとき、新たなキーワードが添えられることが多い。それによって市場評価が変わることもある。

 このようなパラダイムシフトを起こすには、デザインコンセプトを端的に示すキーワードが必要となる。自動車メーカーやデザイナーは、新車開発ではデザインコンセプトとともに求心力のあるキーワードも探し続けているのだ。

 もし新車発表で聞きなれないキーワードと遭遇した際には、そのルーツを辿ってみよう。そこから自動車デザイナーの真意が見えてくるはずだ。

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