世界一黒い黒をまとった車!光を吸収する漆黒のBMW X6が登場!
独BMW社がフランクフルト・モーターショー2019で、新型「X6」のワンオフモデルを披露した。「世界で最も黒い黒」である「ベンタブラック」の車への採用は世界初。立体がその陰影をなくし、まるで平面であるかのように見えてしまう「黒」をご紹介しよう。
画像:BMW社
「ベンタブラック(Vantablack)」とはSurrey NanoSystems社製の特殊塗料である。可視光の最大99.965%を吸収することから、ブラックホールに最も似ているとも表現される「世界で最も黒い黒」だ。
当初は衛星機器の表面にコーティングすることによって余分な光を効率的に吸収するためなど宇宙事業向けに開発されたが、ユニークな物理的特性と光学的特性により広範囲な用途に使用されている。実質的にすべての入射光を吸収するので、例えば望遠鏡の感度を高め遠いところにある微かな星の光も観測しやすくすることができるのだ。
9月12日~22日まで開催されたフランクフルト・モーターショー2019にて展示された「BMW X6」には、「ベンタブラック VBx2」という反射率を1%程度に抑えた仕様の塗料が塗布された。光の反射率がほとんど無いため、車のデザインの凹凸も目にすることができなくなり、見る人をまるで2次元の絵を見ているかのような感覚に陥らせる。
凹凸がありさまざまな表情を見せる車のデザインに対して、それらを不可視化してしまう塗料は適さないとの見方もあるが、デザイナー責任者のフセイン・アル・アター氏は「全体のシルエットやプロポーションを重視している」と語る。
光や反射に左右されることなく、X6ならではの特徴的で独特なシルエットだからこそ、自動車のデザインという基本的な部分に焦点を当てることが可能になるという。
また、Surrey NanoSystems社は今までに数々の自動車メーカーからのオファーを断ってきた。しかし、「BMW X6のデザイン性溢れる印象的なフォルムが、ベンタブラックにぴったりな車だと感じた」と今回のコラボレーションを決めた。
ところで「ベンタブラック VBx2」は人工物だが、自然界にも最大で99.95%という驚異の光吸収率を持つ存在がある。その存在はパプアニューギニアに生息する約40種類の鳥たち。「ゴクラクチョウ(極楽鳥)」とも呼ばれる「フウチョウ」は、まるで宝石のように鮮やかな色の飾り羽がとても美しい鳥だが、周りの羽はまるで空間にぽっかり穴があいたかのような漆黒さだ。
オスの成鳥がユニークで愛らしい求愛ダンスを行うことでもよく知られており、ダンスの際に漆黒の羽の中にある鮮やかな飾り羽を見せアピールをしてメスを引き付ける。そうしてより美しく飾り羽をアピールできたオスがメスに選ばれ進化を続けてきた結果、現在のような個体が残ったのではないかという。
それはあたかも新型「BMW X6」の、伝統のキドニーグリルやヘッドランプ、ウインドウガラスの美しさが漆黒とのコントラストで美しく際立っている点と何だか似ているではないか。
見る人の3次元感覚をまったく失わせてしまうベンタブラックを使用したペイントが、市販車に採用されるにはまだまだ課題があるという。しかしBMW社は「将来的にはオプションに設定することを検討している」そうだ。
美しさを競い合い、メスの目をくぎ付けにするために極楽鳥が持つ黒。そんな黒のような、見る人を魅了してやまないであろう漆黒の車・「BMW X6 Vantablack」の今後の動向が楽しみだ。