レクサスの最高機密部門、デザインセンターでは一体何が行われているのか?
デザインはクルマの魅力の大きな部分をしめる。それは高級車になるほど重要になるといえるだろう。たとえば、代表的な高級車の一つであるレクサスのクルマはどのようにデザインされているのか。レクサス最高機密部門のデザインセンターを、モータージャーナリストの小川フミオが訪ねた。
デザインでみせる路上の存在感
デザインはクルマの魅力と切っても切れない関係にある。でも意外と、デザインの本当のところは知られていない。クルマはどうデザインされているのか。
2019年6月に訪れたのは名古屋にあるレクサスのデザインセンター。私にはレクサス車のデザインは、米国の路上で見かけると、よく目立つと思う。より大きなサイズの米国車やドイツ車に囲まれていても、存在感で決して負けていない。
具体的なデザイン上の特徴でいうと、たとえばRXのスタイリングは、特徴的なスピンドルグリルからはじまって、流れるようなキャラクターラインを後ろまで描き、大きな躍動感をもたらしているところにある。でも実際は、光の反射とか、車体各所のカーブとか、素人には分かりにくいデザインのキモのようなものがある。
デザインセンターでは、プレゼンテーションが用意されていた。また、デザイナーが専用のデザインツールを使ってレンダリング(スケッチ)をしていたり、フルスケール(実物大)のクレイモデルをモデラーという専門のひとが削って、なめらかな面と線を作る様子も見せてくれた。
クルマのデザインには2つある?
今回とりわけ興味を惹かれたのは、本当の意味での”クルマのデザイン”には、クルマを描いたその先にもうひとつ重要な仕事があるとわかったことだ。クルマのデザインには、大きくいうと、ふたつの部署が関わっている。ひとつはデザイン、もうひとつは生産技術である。
デザインがほぼ確立した時点から、生産技術の担当者の出番である。美しいかたちでも実際に作れなくては意味がない。しかもいま車体の軽量化(省燃費化)に貢献するアルミニウムの使用を拡大しようとしている。だがアルミニウムは軽いいっぽう、生産面では問題のある素材だという。曲げに弱いからだ。
それでもデザイナーが美しさのために複雑な面や線を作ったとき、アルミニウム板を小さく曲げなくてはいけないカーブ(専門用語では円の弧”radius”からとった”R”という)は多用されがちだ。
「小さなRだとプレス機にかけて形を作るとき、アルミが耐えきれずに割れてしまうんです。だからといって、このデザインはできません、とは言いたくない。デザインが素晴らしいかたちを作ってきたら、なんとかそれを量産できるように工夫するのが、私たちの仕事だと思っています」
取材の現場で生産技術の担当者がそう語った。ちなみに生産技術のトップは、デザインのトップと同格である。力関係が同等だからこそ、デザインとともに切磋琢磨できるという。
生産技術では、小さなカーブをもった板をどうプレスするかに知恵を絞る。そこが各自動車メーカーの個性になる。「常に考えるのは、部品の精度、(プレスした面が歪んでいないなどの)面品質、それに生産性です」とさきの担当者は語る。
「もっとも大変だったのはLCのドアのアウターパネルです。張り出し感を強調したいというのがデザイナーの意向でした。私たちは試行錯誤して、アルミパネルをプレスしてデザイナーの思いどおりの面を作る手法を開発しました」
どんないいデザインでも生産できなければ、画に描いた餅と同じである。現場に同席したレクサスインターナショナルの澤良宏プレジデントも「すべての部署が協力しているから、すっきりと奥深い、というテーマを追究できているんだと思います」と話してくれた。