マツダのベクタリング技術は、他社とは違う。ベクタリングって何?
マツダは10月11日、「G-ベクタリング コントロール プラス (G-Vectoring Control Plus、以下GVC Plus)」を開発したと発表した。GVC Plusは、新世代型の車の運動制御技術だ。2016年に登場した運動制御技術の「GVC」を進化させた第2弾となる。
ベクタリングって何?
そもそもGVCとは何か。名前に「ベクタリング」とつくことから、車に詳しい読者なら、自動車各社が導入し始めた「トルクベクタリング」の一種と思うかもしれない。トルクベクタリングの技術は以前から導入されていた。特に「速く走るため」に作られたフルタイム4WD車では、速度とハンドルの舵角から車の状況を検知、デフの作動を細かく制御して、より安定的かつより速くコーナリングするための技術として馴染みのあるものだった。
最近自動車各社が導入しているトルクベクタリングは、上図のようにカーブを曲がるときに、車の内側のタイヤにブレーキをかけることで相対的に外側のタイヤの回転力を上げ、コーナリングしやすくするというものだ。車体の状況に応じて4輪の回転をコントロールするESCと同様の技術だ。加えてエンジンの出力制御も同時に行うために、この開発には高度車両制御技術が必要で、かつ手間もかかる。
一方、GVCの発想は、これらトルクベクタリングとは一線を画す。技術的なアプローチが異なるのだ。車は、上図のように、前輪に荷重がかかると応答性(ハンドルを切ったときに車が向きを変え始める速さ)が向上する。反対に、後輪に荷重がかかると車の安定性(まっすぐ走ろうとする力)が上がる。この基本的な特性を利用したものだ。
車に搭載されたシステムがドライバーのハンドル操作を感知すると、エンジントルクをわずかに絞る。そうすると前輪方向に荷重がかかり、車が旋回しやすくなる。一方、カーブ出口ではエンジントルクを少し増やして、車体をいち早く直進状態に戻しやすくするのだ。このトルクの増減は緻密にコントロールされていて、かつその増減量はわずかなので、普通のドライバーが普通の道を走っている分には、制御が介入していることはまず分からないだろう。だが、ドライバーは快適に反応することから、「いい車に乗っている」という実感は持ちやすいはずだ。さらに雨天や雪道など、路面状況が悪くなっても強みを発揮する技術でもある。
この仕組みは、理屈はシンプルなのだがこれまで実現しなかった。それはエンジンで制御するよりブレーキで制御したほうが簡単で効果を体感しやすかったからだ。これまでになかった、精緻に制御ができる新型エンジンをいくつも持つマツダだから可能になった技術ということができる。さらに、このシステムは複雑な機構を持たないので、安価に搭載できるというメリットもある。突き詰めていくと、「速さ」にも応用できる技術だが、マツダではあくまでもドライバーが気持ちよく走れるようにするために導入したとする。
こうした開発の方向性は、今回登場したGVC Plusでより明確になった。GVC Plusは、これまでのGVCにブレーキによる制御も加えたものだ。ドライバーのハンドルを戻す操作を感知して、外側のタイヤをわずかに制動する。これによって、車を直進状態へ戻そうとする力を与えることで、より運転がしやすくなる。緊急回避時や滑りやすい路面での運転操作でも安心感が増すはずだ。
マツダではGVC Plusを、受注を開始したマイナーチェンジ後の「CX-5」(写真上)に搭載、順次他の全モデルへも搭載する予定としている。