日産「フォーミュラE カラーリングコンセプト」
2018年12月からスタートするフォーミュラEのシーズン5に、日産が投入する予定のマシンのカラーリングとして発表したのが、この「フォーミュラE カラーリングコンセプト」。「オートモビルカウンシル2018」の日産ブースにて撮影した。
日産は2017年10月25日に、2018年12月からの開催が予定されているEVのF1こと、フォーミュラE選手権のシーズン5(’18-’19シーズン)への参戦を発表。そして2018年3月のジュネーブモーターショーでは、そのシーズン5に投入が予定されている第2世代の新型マシン用カラーリングを「フォーミュラE カラーリングコンセプト」として世界初公開した。
このカラーリングは、日産の日本グローバルデザイン本部でデザインされた。デザインチームは、マシンの形状が電動の鳥が超音速で飛ぶようなイメージであることから、ドップラー効果の超音波パルスと、ソニックブーム(衝撃波)をイメージしてデザインしたという。
「フォーミュラE カラーリングコンセプト」を正面から。フロントタイヤを覆うエアロパーツ、コックピット左右に張り出したウィング状の構造など、F1を初めとする従来のオープンホイールのシングルシーターマシンとはまた異なるデザインが特徴的。ちなみにノーズにある「ABB」とはレースそのものの冠スポンサーでもある。スイスに本社を置き、産業用モーターやインバーターの世界屈指の大手。その下の「Julius Bär(ジュリアス・ベア)」は、スイスに本拠地を置くプライベート・バンク。
リアウィングの形状も特徴的で、お馴染みの大型ウィングはなく、リアホイールのタイヤハウス上に小さくあるのみ。大型ウィングは大きな乱流を発生させるため、後続車に与える影響が強く、F1などでは前走車を抜きにくい要因のひとつとされている。それを極力避け、レースにおいて最大の醍醐味である抜きつ抜かれつをより増やそうという狙いである。
「フォーミュラE カラーリングコンセプト」を真横から。マシン側面から展示用の台上まで、デザインコンセプトのソニックブームの衝撃波のような光の演出がなされていた。「NISMO」は日産のモータースポーツ部門で、実際のレースもNISMOが担当する。NISMOとは、NISsan MOtorsports internationalの略。
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シーズン5のフォーミュラEマシンの特徴は?
フォーミュラEはシーズン5から大きく変わる!
フロント部分のアップ。複雑極まる3次元曲面で造形された現在のF1の有機的ともいえるデザインとは大きく異なり、1980~90年代のF1のような非常にシンプルなフロントウィング。ノーズ側面の「RICHARD MILLE(リシャール・ミル)」は、F1ドライバーなど超一流アスリートたちだけが身につけていることで知られる、航空宇宙産業などの先端技術を用いたフランスの超高級機械式時計ブランド。「LEMO(レモ)」は創業70年の歴史を持つスイスのコネクターメーカー。
フォーミュラEはシーズン5からマシン(シャシー)が一新され、第2世代となる。全チームが同じマシンを使用するのは、シーズン4までと同様だ。シーズン4まではひとりのドライバーが2台のマシンを乗り換えてレースを行っていたが、シーズン5からは45分+1周となり、1台のマシンでレースが行われることになる。
シーズン5のマシンのディメンションは、全長5160mm×全幅1770mm×全高1050mm。重量に関しては、ドライバーとバッテリーを含めた最低重量が900kgで、バッテリー重量は385kgとしている。
パワートレインやバッテリーシステムはチームが各自で搭載できる。日産は「リーフ」などで培ってきたEV技術「INTELLIGENT MOBILITY」を活用したパワートレインやバッテリーシステムを搭載して戦う。
パワートレインのスペックは、レース中で通常使える最高出力がシーズン4から20kWアップして200kW。実際の最大出力は、こちらはシーズン4から50kWアップの250kWだ。なぜ50kWも余力を残してあるのかというと、フォーミュラE特有のファン投票システム「ファンブースト」において、上位3名だけが出力を短時間上げられるルールのためで、エキストラパワーとして残してあるというわけだ。
シーズン5からはレースでの新ルールも導入
また、シーズン5からはコースの一部に「アクティベーション・ゾーン」という特殊なエリアが導入される。同ゾーンを走行する際は、出力を225kWまでアップすることが可能だ。コックピットを前面のドライバーを保護するデバイスである「ハロ」にはLEDライトが備えられており、通常走行とアクティベーション・ゾーンでの走行では、ライトの点灯で識別できるようにするという。
加速性能は時速0→100km(ゼロヒャク)が2.8秒で、最高速度は時速280km。最大回生力は250kWと発表されている。
リアセクションを下方から。カーボン製のディフューザーの形状がよくわかる。EVのため、エキゾーストパイプがないのは当然。レーシングカーやラリーカーでお馴染みの大型リアウィングがない、少々変わったリアビューだ。
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日産「フォーミュラE カラーリングコンセプト」をアップで!
「フォーミュラE カラーリングコンセプト」の細部を見てみる
続いては、各部のアップを紹介しよう。
タイヤはフォーミュラEのシーズン1からミシュランのワンメイクで、「パイロットスポーツ EV」を装着している。通常、オープンホイールのモータースポーツでは13インチのタイヤが使われることが多いが、市販車用に技術をフィードバックしやすくするため、フォーミュラEでは18インチとなっている。ブレーキシステムは確認できず。
フロント部分を後方から。スリックタイヤではなく、トレッドパターンを持つタイヤを装着しているのは、フォーミュラEでは、使用できるタイヤは1種類とルールで決められているから。ウェットコンディションになっても対応できるよう、一般車と同様に溝の入ったタイヤを装着しているのである。ミシュランは、この「パイロットスポーツ EV」で得た技術を活かした市販スポーツタイヤを販売している。
サイド部分のアップ。フォーミュラEマシンはEVのため、パワートレインに空気(酸素)を取り込む必要はないが、バッテリーが発熱してしまう問題があるため、クーリングを必要とする。バッテリーの必要以上の発熱は出力低下につながり、その結果としてタイムの低下につながる。そのため、サイドのエアインテークと、コックピット後方のインダクションポッドが存在し、そこから空気を取り込んで冷却している。
リアタイヤ周辺。ホイールの「OZ Racing」とは、イタリアのOZ(オーゼット)社のブランド名。リアタイヤ前の「#FANBOOST」とは、フォーミュラE独自のファン投票システムのこと。人気投票上位3名のドライバーは、レース中に前走車を抜いたり、後続車を突き放したりするためにエキストラパワーを利用できる。ただし、バッテリーが過熱してその後に出力が落ちてしまう危険性があるなど、一長一短となっている。
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最後はマシンスペック
日産のフォーミュラEマシンのスペック
日産は今回の参戦に伴い、日本でもフォーミュラEのレースを開催すべく活動しているとされる。フォーミュラEは内燃機関を搭載した既存のモータースポーツと比べると格段に騒音が小さいため、全レースがすべて大都市で一般道を閉鎖して作ったシティサーキットで開催中だ。日産は、グローバル本社がある横浜での開催を目指しているという。現在のところ、シーズン5では日本での開催は発表されていないが、2019年1月26日に決勝が開催される第3戦は、開催国も開催都市も未発表となっている。
最後は、現在発表されている、日産のフォーミュラEマシンのスペックをまとめておく。
ちなみにドライバーや技術パートナー、スポンサーなど、日産のチーム体制は2018年後半に正式発表の予定だ。ただしドライバーに関しては、日本人の日産系若手ドライバーの高星明誠(たかぼし・みつのり)選手がウワサされている。
その理由は、2018年1月14日にモロッコ・マラケシュで開催されたフォーミュラEルーキーテストに参加したからだ。高星選手は、早ければシーズン5から日産チームのドライバーとしてラインナップされるかもしれない。正式発表を待とう。
【スペック】
全長×全幅×全高:5160×1770×1050mm
最低重量:900kg(ドライバーとバッテリーを含む)
バッテリー重量:385kg
タイヤ:ミシュラン製専用18インチ
【パワートレイン仕様】
レース中に通常で使用可能な最大出力:200kW
最大出力:250kW
時速0→100km:2.8秒
最高速度:時速280km
最大回生力:250kW