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最終更新日:2018.07.10 公開日:2018.07.10

技術屋魂の塊、スバル1000

「スバル1000」(1966~1969年)全長×全幅×全高:3900×1480×1390mm 軸距:2400mm トレッド:前1225mm/後1210mm 車重:670kg エンジン:4サイクル水平対向4気筒縦置き72.0×60.0=977cc 圧縮比:9.0 出力:55ps/6000rpm トルク:7.8kgf m/3200rpm 最高速:130km/h 変速機:4段MT サスペンション:F・ウイッシュボーン・トーションバー/R・トレーリングアーム・トーションバー+コイル ブレーキ:F・インボードドラムR・ドラム タイヤ:5.50-13-4P 価格:495,000円~

理想を追求する中から生まれたスバル1000

 富士重工(現スバル)は、まさにこの連載テーマである「哲学」のあるメーカーである。スバル360がそうだったように、このスバル1000も理想を求め、それを実現させた。

 360は、RR方式とタマゴの殻の発想で、わずか3mの全長に大人4人が無理なく収まるパッケージングを実現。1000では一転して、まだ他車での採用例が少なかったFF方式を採用した。その主な理由は、スペース効率、軽量化、静粛性、そして安定性のためである。

 FFを採用するにあたって、初期から水平対向エンジンと、縦置トランスミッションによる等長ドライブシャフトの開発を掲げていた。当時、FFの最大の問題は、ドライブシャフトの等速ジョイントにあった。そこで東洋ベアリング(現・NTN ) と共同で、画期的なD・O・J(ダブル・オフセット・ジョイント)を開発した。

 ブレーキもデフの横に配したインボードとし、バネ下を軽くするだけでなく、キングピンとタイヤの中央線を一致させたセンターピボット式ステアリングを実現した。

 サスペンションは、360と同様にトーションバーを採用。これは、スペース効率とコストダウンを両立させるためだ。また、登坂時などでのFF車の弱点である前輪の駆動力不足を補うため、スペアタイヤやジャッキ、工具までをエンジンルームに収め、フロント荷重を増した。さらには、完全なフラットフロアを実現するため、排気管を運転席側のサイドシルに収めるなど、航空機的な考えを取り入れた設計を行った。それは空気抵抗低減のためだが、雪道で腹を擦ってもソリのように走ることができるという副次的効果もあり、そのためラリーでも強かった。これらと、フラット4による低重心、2400mmの長いホイールベースの相乗効果によって、従来のFF車の常識を覆す、滑らかで正確な操縦性と乗り心地を実現した。

技術屋魂の具現化はスバル1000にとどまらなかった

 こうした、他社ではやっていなかった技術の開発経緯を見ると、スバルの技術者は車にとって何が大切なのかが分かっていて、だからこそ独自の道を切り開くことができたのだと思う。開発を指揮したのは、スバル360を成功させた百瀬晋六である。デザインも、360を手掛けた佐々木達三をアドバイザーに迎えた。

 このスバル1000の道を追うように、FF化が世界に浸透していった。アルファスッドやシトロエンGSはその典型例で、まさに”そっくりさん”である。彼ら他メーカーの開発現場には、スバル1000のテスト車両が多く見られたというのは有名な話。

 ところが、理想的な車ができたものの、当時のスバルは販売・サービス部門が脆弱で、カローラ、サニー、ファミリアなどがしのぎを削る激戦区での苦戦を強いられた。これを助けたのが「スバリスト」と呼ばれる熱心なスバルファンである。彼らは優れたスバルの技術に共感し、応援したのだ。また伊藤忠商事との販売提携も功を奏し、1966年5月の発売当初はわずかな台数だったものの、3年後には月販4000台を超え、カローラ、サニーに続く勢いとなった。

 現在は、スバルというと4WDのイメージが強い。60年代、東北電力は雪道に強いスバル1000を使っていたが、さらに雪深い現場を巡回するためには4WDが必要だった。そこで宮城スバルに、4WDの共同開発を申し出た。70年のことだ。それを受けた いちディーラーの宮城スバルは、スバル1000バンをベースに、他社の車であるブルーバードのリヤ・デフを組み合わせ、4WDを試作した。それがなかなかの性能であったことから、本社・群馬試作所で生産化に向けてのテストが行われ、71年の東京モーターショーにスバルff-1 1300Gバン4WDとして出品した。それが、今に続くスバル車イメージのスタートとなった。

文=立花啓毅
1942年生まれ。ブリヂストンサイクル工業を経て、68年東洋工業(現マツダ)入社。在籍時は初代FFファミリアや初代FFカペラ、2代目RXー7やユーノス・ロードスターといった幾多の名車を開発。

(この記事はJAFMateNeo2014年12月号掲載「哲学車」を再構成したものです。記事内容は公開当時のものです)

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