前2輪の3輪バイクがちょっといい。そのよさとは?
バイクの魅力には、風を感じて走れることや、四輪車に比べて車体がコンパクトなので機動力に優れること、「人車一体」感が高いことなどがある。逆にこれらの魅力は、デメリットとも表裏一体である。風を感じるということは、体がむき出しで移動しているから味わえるわけで、だから暑さ寒さと闘わなければならない。車体がコンパクトということは、他の交通から見落とされる可能性が高い。人車一体感は、車体をリーン(傾斜)させながら曲がるからこそ得られるわけで、つまり転倒の危険性は常に付きまとう。ライダーがもっとも恐れていることのひとつが、この”コケる”特性だ。まっすぐ走っていても、曲がっていても、止まろうとしても、止まっているときにだって、コケる可能性はある。
醍醐味を味わいながら、転倒しないものができないかと考え出されたのが、前輪を2つ備えたバイクだ。後輪は普通のバイクと同じように1輪で、エンジンで駆動する。前2輪でもしっかりリーンする機構が備わっているので、人車一体感も損なわれない。通常のバイクに比べて全幅もほとんど拡がっていないので、機動性も落ちない。かつ、風を感じて走ることができるという優れものだ。
最初にこの”前2輪バイク”に飛びついたのが欧州のライダーだ。石畳敷きの路面は日本の舗装路よりも走りにくく、路面電車が多く走る場所ではそのレールも危ないそうだ。特に雨が降ると、これらがすこぶる滑りやすくなるのだという。そこへきてこのバイクなら、リーンさせてもフロントのグリップ力が高く、安心して走ることができる。滑りやすい路面でもしっかりブレーキングできるのもこのバイクの特徴だ。止まっているときにはリーン機構をロックすることで、直立状態を保つことができるモデルもある。
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この3輪バイク、日本ではどうなの?
この3輪バイク、日本ではどうなの?
日本でもこの特徴は存分に発揮することができる。特に交通の往来が多い都市部では、歩行者や自転車、車の不意な飛び出しに備える必要がある。急な危険に対処するために必要以上にブレーキを強くかけてしまうと、普通のバイクの場合はタイヤがロックして転倒するが、前2輪バイクならこの心配も少ない。滑りやすい路面上で曲がったり、急な横風を受けたりといった過酷な場面でも比較的安定して走ることができる。
そういったモデルを、国内メーカーではヤマハが出している。「TRICITY125」(写真上右)と「TRICITY155」(同左)だ。小排気量で車重が軽いため、乗り味は軽快。かつ曲がっている最中の安定感は非常に高い。維持費を安くしたければ125ccを、高速道路も走りたければ155ccを選べばよいだろう。ちなみに、運転には排気量に応じた自動二輪の免許が必要だ。
TRICITYは一方で手練れのライダーには、パンチ力が物足りないと感じる人も多そうだ。だが、今年中にバケモノみたいな前2輪バイクが同社より登場する予定だ。「NIKEN(ナイケン)」(写真上)という名で昨年の東京モーターショーでも公開されていたので覚えているかたも多いだろう。
外観で圧巻なのが、フロントフォークが4本!(写真上)というところだろう。搭載されるのは直列3気筒の850ccエンジンで「非常にエキサイティング」と同社では発表している。ビッグバイクをより安全に乗りたい人には注目の一台になりそうだ。
2018年5月9日(JAFメディアワークス IT Media部 伊東 真一)