2億5000万年後の大陸、JAMSTECシミュレーション
画像1。(a)は、アメイジアが誕生していく様子。(b)は、地球表面のプレート運動を考慮しないシミュレーション結果。
人間の時間感覚からすると大地は不動のものであり、地球が誕生して以来、大陸の配置は現在の世界地図の通りだったかのように思ってしまう。
地球には少なくとも過去に3回は超大陸が存在した
しかし、真実は異なる。アフリカ、オーストラリア、南北アメリカ、南極、ユーラシアと6つの大陸があるが、大陸はそれぞれが現在も移動をし続けており、億の単位で過去にさかのぼると、少なくとも3回、5~8億年ごとにすべての大陸、もしくは複数の大陸が集合した「超大陸」が存在したと考えられている。
中でも有名なのが、最も新しい超大陸であり、最も研究が進んでいる、2億5000万年前から2億年ほど前まで存在したとされる「パンゲア」だろう。その証拠のひとつとされるのが、大西洋を挟んだアフリカ大陸の西岸と南アメリカ大陸の東岸が、パズルのように組み合わされるというものだ。
画像2。超大陸パンゲア。JAMSTEC「話題の研究 謎解き解説」のページより抜粋。
地球表面は10数枚のプレートからなり、それらは地球内部のマントルの3次元的な流れが生み出す力によって相対的に動くことから、プレートの上に乗っている大陸も移動し、くっついたり離れたりを繰り返すのである。
こうした研究は世界中で行われているが、日本において力を入れている機関のひとつが、JAMSTEC(海洋研究開発機構)だ。
JAMSTECは大陸移動のシミュレーション研究なども実施中
研究の一環として、2015年2月には、地球深部ダイナミクス研究分野の吉田晶樹主任研究員らにより、スーパーコンピューターを用いた、3次元全球内におけるマントル対流のシミュレーション結果が発表された。
約2億年前から始まったパンゲア超大陸の分裂から現在までの大陸移動と、地球内部におけるマントルの流れを再現することに世界で初めて成功したとしている。
吉田主任研究員らが2015年に発表した、2億年前にパンゲア超大陸が分裂を開始して現在に至るまでを描いた3次元シミュレーションCG。
2億5000万年後までには超大陸「アメイジア」が誕生!
そして2016年8月4日に吉田主任研究員らが発表を行ったのが、現在から約2億5000万年後までの大陸移動をシミュレーションした結果。それにより、超大陸「アメイジア」が誕生するという説が大きく裏付けられた形だ。
アメイジアはユーラシア、アフリカ、オーストラリア、北アメリカの4大陸が北半球で集合して誕生する超大陸とされ、1990年代初頭にカナダのポール・ホフマン博士によって提唱された。その名称はアメリカとアジアがくっつくことを意味する造語である。
ホフマン博士が提唱した際は、現在のプレート運動の様子や地質学的な情報から予測されたものだった。
それから四半世紀が経ち、その間に膨大な地質学的証拠が蓄積され、また地球内部ダイナミクスの研究も著しく発展。それにより、今回のシミュレーション結果が出る前から、現在では遠い未来に誕生するであろう超大陸の有力候補のひとつとされてはいた。しかし、確証がないのもまた事実だったのである。
地球の内部はまだまだ謎が多い
現在のプレート運動の通りに時間を進めていけば、大陸移動の未来を予測することは簡単に思えるかも知れない。しかし、ことはそうは簡単ではないのだ。
プレート運動はマントルの運動によって引き起こされるわけだが、そのマントルの運動は地球内部の活動であり、特に深部になるほど直接探査できない領域だけに不確かな部分もまだまだ多い。
しかも、プレート運動を含めた地球表層の運動と、内部のマントルの活発な熱対流運動は密接に相互作用をしているため、非常に複雑だ。そのため、現在の地球表層の運動が、必ずしもそのまま数億年後まで続くとは限らないという。
そこで必要となったのが、現在人類が持っている地球物理学的観測データを理論の拘束条件とし、地球内部の熱対流運動と表層の運動を支配する方程式を解くシミュレーションだったのである。
そして吉田主任研究員らがシミュレーションを2015年に完成させ、それを今回は未来に対して用いた結果、2億5000万年後までにアメイジアが形成されることが判明したというわけだ。なお、南アメリカ大陸や南極大陸は現在の位置からほとんど動かないことも確認された。
また、「プレート運動がない」という非現実的な条件以外では、条件を変えてもアメイジアは形成される結果が出たという。プレート運動がなければ、当然すべての大陸が大きく動くことがないため、画像1(b)の通り、現在からそれほど変わらないとしている。
2億5000万年後までの大陸移動の3次元シミュレーションの様子。
日本列島はユーラシアとオーストラリアの両大陸に挟まれる!
気になる日本列島の運命だが、アメイジアの形成途中の約1億5000万年後までには、北半球にとどまり続けるユーラシア大陸と、南半球から高速で北上するオーストラリア大陸の間に挟まれ、アメイジアの一部となることが予測されたという。
なおシミュレーションに寄れば、年間8cmの速度で近づいているハワイ諸島は、約5000万年後に日本に接近するものの、ぶつかるところまでは近づかない様子。歩いてハワイに行けることを楽しみにしていた人にとっては、残念な結果となった。
その代わり、南アメリカと南極以外の大陸とは地続きとなるので、そのときまで日本という国や日本人という人種が存在していれば(人類そのものが存在しているかどうかもわからない)、日本人にとってはクルマで行ける旅行先が大幅増となりそうだ。
同じく未来の超大陸パンゲア・ウルティマ大陸の再現が課題
なお、遠い未来に形成される超大陸のひとつとして、アメイジアと同様に90年代から提唱されているのが、将来的に大西洋が縮小してその近辺に新しい超大陸が形成され、パンゲアが再現されるという「パンゲア・ウルティマ」だ(ただし、画像3の通り、パンゲアとそっくりそのままのつながり方となるとは限らない)。
しかし、今回のシミュレーションではその可能性を実証するだけの計算解像度がないため、それが今後の課題としている。
また今回のシミュレーションは、日本列島の特徴的な構造や応力場(物質にかかる力の大きさや向き)の起源、その時空間変化を調べることにも応用でき、日本近辺で発生する巨大地震のメカニズムを解明することにも一役買うことができるとしている。
画像3。吉田主任研究員らが2015年に発表した、2億年前のパンゲア大陸から現代までの大陸移動の様子。パンゲア・ウルティマは、再び6大陸にインド亜大陸なども集合し、地球でひとつの陸地という、超大陸になる?
2016年8月18日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)
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